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涙など忘れた振りをして、いちばん泣き虫なのは他でもない私です。



全てが今までからかけ離れた姿。
凛々しかった雰囲気は不穏に掻き乱され、芯の強かったはずの声は今にも消えてしまいそうで、勝ち気な瞳にすら涙の浮かびそうな脆弱が滲んでいた。

「…陽には心配かけたくなくて、あんなこと言いましたが……この間、奉行所から直接話が来て…」
「店を畳めと?」
「……今までは、奉行所もあの店の法度に触れることを黙認していました。でも、今度ばかりは…吉原を敵に回せば、店に勝ち目はありません」
「吉原に、入るのは」
「あそこには岡場所と違って厳しい掟があるんです…今までのように、簡単に人を雇えなくなります。それでは意味がないんです」

ほんの一瞬、お唐の目に固い意志が宿る。
(それが、彼女を支えてきた力か)

「……私は…このまま、店を続けられるのか…」
「……続けたいのですか」
「!」

徳勝の問いに、お唐は面食らい言葉を失った。静かに首を傾げて答えを促すそれは、まるで無知なる童が親に問い質すような純粋さを孕んでいた。

「つ…続けたいに、決まっています…!だからこそ、これだけ悩みを」
「ならば平気です。大丈夫。あなたは続ければ良いのです」

戸惑いながら、徳勝をまじまじと見つめるお唐。その頬には、幾分か朱がさしていた。

「続けたいと望めば叶います。信じましょう、あなたの思いを」
「……でも…」
「お唐さん。店を、陽七のような人達を守れるのはあなただけなんです。…お気を強く、何かあれば私が支えましょう」
「美月屋さん…」
「あなたには、陽七と巡り会わせてくださった恩がありますから」

しばしの間俯いていたお唐は、顔を上げると徳勝の手を静かに取った。




「…では、今だけ。涙を許しては貰えませんか」





涙など忘れた振りをして、いちばん泣き虫なのは他でもない私です。





(構いません、救われるなら)

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