こんな他愛ないことだって、きみが口にするだけで。
「…おい、お前」
「ふにゃ?」
徳勝の帰りを待っていたはずの陽七は、肩を揺すられて微睡みから醒めた。
「…え」
「何やってんだ、こんなトコで」
「…誰?」
「こっちが聞きたいよ!誰だよお前!」
寝ぼけ眼を擦り、怒鳴り声を上げる男---よくよく見れば少年だった---を見つめる。苛立ったように腕を組み、どこか威張ったように見せているその少年は、陽七を睨むような目つきでじろじろと眺めていた。
「……えっと…お客さん、ですか?」
「徳兄ぃはどうしたんだよ」
「の、のり…にぃ?」
「お前ドロボーだろ!?徳兄ぃいないならボクが成敗してやるー!」
「えっ、ちょっ…痛い痛い痛い痛い痛い」
どこからか取り出した木の棒でぺしぺしと陽七を叩く少年。思わず心の中で美月さん助けてー!と叫んだ。
「末吉!何をしているの!」
女性の怒声がしたかと思うと、少年はぴゃっと手を引っ込めて声の主の方を見た。
「母ちゃ…」
「陽七、何かあったんですか」
その声にハッと顔を上げると、心配そうに眉を寄せて覗き込む徳勝の姿があった。
「美月さん…!」
「の、徳兄ぃ!こいつドロボー!?」
「末吉君、彼はドロボーじゃないよ」
末吉と呼ばれた少年は、困惑しながらもごもごと何か言いたげに口籠もった。
「すみません、末吉がとんでもない勘違いを…」
「大丈夫ですよ、お澄さん」
後ろから現れた、澄と呼ばれた女性が陽七に頭を下げる。どうしたものかと困っていると、澄は顔を上げて陽七を眺め始めた。
「ところで徳勝さん、彼が陽七君ですか?」
「ええ」
「末吉、この人は徳勝さんの新しい家族なのよ」
「………何でこんなの」
「なっ…お前、その言い方はないだろ!?」
ぼそりと呟いた末吉に、陽七はムキになって言い返した。
と、徳勝が二人の肩に手を置いてそっと囁いた。
「二人とも、仲良くしてくださいね」
「「…は、はい」」
こんな他愛ないことだって、きみが口にするだけで。
(仲直りの魔法の言葉)
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