冷たく柔らかな、だから剥がせない素顔の上のペルソナ。
静かに目を開けると、そこは小さな部屋。
(ああ、なんて家庭的な浄土)
四畳半の浄土には、極彩色の建物もなければ金色の鳳凰もいなかった。
(それともここは地獄だろうか)
ならば、もっと期待はずれだ。ぼんやりとそんなことを考えながら、大きく息を吐く。
「おや、起きていましたか」
おもむろに、声のした方へ顔を向ける。
そこには、二十歳過ぎ位の男が立っていた。
「良かった。…具合は如何ですか」
今度は人間臭い阿弥陀如来様か。嫌気がさした陽七は、その男を見るともなしに眺めた。
「どうなされました?」
「………ここは…?」
ああ、と呟いた男は、座って手にしていた盆を床に置くと湯呑みを陽七の前に出した。
「私の家です。すみません、突然連れて来てしまって。…良かったら、どうぞ」
湯呑みを一瞥した陽七は、さぁ、と勧める男を見つめ返した。
「あんな場所で倒れていたものですから…つい」
(助けてくれた、ってことか)
柔らかな表情、おっとりとした喋り、人畜無害そうな顔、いかにも真人間、といった。
(でも、そういう人に限って怪しい)
今までに相手をした客の何人が優しそうな素振りを見せていたことか。
(そうか、この男も)
どちらかといえば、好色ではなさそうだった。ならば余計に、男色なのだろう。
道端に偶然男が転がっていたから、持ち帰ったと。
「…体、ですか」
「え?」
「あなたも、体目当てなんですか」
そういえば昔にも似たようなことがあったな
あの時は何とか逃げ果せたけど
今度は無理みたいだ
好きにすればいい。どうせ一度死んだ身だから
「…ん、っ!?」
重ねた唇は温かくて
気づけば頬を流れた泪
冷たく柔らかな、だから剥がせない素顔の上のペルソナ。
(違う、きっとこの選択は間違っている)
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