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「で、これは一体どういう事なのかしら?」
仁王立ちのまま、片手で鼬の尾を掴んでぶら下げた鍔鬼の前で、二人の男が居住まいを正して座っていた。
「怪異を収めたのは認めるけれど、谷の守護たる私に黙ってこんなものを棲ませるのは関心しないわね。次からは注意しなさい?鉦継」
「…おう」
「それより…狐。問題はお前よ」
鍔鬼の瞳に睨まれて、元から俯いていた丘山が更に目を逸らそうと横を向く。
「たかが眷属の分際で、子飼いを持とうとは良い度胸ね。覚悟は出来ているのかしら。私がその気になれば、お前など簡単に殺せるのよ」
倉の中は鍔鬼の城だ。何も知らずにやってきた鼬が鍔鬼を仕留めに掛かったせいで、白矢どころか、丘山の命までもが風前の灯だ。
鉦継は逃げ出したい気持ちをぐっとこらえて、必死に話題の転換を図る。
「そ、それより、ハクヤ、だっけか?一体何の用で来たんだよ」
「鉦継様!そうです、それです!何やら人間の子供の通う場所に、気味の悪い、得体の知れぬものが住み着いているのです!そのせいでわたくしは夜も眠れず…」
いかにも哀れっぽく、情けない声を出す白矢の話を聞いて、鍔鬼が漸く手を離す。
「あら、中々使える鼬ね。狐よりも使えるんじゃないかしら。そうね、ここらで交代、するのも良いかも知れないわ」
「いや…それはねーだろ」
鉦継としては、間違ってもあんな奴と並んで街を歩きたくはない。絶対に通報される。実際前科もあるし。
「じゃ、じゃあ丘山が探ってくればいいだろ…で、どこの学校なんだよ?」
「北側のでございます」
「う、それって…」
盛大に顔をしかめる鉦継に、どうにか窮地を脱出した丘山が容赦なくトドメを刺す。
「君の学校だね」




この日、鉦継は一難去ってまた一難、という言葉の壮絶さを思い知った。








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あきゅろす。
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