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YOU





君は、とても魅力的な女の子だった。

チョコレートの大きな瞳はいつもキラキラ輝いていたし、
その小さな体からは余りある生命力が溢れ出していた。
大人も子供も、あの村の人間は誰も、君を放っておかなかった。
あんまりに君は綺麗な女の子だから。それは、容姿だけの話じゃない。
春先に流れ出した雪解け水のように澄んだ心を持った女の子だった。

村の男の子たちは、こぞって君と仲良くしたがった。
さもなければ、君の注意を引きたくて意地悪ばっかりしたはずだ。
結局、みんな、君のことが大好きだったんだ。

小さかった俺は、そのどっちも出来なかった。
君の周りにはいつも他の誰かがいて、
俺はそいつに君と話しているのを見られるのが嫌だったんだ。
そいつと同じにされたくなんかなかった。
君の友達と呼ばれるために、君と友達になりたいんじゃない。
君が村で一番可愛い子だから、話がしたいんじゃない。
俺は『君』と話がしたかった。

俺は他のやつらとは違うんだ、とばかり自分にい聞かせていたけれど、
結局はさ、何にも違くなんてなかったんだよ。
俺も他のやつらと全く同じように、君に恋していたんだから。

どうして君がそんなに特別だったのか、今になってやっと分かった気がする。
君はとても頭のいい子供だったんだ。
いっつも年長者を、どうして?の質問攻めで困らせていた。
一度気になったことはちゃんと納得するまで決して妥協しないのだ。

君は覚えていないと思うけど、ある時、君は俺に訊いたのだ。

どうして黄色い頭をしているの?どうしてあなたの髪はそんなにツンツンしてるの?
どうしてわたしより年上で男の子なのにそんなに背が小さいの?
どうしていつも一人でいるの?

いきなりのことで、しどろもどろして、俺は何にも答えられなかった。
君は唇を思いっきり捻じ曲げて、納得行かないって顔で何も言えない俺を見てた。
だけど、
その質問に納得いく答えを見つけられていない君は、理由の分からないことで俺をからかったりしようとしなかった。
他の子供がするように、俺の容姿のことをあげて、笑ったりはしなかった。
その代わり、君はそいつらに訊いたのだ。

『どうしてあの子を笑うの?』

俺は、嬉しかった。

君も、あいつらとは違う。
なんだか、君が自分に近い存在のように思えたのだ。
近くて、とてもとても遠い存在。


強く、優しい君
弱く、ひねくれた俺

俺に無い物を、何でも持っていた君。
俺は君が憎らしいほどに、羨ましくて仕方がなかった。

みんなから愛されて、いつもたくさんの人間に囲まれている、
そんな君を、俺は嫌いだった。

今だから言える。これは笑い話だ。
あの頃の俺の、視線を辿れば、そこにいるのはいつだって君。
君と話したい、君と友達になりたい。
考えるのは君のことばかり。
君のどうして?に答えられる人間になりたくて、いろいろたくさん勉強したっていうのは秘密の話。
とにかくさ、
俺は、君に憧れてばかりいた。


なあ、笑わないで聴いてくれるか?
あの頃から君のことが好きで好きで仕方がなかったんだよ。
俺にとって、今がどんなに奇跡に近いかわかるかい?



ああ。


もうすぐ目覚ましが鳴る。
願わくは、今がずっと続けばいい。
君と、こんなにも近くで迎えられる朝。


今、呼べなかったその名を呼ぶ。




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