何故求めるの、手に入らないとわかっているのに。
「…!?」
唇を離すと、男はどういう訳か顔を赤らめ驚いた表情でこちらを見ていた。
「どうしたんですか、ここまで誘われて乗らないんですか」
挑発するように告げる。何かもごもごと口ごもっていた男は、それから困ったような笑みを浮かべた。
「…いえ…初めてお逢いする女子様と、その、…そのようなことは」
その言葉に、陽七は思わず目を丸くした。その様子に気づいたのか、どうしましたかと首を傾げる男。
「…おな、ご」
彼の中で、全てが繋がる。
「あの…何か、嫌なことを言ってしまったのでしょうか」
「………男、です」
申し訳なさそうに絞り出した陽七は、先程の男より赤くなっていた。いまいち理解ができないのか、ぽかんと陽七を見つめる男。
「…僕、男です」
「……え?」
「女じゃありません…こんな姿だけど、男なんです」
確かに髷を結わない男にしては髪を長く伸ばしている。服も女もの、そういえば薄化粧を落としていなかったから、着飾って見えたかもしれない。
だったら、先程のことに驚いていたのにも合点がいく。
つまり彼は異性愛者。
「ごめんなさい!僕、てっきり、あの時みたいに襲われるんじゃないかって、っ!」
「…襲われる?」
「……前にも、男の人に家に連れ込まれて…」
嫌な記憶が蘇ってきて、思わず唇を噛む。
「…そう、ですか。それは…お辛かったでしょう」
「…!」
ふと、胸の奥が締めつけられるように痛んだ。急いで立ち上がり、部屋を出ようと歩き出した。
「…失礼、しました」
「体、大丈夫ですか…?」
「……」
痛いところを突かれ、言葉に詰まる。実際、今にもまた倒れてしまいそうだった。
「……もしよろしければ、家に泊まって行きませんか」
そう言ってふわりと笑った彼に、ふと温かさを感じた。
欲しかった温もりかもしれない、けど
何故求めるの、手に入らないとわかっているのに。
(手を伸ばすのが怖い)
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