□■katsuragi×Konatsu List
ピエタなど何の意味もない
遠くの方で、火柱のように闇が散発的に上がっている。あれはクロユリ中佐の担当エリアだ。
目の届く範囲の敵は全て斬り伏せ、隙を見せないように刀を構えながらその方向に目を向ける。
私が持ち得なかった力は今でも少し羨ましいが、私にはこの刀がある。
自力でつかみ取ったこの力は私の矜持だ。力も、ブラックホークの一員という肩書きも、そこで得たものも、誰に譲る気もない。
「そちらは片付きましたか」
少し大きめの声で言いながら、カツラギ大佐が歩いてくる。
この人が私よりもずっと古株で、ラグス戦争以前からアヤナミ様に忠誠を誓っていたことを知ったのは、少し前の話だ。
「はい。大佐の方も?」
「あらかたは、ですね。今回は殲滅の命令は出ていないので」
むしろ定められた時間以降は手を出さず、傍観、必要がある場合のみ応戦せよという命令が下されていた。
それまでにある程度相手方の戦力を削いでおき、向こうがやけになって特攻をかけてきても、帝国軍機の強大なシールドに拒絶され、何も為せず死んでいく姿を大衆に見せて、戦意を喪失させるようにとの意図が読める。
もちろんアヤナミ様の指示ではない。その危険性を知らぬ上層部の要求だ。
視界の端を、数機のホークザイルが掠めた。
「時間ですね」
それは、手を出すな、と同義だ。
私は刀を収め、帝国軍機へ突っ込んでいく敵機へ目を転じる。
操縦には慣れているのだろう。ホークザイルは降り注ぐ弾幕をうまくかわしながら、バルスブルグ帝国軍の紋章が浮かぶ機体へと近付く。
しかし、いかんせん数や設備に差がありすぎる。一機、二機、三機。ホークザイルは墜落する。
たった一人、残った操縦士は、手榴弾か何かを爆発させたと見えて、ホークザイルとともに火炎に包まれた。
帝国軍機は鋼鉄のボディを誇るが、今は誘い込むように一か所、扉を開けていた。
敵の狙いはそこだったのだろう。機体には通用せずとも内部には被害を与えられるはずだと考えた。
しかし結果、帝国軍機はシールドに守られて、彼(もしくは、彼女)は自爆。
……なんて理不尽な。
戦闘であるとはいえ。
「覚えておきなさい、コナツ君」
いつの間にか隣に並んでいたカツラギ大佐が言う。
「彼らにも譲れないものや守りたいものがあります。そこは本当に、我々と変わらないのです」
胸に降り積もる悲しみを宥めるように、大佐の手が私の肩を叩いた。やりきれなさも苦しさも忠誠心の前に全てねじ伏せてしまえる、大人の手だった。
END
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