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□■katsuragi×Hyuuga List
我は我に在らず、我は主の僕なり。
夢中、なのだろう、きっと。










人と言うものは生きていくうちに少なくとも一度は緊急事態と言うものがやってくる。
ましてや軍人のように緊急事態に日常におく人種にとってはそれが一度や二度のものではない。
もちろん日常化している緊急事態において組織としての一個人の役割ははっきりと分かれている。

緊急事態を回避するが為指揮する者。
指揮され、時に自分自身を危険に晒す者。





そして、





緊急事態に陥らぬよう、水面下で動く者。


その者は訓練で鍛えられる能力意外にも持って生まれた才能と使命が必要不可欠になってくる。
軍人としての知識、経験、実績はもちろん、鋭い洞察力、正確な判断力、迅速な情報処理能力。
そしてなにより、他人を欺く、時に道化の様な振る舞いを求められる、忠誠心。



だが、
時にその才能が身を滅ぼしてしまう事もあるのだ。


アヤナミ参謀直属部隊少佐、ヒュウガ。


類稀なる才能を生まれながらに持ったこの黒法術士は、孤高な主を守るため、自らを危険に晒すことをよしとする。
主が危険に晒される事など無い様に。
我が身を盾とし刃とする。


完璧、不動、不変であるが為に。
主への忠誠心がヒュウガの身体を蝕む事もしばしば。
その盾にはヒビが入り、刃は今まさに刃こぼれを起こさんと悲鳴を上げている。


ならば、ヒュウガの類稀なる才能を潰さぬ為にも、アヤナミに仕える同志であると言う名目の為にも。


『私がアヤナミ様の為にヒュウガを守って見せましょう』







我は我に在らず、我は主の僕なり。








彼の立つ位置を理解しているからこそ。
彼自身を理解しすぎているからこそ。


気になって仕方が無いのです。


夢中で我を省みる余裕どころか必要を感じていないあなただからこそ。
心配をしてしまうのです。



















「うーん。これはいったいどういう状況だろうねぇ。プレイの一環としては受け入れてもいいけどさ。今居る部屋がそうでは無いって言ってるようなものだしねぇ。それともここでやっちゃうような嗜好の持ち主なのかな。それならそれでもいいんだけどさ。うーーーーーん。ねぇ、カツラギさん。その手に持ってるニンジンって俺に入れちゃう??」


戸惑っている、のだろう。
いつの間にかわかるようになっていった、この人を欺く天才の僅かな本音を含んだ表情。


「・・・・・・・おやおや。いつの間にヒュウガはこんなに『おねだり』が上手になってしまったんでしょう。入れて欲しくなってしまいましたか?」


「ちがうよ・・・・・・」


しゅんと項垂れる姿を見て可愛いと思ってしまうのは仕方の無いこと。


ヒュウガお気に入りの私のキッチンに置かれている椅子。
いつもの定位置に腰かけているものの、その腕は後ろに回され拘束されている。
頑丈な皮の紐できつく結ばれてはいるものの、ヒュウガの実力ならば容易い事だろう。

なぜ、こんな時だけ素直なんでしょうか。
いつもそうであったなら私の苦労が減るというのに。

唯一自由に動かせる足をぶらぶらと揺らしながら、文句を言う可愛いヒュウガ。


「ちがうよ、俺はそんな嗜好は持ってないし。カツラギさんの部屋に来ていきなりみぞおちに一発を食らった挙句、拘束。それは無いよね。びっくりしちゃった」


驚いては居ないでしょう?
気配を感じて一瞬抵抗しようとしたのはあなたでしょう、ヒュウガ。


「そんな可愛そうな俺をほっといて料理なんて始めるカツラギさんの嗜好が読めないな。食べ物をアレに使うのはいやだなぁ。にんじんも俺も可愛そうだよ」






自分の持ち主であるヒュウガに見向きもされない、ヒュウガの身体のほうが可愛そうですが・・・ね。


「さて、召し上がれヒュウガ。完食してくださいね。あなたの好きなものばかり用意したのですから」


テーブルに置かれる器の中に、美味しそうな香りを纏った『親子丼』と『松茸のすまし』『ニンジンの金平』

対面するようにすわり、親子丼を匙ですくってヒュウガの口元へ持っていく。


「俺、子供じゃないよ。自分で食べられる。腕を解いて」

「却下します。さぁ、口をあけて」

「・・・・・・・・・・・熱そうだよ。冷まして。火傷しちゃう」

「はいはい」

ふうふうと冷ましてやり、再びヒュウガの口元へ。
らしくなく照れるのか、ほんのり染まった目元が可愛らしい。


ぱくり。


大きな口をあけて素直に租借していく。


「美味しいですか?」

「うん、おいしい。カツラギさんのごはん好きだよ。もう一口ちょうだい」


やっと自分の身体が空腹だったと気づいてもらえたよう。
ぱくりぱくりと食べ進めていくヒュウガはまるで子供のように素直で。

こんなヒュウガを見ることが出来るとは、なんと幸せな事でしょう。

「・・・・・・・カツラギさん・・・・・・。俺、すまし欲しい」

「はい、どうぞ」


わざと目の前に碗を差し出してみれば。


「いじわる。俺が松茸好きなの知っててわざとでしょ。ねぇ、どうしたら腕を解いてくれるの?」

「おや?それは却下だと先ほど言ってませんでしたか?」

「言った」

「はい。却下ですよ。今日はこのままで全て召し上がれ」

「ううううう、鬼畜!!」



はぁ。



わざとらしくため息をつき、すましを一口含む。
ヒュウガの傍へ回り込み、顎を上向かせる。

「ななななななっ!!」

そのまま口付けと共に松茸の香りをヒュウガへ。

こくり。
嚥下していく仰け反った喉が艶かしい。


「いかがです?おいしいですか」




「・・・・・・・・・・おいしいよ。ねぇ、カツラギさん、やっぱりこれはプレイでしょ」


耳まで赤く染めたヒュウガをこのまま貪ってしまおうか。


「違いますよ。まぁ、お仕置きといえばそうですが」

「お仕置き?俺、何も悪いことはしてないよ、まだ。たぶん」

「あれほど私と約束したにも関わらず、食事も睡眠も取らなかったでしょう?私を裏切ったお仕置きですよ、ヒュウガ」

「やっぱりプレイだ・・・・・・」








ヒュウガを理解しているからこそ、その無意識の自虐行為はいつかアヤナミ様を苦しめてしまう。
ならば、そうなる前に愛しいヒュウガを少しでも、少しでも。
アヤナミ様へ夢中になるがあまり、我を省みない。
だからこそのヒュウガではあるのだが・・・・。


私たちのアヤナミ様の為に。
私たちはそれだけの為に存在しているのです。
どうかヒュウガ。
ほんの僅かでいいですから自分を想って。

そして、私を想って。


可愛い、ヒュウガ・・・・。












END



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