無様なのは嫌いです、そんな私が一番無様なのですけれど。 「勘弁して欲しいですね、お役人さん」 お唐が気丈に薄笑いながらそう言うと、役人の一人が一歩前に踏み出した。 「こっちはお上の命で来てるもんでなぁ。話付けねぇと困るんでさ」 「あたしだって困りますよ…買い出しの途中でお役人さんに立ち往生させられちゃあ」 小さく舌打ちした役人は、面倒そうにお唐を睨みつけるとつかつかと迫っていった。 「いいからさっさと店畳んで、大人しくどっかで下働きでも」 「ですから、今ここでそんな話は」 「俺達は今退けって言ってんだよ!いい加減にしねぇと、っ」 お唐に掴みかかろうとした役人の手首が、ひしと掴まれる。 「っ…!?」 「み、美月さん!」 「ちっ…何だてめぇ?」 穏やかに手首を握ったまま、徳勝は役人に向かって小さく笑いかけた。 「お役人様、女子様に手を上げるのは日の本の男児として如何でしょうか」 「あんた、何者ンだ」 「呉服屋の端くれで御座います。お役人様、どうか穏便にお話を」 「ち……商人風情が」 汚らわしそうに手を振り払うと、徳勝を睨みつける役人。 「底辺共が、勝手に騒いでろ。いずれお上から直接裁きを受けるようになるからな」 そう言い捨てると、役人達は憎々しそうに退散していった。 「……美月、さん…」 「お唐さん、大丈夫ですか」 徳勝が尋ねると、お唐は安堵の表情を浮かべて頷いた。 「…すみませんね、美月屋さん。お見苦しいところを」 「いえ。………お役人様が、何か仰っていたようですが」 徳勝の言葉に、お唐は小さく表情を歪める。 「お唐さん!役人が言ってた、その、店を…」 「…随分前から言われてたんだ。まだ誰にも言ってなかったんだけど、ね」 ゆっくりと遠くを眺め、お唐は徐に話を始めた。 無様なのは嫌いです、そんな私が一番無様なのですけれど。 (本当は、誰にも) [*前へ][次へ#] [戻る] |