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□■katsuragi×Ayanami List
sleeping beauty
起床のベルより早く起きるのは今では当然のことになっているが、それにしても、定められた起床時間の数十分前に起きた、と納得するには、どう考えても官舎はしんと静まり返りすぎていた。
アヤナミが数十分前どころか二、三時間前には起き出して執務机に向かうのは各人の知る所であるが、一般の軍人より早い仕事の開始時刻であっても、普段は何らかの気配や物音がするのが常だ。
目だけを動かしてサイドテーブルに置かれた時計を見る。

午前一時五十六分。

なるほど誰も起きていないはずだ。
ふと、腕が何かに当たって、アヤナミはそちらを向いた。

「起きてしまわれましたか」

ただ穏やかな、安心感のある笑顔を浮かべて、カツラギが問うてくる。
そういえば昨夜は独り寝ではなかったのだ、とアヤナミは思い出して、身体ごとアヤナミの方へ向いたカツラギを見返した。

独り寝ではなかった、とは言っても、アヤナミの身体には妙な怠さは残っていないし、シーツの乱れも、おそらく誰の目に触れても多分全くの許容範囲だ。
ともにベッドに潜り込んだのは事実だが、その後は眠りに就いただけだった。

抱き合うわけではない。背を向けるわけでもない。ただあるべきものがあるべき位置におさまる自然さで、眠りを共有した。

「何か、悪い夢でも?」

静かな空気に配慮しているのか、囁くような声音で言いながら、カツラギの手がアヤナミの肩に触れる。
参謀長官の自室は広い。あまり私物がなく、そのせいで余計に部屋が広く見えるということもあるかもしれない。
その広い部屋の中央に位置するベッドに身体を横たえながら、アヤナミは記憶を手繰り寄せる。
だが目を覚ましてしまった今では、どんな夢を見ていたのか、そもそも夢を見ていたかどうかすら、曖昧だった。
アヤナミは仕方なしに起こしてしまったことを短く詫びようとし、―――そこで、果たしてカツラギはいつから起きていたのかという疑問にやっと思い至った。

「いや……お前は、眠れなかったのか?」

カツラギは少し困ったような顔をした。

「諜報部にいたころの名残で。隣に眠る人間が覚醒するより前に、目が開いてしまうんです」

ああ、とアヤナミは頷く。
そのような人間がいることは聞いたことがある。カツラギもそうであるとは初めて知ったが、アヤナミもややそれに近い部類の人間だ。
しかしさすがに、カツラギほどの敏感さはない。ゆっくりと意識を浮上させたアヤナミの覚醒の気配を知ったとすると、便利よりも厄介な職業病だ。特にこうした日常でさえも発揮されるようならば、余計に。

「すまぬな。起こしてしまったようだ」

「いえ。お気になさらないで下さい」

何もかもを肯定してしまえるような微笑でカツラギは首を振る。

「起床時間にはまだ余裕があります。もう少し眠られてはいかがですか?」

「ああ……」

アヤナミは再び自分を絡め取ろうとする眠気に身を委ねることにした。
肩に触れた手が心を落ち着け、アヤナミを夢の世界へ誘おうとする。

「お休みなさいませ、アヤナミ様」

穏やかな声と、近くに感じる人の体温に、アヤナミは安心して目を閉じた。

この男がそばにいるなら、今度はよく眠れるだろう。


END


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あきゅろす。
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