死んでいくために、ひとはうまれてくるのでしょうか?
「陽、今日はもう店仕舞いだよ」
岡場所にひっそりと立つ、小さな遊廓。
お唐に声をかけられ、陽七は着崩れていた着物を直し彼女の方へ向かった。
「はい。お疲れ様でした」
「今日も、随分と客が来たみたいだね」
ふん、と鼻を鳴らし陽七をねめまわすように見るお唐。
「本当に、どうしてアンタみたいな男がもてるのかしらねぇ」
「…はは…」
こんなひょろひょろしてんのに、と陽七の腕を掴むお唐。気まずそうに笑った陽七は、ありがとうございますと零した。
「じゃあ僕はこれで…」
「待ちな」
懐から包みを出したお唐は、陽七の手を掴んでそれを握らせた。ぎょっとしたような表情の陽七に、小さく耳打ちする。
「そんなふらふらじゃあ、ここ数日は喰ってないでしょう」
「……ありがとうございます」
「稼ぎ口に死んでもらっちゃ困るだけよ」
つっけんどんにそう言ったお唐は、帰った帰ったと蠅を追っ払うように陽七を追いやった。
「……」
手中の包みをぼんやりと眺めて、陽七は帰り道をのろのろと歩いていた。
彼女の優しさは嬉しい。でも、苦しい。
「…お唐さん…」
いつになったらお金と恩を返せるのだろうか。
握り締めた包みの薄さに、本当ならば人に金を遣るほどの家計でもないであろう彼女を思う。
生活面まで世話になるのは、と遊廓の仮住まいを飛び出したところまでは良かった。
身寄りのない自分にここまで手を差し伸べてくれただけでも、有り難いことだった。
「なのに、…」
仕事の一つも見つけられない己の器量には、絶望を抱かざるを得ない。今の、今まで。
迷惑だなんて一言も言わないけれど、きっと自分は邪魔者だ。
…ならばこのまま
死んでしまうのも有りかもしれない
飢えか渇きか、霞む視界は次第に朧気になっていく。
最期に柔らかな香りがしたのは、浄土の彼岸花か何かだろうか
死んでいくために、ひとはうまれてくるのでしょうか?
(答えはわからない、だってもう死んでしまうから)
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