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YOU 2





あなたはとても不思議な子供だった。

山間に窮屈に挟まれたあの小さな村が、世界のすべてだったあの頃の私には、
村で立った二人、金色の髪の毛と青い目をした男の子と、そのお母さんが不思議で仕方なかった。
それに近い色をした人間を見たことが無いわけではなかったけれど、
それ程までに綺麗で光の中に解けてしまいそうな金髪や、
母親の宝石箱の中の石よりも青い色をした瞳や、
絞りたてのヤギのミルクのように白い肌をした人間は他にいなかったから。
自分と同じ人間ではないようにさえ思えたの。

村の人は、そんなあなたをまるで無いものかのように扱った。
あなた自身も、自分が空気か何かのように振る待った。
意地悪な子供に何を言われても、何をされても、
あなたは何も言わずに真っ青な瞳で睨み返していた。
あなたは悲しい瞳をしてた。

いつからか、私は喧嘩をしているあなたしか見なくなった。
いつも、冷たく憎しみに満ちた瞳で世界を見てた。

私は後になって、その理由を知る。
ゴメンネ。
あなたに謝りたい。
村の人が、パパが、私が、あなたにしていたことを全部、謝りたい。
そんなの偽善に過ぎないけれど、ごめんなさいとしか言えない。
もし出来るならば、その頃のあなたを抱きしめてあげたい。
そして、未来のあなたが私にとってどんなに大切な存在かを教えてあげたい。

たとえばもし、あのときの私が、あなたに話しかけていたら、
一緒に遊ぼうよって言って、仲のよい友達同士になっていたら、
今ある未来はどれくらい変わっていたのだろう。私はそれでもあなたの傍にいるかな?
全然、見当もつかないや。


私の、あなたの記憶は断片的。
ほんというとね、昔の記憶自体がとてもあやふやなの。
いろんなことが思い出せない。今になって、それがとても残念でしょうがない。
だからね。
あなたの口から聞く昔話が好き。
思い出したくないことばかりだとあなたは言うけれど、私なんかよりずっとたくさんのことを覚えてるよね。
読み書きを教えてくれた先生の名前とか、宿屋の窓辺にかかっていたカーテンの色とか。
どんな些細なことでもいい。いろんなことを思い出させて。
眠った記憶を二人で探検するのはすごく楽しい。


だけどね、
一番好きなのは、あなたの知ってる、小さな頃の私の話。
忘れていた過去を引っ張り出されるのは恥ずかしいけれど、
懐かしそうに、まるで本当に小さな私が目の前にいる見たいに、優しい目をして、ゆっくりと話すあなたが好き。
あなたの話は、ちょっと大げさで、それは自分じゃないみたい。
だけど、あなたの口で語られるちょっとおませで無鉄砲でチャーミングな女の子が、私は大好き。


私の知ってるあなたはね、いつだって傷だらけ。
肌が白い分傷の赤さや、紫色の痣がよく目立った。
なのに、私はあなたが泣いているところを、見たことが無い。
唇を噛んで、握り拳を震わせて、真っ直ぐ睨んだ眼差し。
その目を私は忘れない。

私は、どうして隣の家の男の子がそんな風に私を睨むのか分からなかった。
私の周りの男の子は、大体、私と仲良しな子と私に意地悪する子のどちらかだったから、
話すわけでも髪の毛を引っ張るわけでもなく、遠くから私を見ていて、目が合うと、あの瞳でじっと睨みつけてくる、
そしてその内、ふいっとそっぽを向いてどこかに行ってしまうあなたが、私は不思議で仕方なかった。

きっと、世界中があなたにとって敵だったのね。
だけど、私は知ってたよ。
あなたは強い子だった。
弱虫なんかじゃなかった。

たとえ他の子に、背が小さいこととか、あんまり話さないこととか、髪や目のことをからかわれてもあなたは泣いたりしなかったでしょ?
だからといって自分より小さな子や女の子を、笑ったりいじめたりしなかったでしょ?
それって、女の子にとってはすごく大事なことなんだよ。


ママが死んで、私がパパと二人っきりになって、私は初めてあなたの気持ちが少し分かった。
ひとりぼっちになった気がして、そんな時、私はあなたと話したいと思ったの。
あなたがいつもひとりぼっちだったから、とかそういうんじゃなくて…。
あなたなら、私の欲しい言葉を言ってくれるような気がしたんだ、きっと。
だけどそのときにはもう、あなたは目を合わそうともしてくれなかったのよ?
私のこと嫌いなんだって思ったのよ?
だから、今こっそりと教えてくれるあなたの話は、私をとても驚かせる。そして、喜ばせる。

どうしてかな?私達のタイミングはいつもおかしいね。
だけどね、手遅れなんてことはないと思う。
いまここにあなたがいることは、それだけで私にとって意味のあること。



ああ、そうだ。
思い出したことがあるの。

ある日私は絵本を読んでいて、
絵本に出てくるお姫様は綺麗な長い金色の髪と青い目をしてた。
そのお姫様を、魔女の呪いから救い出すのは漆黒の髪をした王子様。
私はそれを見て、ああこれじゃあ反対だな、と思ったの。

たったそれだけのことだけど、
あの時から、私の王子様のイメージは金色の髪の頭をしてたのよ。




不思議で仕方なかったあなたが、少しずつ不思議じゃなくなっていくのが嬉しいの。


かっこよくなくたっていいからね。
たくさんたくさんお話して。
私が眠るまで、その声を聞かせていて。

そうすればきっと、夢の中でもあなたに会える。


おやすみ、おやすみ、おやすみ。
強くて優しい王子様。











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