伸ばしたこの手をとって頂くことは不可能ですか、嗚呼、貴方はどこまでもその華奢な両脚で立とうとする。
「何か、食べましょうか」
ふと立ち止まる徳勝。陽七は頷くと、何を食べますか、と無邪気に尋ねた。
あれなど如何です?と徳勝が指差した先には、小さな屋台。陽七は、小首を傾げて歩き出した徳勝を追った。
「へい、お待ち」
目の前に出された物に目を見張る陽七。徳勝は、傍らに置かれた醤油を傾けて小皿に注した。
「…美月さん、これ」
「寿司というものですよ。旬の魚を、生のまま刺身という形にして酢飯に乗せるんです」
初めて見る寿司を前に、陽七は期待と不安の交じった目で徳勝を垣間見た。小皿の醤油に、軽くつけて食べる。
「………いただきます」
いくらか躊躇いながら手を伸ばす陽七。見よう見まねで醤油につけ、恐る恐る口に運んだ。
「…美味しい…っ」
「良かった、たくさん食べてくださいね」
生魚を食べるという、初めての贅沢。それから陽七は黙々と寿司の味を楽しんだ。
寿司を食べ終え、屋台を出た二人は帰途につく。
「あれは私達町民の、ちょっとした軽食なんです」
「すごく美味しかったです」
「そうですか、じゃあまた………、?」
突然、陽七が動きを止めた。徳勝が不思議そうにその視線を辿る、そこには複数の役人と。
「そんな話、ここでされても困ります」
「だから早く退けと言ってるんだ!」
役人の一人が、誰かを荒々しく突き飛ばした。反射的に飛び出す陽七。
「お唐さん!!」
「っ、陽…!?」
陽七の姿を見つけたお唐は、はっとして役人を見た。
「お唐さんっ、大丈夫ですか?!お、お前ら」
「口、出すんじゃないよ」
助け起こそうとした陽七を制し、役人の方を睨み立ち上がるお唐。
「…お唐さん」
「陽は下がってな」
何故か壊れそうなその姿に、陽七は知らず背筋が凍っていた。
伸ばしたこの手をとって頂くことは不可能ですか、嗚呼、貴方はどこまでもその華奢な両脚で立とうとする。
(今の僕より頼りない、その)
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