たとえば君が声を殺して泣くのなら、せめて震えるその身体を僕の胸に預けておくれ。
「この御時世ではさぞや大変でしょう」
徳勝の言葉が、頭の中をぐるぐると廻る。
“男子同士の色事の禁止”それが、つい最近この町に出された法度。この町には割と多かった男色、こっそりと美男子歌舞伎が流行ったのも原因だろうか。
(あの御法度のことを言っているのかな)
そっと横を見る。既に眠ってしまったのか、目を閉じたまま動かない徳勝。
思えば、すぐ隣に人がいる夜なんて何時ぶりだろう。
(嬉しい、はずなのに)
すぐ傍から感じる温もりに、かえって陽七は胸に穴が空くような寂しさを覚えた。
(明日にはまた、同じような独りきりの夜が待っているっていうのに)
求めるものは腕をすり抜け、一日とて留まらない。
「……どうしました?」
いつの間にか、徳勝がこちらを見て心配そうな顔をしていた。
「っ、え」
「大丈夫ですか…何か、ありましたか」
そっと手を伸ばし、陽七の頬を撫でる。そこで初めて、彼は自分が泣いていることに気づいた。
「…………」
「お辛ければ…お話、聞きますよ」
そう言って、悲しそうな微笑みを浮かべる徳勝。
「……明日…目が覚めたら、…こうやって誰かといるのも、夢だって気づいて……」
本気で甘えてみたくなった、その好意に。
「…また、独りにならなきゃ、いけない…そう思ったら…」
「では…明日からも、私と一緒にいませんか」
「え」
陽七の体を胸に抱くように寄せ、背中を撫でる。子をあやす母親のような、無償の温もり。
「私も、あなたとずっと一緒にいたいと思いました」
その時の柔らかな徳勝の笑顔に、邪なものはなかった。
たとえば君が声を殺して泣くのなら、せめて震えるその身体を僕の胸に預けておくれ。
(出来るだけ傍で、優しく包むから)
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