恋するあの子は無表情
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side.灰斗A
不本意ながら校舎を出てしばらく歩いていると、門の方から2人歩いて来ているのが見えた。
一人はすごく男らしくて整った顔立ちをしている。
…が、表情が全くピクリとも動かない。真顔という言葉を体現したような顔。下手をすればまばたきすら出来ないんじゃないかと思うほどに。
もう一人は茶髪でいたって普通の男子学生。しかし無表情の彼とは対照的で表情がコロコロと変わって人懐っこい感じがする。名前は佐伯涼太と言った。
無表情な彼に名前を聞こうとしたとき。
「えと、俺の名前は…笹本…」
「あぁーーーーーっ!!」
「…チッ!」
!?
遠くからでも物凄い音量の断末魔と足音が聞こえてきた。
何ごとだ、いったい?
というか今、笹本くん……は、舌打ちしなかったか?
表情からは微塵も読み取れないが、どうやら機嫌が悪くなったらしい。
「なぁ!アンタすっげー綺麗だな!」
「あぁ…有り難う。」
他の二人を押し退けて、僕の前にものすごいスピードでやって来た第三の転入生。理事長の甥、杉崎沙夜と最初の会話がこれだ。
思わず笑顔が引き攣る。
綺麗だと言われて嫌な気はしない、が…何だコレは。
この黒いモジャモジャは。
いったいどこに売っているんだ、その眼鏡は。
そう思って杉崎くんを見下ろしていると、彼は相変わらずの音量で唐突に叫んだ。
「そんな顔すんな!本当の自分を押さえ付けて無理すんなよ!」
ん?
…彼は、何を言っているんだ?
まぁ、確かに僕は自分を押さえ付けて……
…いるわけがないだろう。
というか…
「僕は本当の自分を押さえ付けているわけじゃない。
第一、僕の名前も知らない人間に本当の自分をさらけ出そうとも思わない。」
僕は正統な意見を述べた。と思う。
「なんでそんなこと言うんだよ!俺が友達になってやるって言ってるんだぞ!?」
あー、うるさい。
ホントに面倒臭いなぁ。
あのバ会長…後で軽く息の根止めよう。
杉崎紗夜をシャットダウンして会長の仕留め方を算段していたその時、二人の会話が僕の耳に入った。
「むしろ好きなタイプかもしれない…」
「え!!!誰が!?」
「声でけーよ。誰って…矢吹さんが。」
「えっ」
今のは、笹本君が…?
「笹本君…今、何て?」
そう尋ねると無表情な笹本君は
「いや…そういう意味じゃ、ないぞ涼太。」と、佐伯くんに向かって小さく呟いて、無表情のまま顔をひたすら真っ赤にして俯いていた…。
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