それはまるで、満たされ眠りに就く嬰児のように。
徳勝の奨めにより、陽七はお唐の元へ向かった。
「お唐さん!」
「ん、陽七かい」
今日は非番じゃないか?と言うお唐に、陽七は頷いてから、でも、と続けた。
「お唐さんに、伝えたいことがあって…!」
「仕事でも見つかったのかい」
「仕事と家…家族が、出来たんです」
そう言って照れくさそうに笑う陽七。お唐は、目を丸くしてそんな彼を見つめた。
「…つまり、その美月さんってぇ人がアンタの面倒を見てくれてんのか」
大筋を聞き、親切な人もいたもんだと首を傾げるお唐。その表情はどこか、寂寥感を帯びて見えた。
「はい。今は、呉服屋の手伝いをしながら一緒に暮らしてます」
「…呉服…美月屋、ねぇ…」
ぶつぶつと呟いて、桐箪笥を開けるお唐。紙包みを取り出すと、「やっぱり」と零した。
「聞いた名前だと思ったら…随分昔に、着物を買いに行った店だったんだね」
美月屋と書かれた包みを丁寧に開くと、着古した着物が現れた。朱色の生地に、金糸の桜吹雪。店のものとよく似た、繊細な刺繍。
「懐かしいね…これ、この店を始めた時に買った着物なんだ」
「…綺麗…」
「だろ?あたしも一目惚れさ」
昔を偲ぶように着物を眺めるお唐。その姿を見ていた陽七は、はっと思い出して懐に手を遣った。
「そうだ、お唐さん…これ」
「…え…?」
差し出された包みと銭貨に、お唐は驚いたように陽七を見た。
「お唐さんに、今まで頂いてたから」
「…とっときな、その位」
「受け取ってください。僕、ずっとお唐さんに恩返ししたいと思ってて」
「……なら足りないね」
「もちろん。もっと、お唐さんに贅沢させられるように頑張ります」
それに、と続けて、陽七はふわりと笑った。
「まだまだここで、お唐さんの為に働きますから」
その笑顔は、見たこともないくらい眩しくて
それはまるで、満たされ眠りに就く嬰児のように。
(どうやら、本当の幸せを見つけたみたいね)
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