恋するあの子は無表情
2
「文人、早く行くぞ!」
「…置いてくなよ涼太…。」
転校初日、俺は幼馴染みの佐伯涼太と一緒に梅雨入り前の曇り空の下、林の中を歩いていた。
そもそもなぜ親父の一言で俺が、共学から男子校、しかも全寮制でこんな草木生い茂る林の奥の怪しげな場所へ転入か…というと親父の仕事が、ソレに関わってくることになるのでは無いかと俺は思っている。
俺の親父は腐男子?という良く解らないが、特殊な性別らしい。
仕事も、本業はミステリー小説だが俺には到底理解しがたいことに、男同士が…まぁ…その、色々としているレンアイ小説も書いている。確か、BL本?だったかな…。
しかも売れ行きも本人のやる気もそちらの方に傾いているのだから困ったもんだ。
まぁ、その本のおかげで食えてきたわけだが…
と、そんな事はさておき。
本題である俺がこの学校に転入する理由だが、俺が思うに、ここんとこそのBLとやらで行き詰まっている様子だった親父は俺自身をネタにすべくこの学校にぶち込んだのではないか、と考えている。
恐らく涼太にここでの俺の様子を監視させて。何より転入前に聞かされたあの台詞が何よりの証拠になるだろう。
最 低 だ ろ ?
涼太まで巻き込んでどんだけBL書きてぇんだよいい加減にしろよ。息子が男に手出されてもいいのかよ!?
と、実際に俺は怒鳴ったが親父はそっと俺の肩に手をおいて
「文人に手を出した野郎のチ◯コは父さんが刻みに行くから、安心しなさい。」
などとほざきやがったので俺は「あ、もうダメだこのオッサン」と悟り呆れてものも言えず、なぜだか興奮気味な涼太にも説得され結局あれよあれよと流されて今に至る。マジで親父は地中海に沈むべき。
死んだ母さんは今の親父を見ても愛してると言えるのだろうか……
言うだろうなーっ!!!母さん親父大好きだもんな!なんなら親父の書く本どっちも好きだったしな!!案外天国で親指を立てて親父と同じような事を言って俺にエールを送っているかもしれない。いらんそんなエール。
「…泣きそう。」
「文人どうした?」
「…なんでもねー。」
俺たちは整備されている林の道を歩き続けた。
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