私の世界の中心は、いつだって貴方。 「すみませんね陽七、本当は早く帰るつもりだったんですが…」 「私がお喋りに引き止めてしまって」 美月屋の中、そう言った澄にいえいえと首を振る徳勝。陽七と末吉は、隣り同士気まずそうに座っていた。 「陽七君、私は山北 澄っていうの。よろしくね」 「よろしくお願いします」 「ふふ…陽七君は礼儀正しいのね。うちの末吉とは大違い」 「なっ、何でこんなのと!?」 こんなの、と言われて陽七が末吉を睨むと、二人の間に火花が散り始めた。 「まあまあ、末吉君。末吉君はいい子ですよ、私が保証します」 「徳兄ぃ!」 「み、美月さん…!?」 一転して笑顔になる末吉と、不満げに徳勝を見る陽七。 「そうだ、菓子を買ってきたのでお茶を出しましょう」 「あ、私がやりましょうか?」 「いえ、お構いなく」 立ち上がりかけた澄を制し、台所へ向かう徳勝。末吉は、菓子の言葉に嬉しそうに反応した。 「…陽七君。話は聞いたわ、大変だったみたいね」 「え…」 「徳勝さん、いい人でしょう?良かったね、見つけてくれたのがあの人で」 「あ…はい」 二人の会話について行けずつまらなさそうにしていた末吉は、ふと立ち上がると徳勝を追って台所へ入った。 「……末吉君、でしたっけ」 「ごめんなさいね、あの子我が儘だから…もう七つになるのに」 でも、と呟いて、澄は少しだけ暗い顔をした。 「仕方ないのよね…あの子には、寂しい思いさせてるから」 「え…?」 「うちにね、父親がいないの」 「……父親、が」 「夫はお侍さんでね、暫く越前の方に行っていたの。でも、もう何年も帰ってこなくて……だから、徳勝さんはあの子の父親みたいな存在で」 そう言って、台所で楽しそうに話し合う二人を眺める澄。 「…お澄さんと美月さんって、どうして知り合ったんですか」 ほら、また知りたい事が増えた 私の世界の中心は、いつだって貴方。 (貴方のことなら、何だって) [*前へ][次へ#] [戻る] |