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どこへも行けなくて良い、雨の日は二人寄り添って。



「お早うございます、陽七」

翌日、徳勝は朝餉の支度をして、起きてきた陽七を迎えた。早朝から降っている雨が、音高く部屋に響く。

「…おはようございます、美月さん」
「…?元気がありませんね」

居間に座り込んだ陽七に、徳勝が尋ねた。曖昧に返事をした陽七は、箸を取ったまま動かなくなる。

「今日は生憎の天気ですね」
「…ええ…」
「……そうだ、陽七。明日は店を空けますが、留守番を頼んでも良いですか?」
「え?」

不安に満ちた目で徳勝を見る陽七。雨の音が妙に煩い。

「少し、行くところがありまして」
「ついて行っては、いけませんか…?!」

陽七が食い下がると、徳勝は少しの間考えるように目を伏せた。

「……構いませんが…遊びに行く訳では、ありませんよ」
「解ってます…お唐さんのこと、でしょう」

一瞬だけ目を丸くした徳勝は、次には薄く笑った。

「そうです。では、一緒に行きましょうか」
「はい」
「さあ、きちんと食事をとりなさい。明日になればきっと、全てうまくいくはずですから」
「………」

こくりと頷いた陽七は、緩慢な動きで箸を使い、お椀の白米を持ち上げた。雨はいよいよ強くなり、屋根を叩く音が耳障りに響く。

「…今日は、お客様もあまり来られないでしょうから」

魚の小骨を丁寧に取りながら、徳勝は言うともなしに言った。

「二人で静かに過ごしましょう。たまには、こういう時間も必要です」




雨の匂いが、二人だけの美月屋を柔らかく包んだ。





どこへも行けなくて良い、雨の日は二人寄り添って。





(雨が、その不安を流し去るまで)

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あきゅろす。
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