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恋するあの子は無表情


関わりたくない、とは思っていても関わってしまうこともある。
ということを俺は痛感した。


正面玄関に向かい歩いていると、校舎から人が出てきたのが確認できた。



「…綺麗。」

思わずほぅ、と見惚れてしまう。
その人は凄く綺麗な、それでいて男らしさもある中性的な美人だった。

美人さんは俺の前に来ると足を止めて笑い掛けてきた。



「初めまして、転入生の方ですね?僕はこの学園の生徒会副会長を務めております。一道学園2年、矢吹灰斗と申します。今回は君たちの理事長室までの案内役をさせてもらうよ。」
「…よろしく、お願いします。」


矢吹さんはふわりと笑った。

ふむ。素敵だとは思うけど…愛想笑いって感じが凄まじいな。美人がやるから余計に社交辞令じみている。

まぁ、初対面だし当然なんだけどな。
少し怖そうだという印象を受ける。根はどうか分かんねーけど。

こうゆうときでも、人見知りを拗らせた俺の顔面は引き攣り、上手く動いてくれないので…表情で出せない分せめてもの誠意でお辞儀はしといた。
愛想笑い位は出来るようになりてえな…。



「初めまして、副会長さん。俺は、こいつの幼馴染みの佐伯涼太です。」

少し息の弾んだ涼太が後ろから俺の肩にポンと手を置いて自己紹介する。
涼太、やっと追いついたんだな。俺の足が長いばっかりに…ごめんな…。
そんな思いを見透かされたのか、涼太の指が少し肩に食い込んだ。いてててて…


「よろしくね、佐伯くん。えっと…、君の名前はなんていうのかな?」


矢吹さんが俺に聞いてきた。
というか、涼太はなぜ一緒に紹介してくれなかったんだ…。
俺が初対面と話すの苦手だって知ってるだろこのやろ…


「えと、俺の名前は…笹本…」
「あぁーーーーーっ!!」
「……チッ!」


俺の言葉は遮られた。

…誰に?
言わずと知れたおーどー君にだ。


おーどー君は太平洋に沈めても気がすまねぇ。


おーどー君が俺達の方に向かって走ってくる。


やめろ。くんな。あっちいけシッシッ!


「文人、そんな顔すんな。また吠えられるぞ。」
「んなこと言ったってよ…」

んなに、表情変わったか?どーせおーどー君には気づかれねぇだろうけど。
さすが幼馴染み…。

矢吹さんはやっぱりキョトンとしてるけど…。


そうこうしている内におーどー君は物凄い足音を立てて迫ってきた。


ドンッ!

「うぉっ!」
「っ……。」


おーどー君は全速力で走ってくるなり、涼太と俺を押し退けて矢吹さんの前に立つ。

「なぁアンタ!!すっげー綺麗だな!」
「あ、あぁ…有り難う。」

第一声がそれかよ…。
矢吹さん、顔ひきつってるぞ…。

「やめろよ!そんな、作り物みたいな笑いかたすんなって!」
「お前に引いてるだけだ…むぐ…。」


言いかけて涼太に口を塞がれた。身長差で少し屈むことになるけど仕方がないだろう。
涼太を見ると目を閉じて固く口を結び首を横に振っている。

思わず声出てたわ。
涼太ぐっじょぶ


「…君は確か、理事長の甥の杉崎沙夜君だっけ。目上の者には敬語を使えと教わらなかったのかな?」


お。取り繕うと思ったけど矢吹さん結構言うんだな。


「いいぞもっと言ってや…むぐ…」
「そんなの関係ねぇよ!本当の自分を押さえ付けて無理すんなよ!なぁ、俺には本当の自分をさらけ出してもいいんだぜ!」
「僕は、本当の自分を押さえ付けているわけじゃない。面倒臭いだけだ。第一、僕の名前も知らない人間に本当の自分をさらけ出そうとも思わない。」


へーっ、矢吹さんかっけぇー。

おーどー君に押し退けられてからヤツから少し距離をとった所にいた俺は、同じく隣に立っていた涼太の袖をちょいと引いた。

「…おい涼太。」
「なんだい文人?」
「俺、矢吹さん怖ぇと思ったけど…そうでもなかった。」
「うん。」
「むしろ好きなタイプかもしれない…サバサバしてて」
「え!!!誰が!?」
「声でけーよ。誰って…矢吹さんが。」

「えっ?」

そういい放った俺に涼太と矢吹さんが聞き返す。

矢吹さん聞いてたのかよ!?…何か…恥ずかしいじゃねぇか…!男が男にそういう事思うのってもしかして変だったか…?
顔、熱くなってきた…

「いや…そういう意味じゃ、ないぞ涼太。」

こう、付き合いやすいタイプって意味でな?
だから落ち着け涼太。鼻息荒いぞ涼太。矢吹さんこっち見んな。

だから、なんつーか、仲良くなれそうな気がすんだよ…。矢吹さんは。

でも、まぁ…ほら、生徒会とか面倒臭そうだから関わらないけど。
ていうかもうこの状況が既に面倒臭いんたけど!



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