忘れられない日が、またひとつ増えた。
「陽七、夕餉の支度が出来ましたよ」
台所から徳勝の声がすると、陽七は二階から沃さと降りた。
「すいませんっ、今手伝いに行きます!」
「…陽七?何をしていたのですか?」
慌てて駆け下りる音に、徳勝はそう尋ねた。陽七は、魚の乗った皿を受け取り徳勝ににっと笑いかける。
「後で見せます!」
「…はあ」
キョトンとする徳勝にもう一度笑いかけると、陽七は楽しそうに居間へ歩いていった。
「美月さん!これです、これ!」
就寝の準備をしていた徳勝に、陽七が一冊の和綴じの本を差し出す。
「これは…日記、ですか?」
早く見てくれと言わんばかりに、徳勝の肩を掴んで後ろから本を覗き込む陽七。ぱらぱらと捲ると、最初の一頁を見つけた。
「…今日からつけていますね」
「これから、美月さんとの楽しい思い出をいっぱい書くんです!」
「昨日までのことも、少しずつ思い出して書くと良いですよ」
「そうですね、…あ!」
幼子のように目を輝かせた陽七は、枕元の筆を取って何か書き加えた。
「…何と?」
にこにこと笑いながら、日記を覗き込む徳勝。
「良いですね、これからもっと増えることを祈りましょうか」
忘れられない日が、またひとつ増えた。
(物語の始まり、始まり)
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