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今世紀最大の危機

イラスト・嘲美野慈狼さん


友人絵師コラボ企画「絵のキャラクターからストーリーを作ってみよう!」第一段。







やべぇパンツ破れた。
待て。落ち着け、落ち着くんだ俺。まずは昨日の夜から振り返ってみよう。まず現状把握だ。
昨夜連れ込んだ女に薬盛られた。ヤれなかった。キスすら出来なかった。気付いたら雀がチュンチュン囀りまくる朝だった。朝日まぶしくて起きた。起き上がれなかった。なんかロープで簀巻きにされてた。…パンイチで。金目の物どころか身包み全部剥がされてた。そりゃもう、スーツから靴まで全部持ってかれてた。クローゼットの中も見事にロストしてた嘘だろ。俺一回もヤってないのに。
何とか縄抜けしたら何時間も掛かったせいで限界まで腹が減ってた。例え全財産がルパン三世ばりの水色と白のトランクス一枚でも腹は減る。減るもんは減る。しょうがないから冷蔵庫開けてビールでも飲んでやろうと思った。冷蔵庫開けた。ビールがあった。しゃがんだ。
バリィッ!
やべぇパンツ破れた。ケツの真ん中から破れた。もうちょっと激しくスクワットとかするとこれ絶対前まで破れる。確実に真っ二つになって腰のゴム紐のとこだけ残る。やべぇ何だこれ。最終手段ってアレか。カーテンか。古代ローマの彫刻ばりにカーテン巻くしかないってか。どうするよ俺。服を買いに外出る為の服がねぇよ。っつーかパンツ破れたァアアア!最悪のタイミングで破れたァアアア!
いや待て、そーっと歩けばもしかしたら大丈夫かも知れない。さっき外見たけど雲全然動いてなかったよなきっとそうだ。そーっと動けばきっと大丈夫だ。きっと捲れない。って違う。俺はなんだミニスカの女子高生か。っつーかやべぇよ股のとこまで破れたってコレ。だって今もちょっと動く度にミチミチッ!とか聞こえる。
うん、そうだ取り敢えず立とう。ビール飲もう。
……ふー。
凄腕エージェントの俺とした事が、やっちまった。多分本部に連絡すればきっと服も届けてくれるだろうが致命的な事にケータイすら持ってかれたくせぇ。こいつは真剣にやべぇ。俺死ぬかも知れない。情報漏洩とかないだろ。まじでやべぇ。あー、くっそビールうめぇ。超うめぇ。
やっぱ、カーテン巻くか…?
いや、駄目だ。目立ち過ぎる。絶対何かのイベントだと思われる。チクショウ、カッコ良く染めたピンクと緑の最高にイカしたランダムメッシュの髪型が憎い。そして脆弱なこのパンツが憎い。あれ、そういやこのパンツいつ買ったヤツだ?いち…いや、に…違う。さん。三年…三年だな。ああ、うん、そりゃ仕方ねーよ。そりゃ仕方ねーって。三年経てばパンツだって限界だっつーの。どんだけパンツに無理を強いてるんだよ俺は。先週末の俺何やってた?ナンパしてた。ちげーよ先週末の俺。お前がすべきミッションはナンパでもフラレる事でもなくパンツを買い足す事だ馬鹿野郎。
…まあ、あれだ。焦りは禁物だ。取り敢えずテレビでも見て落ち着こう。
ピッ。
ポ〜○ョポ〜○ョポ〜○ョさかなのこ〜♪
いきなり崖の上のポ○ョだった。まあいい。却ってこれ位ぬるい映画の方が冷静にな…
ガシャアアアアン!
「見つけたぞ!“グリーンレイクのフラミンゴ”!貴様の命、この私が貰い受けるっ!」
窓が割れた。ナイフ持った。刺客が飛び込んできた。
俺はパンイチだ。
素早く動いて、ソファの収納スペースに隠しておいた愛用のライフル、COLTのM16A1を取り出し、構える。
まさか、こいつがあの女をけしかけて俺の装備品を根こそぎ奪っていったのか?なら好都合だ。こいつを始末するか、拷問して吐かせるか…いずれにせよ、勝てば俺の服及び健全なパンツは奪還出来るという事だ。
「この近距離では、自慢のライフルも役に立つまい」ガン!カン!ギィン!
ライフルで斬撃を防ぎながら、刃を交わす。破れたパンツのほつれが靡く。ひらひらする。あ〜ヤバい。ヤバいって。捲れる。見える。ケツに風感じるもん!
しかし、コイツさえ倒せば…
「流石は“グリーンレイクのフラミンゴ”…風呂上がりでも武器を手放さんとは…一流のエージェントだけの事はある!」
ちっ・がっ・た―――!
別件だったー!え、じゃあ何こいつ。こいつ倒しても俺のスーツ戻って来ないって事か。そういう事か。
カンッ!
咄嗟の機転で飛び退いて、どうにかライフルを使う為に必要な、ギリギリの距離を確保する事に成功した。奴の額に照準を合わせ、引き金を指の腹で撫でる。
全身黒い服、長いコート、手袋は量産品。靴から推測するに、某国の軍人…軍人が何故俺を仕留めに来る?
「心当たりがない。そんな顔をしているな」
ポ〜○ョポ〜○ョポ〜○ョさかなのこ〜♪
「三年前の事だ。俺の兄は、イエローデザートの戦線に、暴動鎮圧の為ある作戦に参加していた…」
ぺ〜たぺたっぴょ〜んぴょんっ♪
「しかし、作戦の指揮官であった兄は、実行の直前、凶弾に倒れそのまま息を引き取った…この意味が解るな?“グリーンレイクのフラミンゴ”よ…」
イエローデザートの戦線…そうか、こいつは奴の弟…つまりは私怨といった所か。あの戦線は確かに胸クソの悪い、最悪の場所だった。誰も彼もが目的を見失い、軍は暴走した。俺だって追い詰められていた一人だったが…こいつの兄を殺したのは俺じゃない。確かに、上層部からは暗殺の命令が出ていた。俺はその指令が正しいとはどうしても思えず、躊躇った。そして、何者かが、俺より先に奴を、撃った。
「兄は誰よりも平和を愛し!そして、己が軍人である事に苦しんだ!“グリーンレイクのフラミンゴ”貴様にそれが解るかっ!?」
ポ〜○ョポ〜○ョポ〜○ョさかなのこ〜♪
……。
いや!だから!消せよ!
良い加減テレビ消せよ!何でポ○ョをBGMにこんなシリアスな話しなきゃなんねぇんだよ!少しは気にしろよお前もっ!
つうかお前がテレビの真ん前に立ってるから絵面がひでぇんだよ!リモコン…うぼあぁああああ、お前の後ろかよぉおおおおお!
「お前だけは許さんっ!」
バキャアッ!
ポ〜○ョポ〜○ョポ〜○ョふっくらんだ〜♪
ああああああああああああああああああ!何っでテメェそこで足踏みしたァアアア!?リモコンめっためたじゃねぇかぁああああ!つうかケツがスースーするぅううう!
何なんだこの状況。俺一応一流国家エージェントで凄腕スナイパーだぞ。グリーンレイク(このへんの地名)のフラミンゴとか二つ名付けられちゃう位の業界人だぞ。因みにイケメンだし足なげぇし腹筋八つに割れてるのに何でこんな瀬戸際のパンツ一枚でポ○ョを聴きながら軍人とガチでバトッてんだ。意味わかんねぇもう帰りたい。あ、ここ俺んちだった。
割れた窓から風が吹き込む。俺のくたびれたパンツが靡く。やべぇ今背後に立たれたら絶対ケツの割れ目が見える自信がある。
「死ねっ!」
軍人が一気に距離を詰めた。速い。とっさに半歩後ろに下がり、引き金を引いた。しまった。外した。
ナイフの放つ銀色が視界にちらつく。とうとう俺もここまでか。こんな場所で、破れたパンツ一枚のまま果てるとは予想すらしてな…
ピカッ…!
強い閃光と爆風が部屋を包み込んだ。
テレビ、爆発、したああああああああ!










ケチって中国で買ったのが良くなかったんだろう。流れ弾を受けたテレビが核融合ばりの閃光を放って爆発し、俺の命を狙ったあの軍人と、高級マンションの最上階に構えた俺の部屋の壁という壁を、地平線の彼方までフッ飛ばしていった。
奇跡的にアフロにもならず、ちょっとこんがりしただけで助かった俺は、堂々と腕を組み、青い空を見上げた。全ての柵と共に、大切なものを失ってしまった切なさを感じながら…俺はこう思った。
よし、カーテンを巻こう。


パンツ、燃失した。








あきゅろす。
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