叶えられない事がある、たとえば時が止まれば良いとか。
小袋を後生大事に持ち、見慣れない町並みをきょろきょろと眺め回す陽七。
「そんなに珍しいですか、この町が」
薄く笑みながら尋ねた徳勝に、無言のまま頷いてみせる。
「見たこともない物ばかりで…」
「あ、もうすぐ着きますよ。あの店です」
徳勝が指差した先には、小さな平屋があった。
「いらっしゃい、…おや美月屋さん」
敷居を跨ぐなり、明るい表情で徳勝を迎え入れる主人。そして彼のすぐ後ろで店内を見渡している陽七に気づくと、意外そうな顔つきで徳勝に歩み寄った。
「…見ない顔ですね?」
「私の、新しい家族です」
徳勝が背中にそっと手をやると、陽七はおずおずと頭を下げた。
「へえ…そりゃあまた、おめでたいこって」
「ありがとうございます。それで、今日は反物を買いに参りました」
「おうよ、そろそろ来るだろうってんで、ちゃあんと美月屋さんが気に入りそうなの入ってますぜ!ちょいとお待ちを」
にこにこと笑いながら、反物を取りに奥の間へ向かう主人を眺める徳勝。陽七はその間、珍しいものでも見るかのように店の中を忙しなく見回していた。
「はいよ、毎度ありぃ!」
数本の反物を抱えて店を出る二人。
改めて見ると町は大分賑わっていて、武士の子供達や行商人、井戸端で世間話をする奥方の姿などがあちらこちらに見られた。
「…陽七、手伝ってくれてありがとう。また次の時もお願いしますね」
「はい。もちろんです」
叶えられない事がある、たとえば時が止まれば良いとか。
(だから、また来るんだ)
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