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【I whisper love at night of the Halloween.】




吸血鬼、魔女、狼男……思い思いに非現実の存在を模した客たちのひしめく店内は、洒落て落ち着いた平時の風情とは打って変わった無礼講の場となっていた。
真夜中のハロウィンパーティーに参加するための合言葉は、“Trick or Treat?”。
扉を三度叩いて合言葉を唱えると、『ハッピーハロウィン』の言葉と共にサンジが扉を開き、客を招き入れながら可愛らしくラッピングした黒猫柄の小袋をプレゼントする。
覗き込んだ誰もが思わずニンマリとする小袋の中身は何かと言うと、人型のスパイシーなジンジャークッキーとジャックオーランタンを模して作ったふわふわのマシュマロ、それからコウモリ型のハムチーズカナッペに血色の柘榴キャンディーだ。
入り口の正面の突き当たりに設けられた、客がひっきりなしに立ち寄るお代わり自由のドリンクコーナーには、身体に悪いものが大好きな子供心を擽る、毒々しいまでに眼に鮮やかな原色の飲み物(勿論実際には着色料は不使用で、全て天然の果物や植物から抽出した色素している)のボトルが立ち並び、その脇のテーブルの上には特大のパンプキンパイとキッシュ、熱々のグラタンに生ハムレモンのサラダボールが用意され、菓子だけでは物足りないという客たちの胃を満たしている。
空いたグラスや皿を片付けたり、時に客の話し相手になったりしながら店内の様子に眼を配り、客たちの楽しげな様子を満足気に眺めていたサンジの耳がまた新たなノックの音を拾い、サンジはいそいそと客の合間を縫って扉へ辿り着くと、ドアノブに手を掛けて合言葉に耳を済ませた。

「トリックオアトリート!こんばんは、サンジ君。あたしの分のお菓子、まだ残ってる?」
「ハッピーハロウィン、ナミさん。もちろんですよ、はい、これナミさんの分。さあ中に入ってください」
「ありがとう、サンジ君。うわぁ、盛況ね〜」
「はい、おかげさまで…」

扉を開いた先に居たのは、猫娘に扮した、質屋の看板娘のナミだった。
差し出された白い手に小袋を渡して店内へと招きいれた瞬間、大きな眼を輝かせて歓声を上げたナミに満面の笑みで相槌を打ち、ドリンクコーナーへエスコートしようと細い肩に手を伸ばす。
レディの肩を抱くときは、花束を抱き締めるように、そっと優しく包み込むべし。
自ら掲げた騎士道その3に添ってサンジがナミの肩を抱いて歩き出したその刹那、背中に突然ドンと無粋な衝撃がきて、サンジは振りまいていた笑顔を瞬時に消し去ると、背中に張り付いている黒マントの少年を冷たく睨んで言った。

「…これは何のマネだ、ルフィ?」
「おう、サンジ!トリックオアトリート!」
「あ?何言ってんだ、てめぇの分はさっきやったので終いだよ」

この少年には、既に二度も仕方なく小袋の他に飴玉とマシュマロとプリンを山盛りにくれてやっていたのだ、これ以上このブラックホールな胃に付き合っていたら、他の客たちに配る菓子が全部無くなってしまう。
ふん、と鼻息荒く吐き捨て、まとわりついてくる身体に容赦なく蹴りを入れて突き放すと、少年もといルフィがフグのように頬を膨らませて憤然と言った。

「違うぞ!こいつの分だ!」

これを見よとばかりに眼前に突き出された拳から覗くのは、柔らかそうな視感の萌葱色の毛と七色に透ける羽の拉げた先端。
握りこんだ親指と人差し指の間から、ジタバタともがきながらぴょこんと飛び出した小さくとも見惚れるほどに端麗な顔に、この小さな生き物が何であるかに否が応にも気づかされ、サンジは瞬時に頭からザァっと血の気を引かせてルフィの手首を強くわし掴み、叫んだ。

「今すぐこいつを放せ、ルフィ!!」
「いやだっ、放したら逃げちまうじゃねぇか」
「菓子ならくれてやるから、放しやがれ!こいつはそこらの虫けらとは違うんだ、俺のために生まれてきた妖精なんだよ!!こいつに掠り傷一つでもつけてみろ、てめぇの腕へし折って簀巻きにして沼に沈めるぞ!!」

玩具でも掴むように遠慮のない力で拳に握りこまれた小さな身体は、今にも窒息しそうに苦悶の表情を浮かべている。
サンジはナミをエスコートするのも忘れ、臓腑から滾るように押し寄せてくる禍々しいほどの怒りと焦れに血の気を下げたまま、血走らせた眼でルフィを睨み据え、ルフィの手首を掴む手に握り潰さんばかりに力を込めた。

「痛っ…」

ルフィが、顔を歪めて小さく呻く。
鬼気迫るサンジの様子とどんどんと鬱血して赤青くなっていくルフィの腕に、サンジの本気を見て取ったナミが低く促した。

「……放しなさい、ルフィ。そのコを助ける為なら、サンジ君は本気であんたの腕を折るわよ」
「いやだ。俺が拾ったんだから、俺のモンだっ。連れて帰って一緒に遊ぶんだっ」
「拾ったって、どこでよ?まさかこの店の中で…なんて言わないでしょうね?」
「……………」

図星だったのだろう、ルフィが口を噤んで黙り込む。
ナミが、心底呆れたというように溜息をついて言った。

「…もう一度言うわ、ルフィ。そのコを放しなさい。そのコはフェアリー・テイルの妖精よ。あんたも絵本を読んだことがあるでしょう?あんたがどんなにそのコを気に入ったとしても、そのコに触れていいのも所有を誇示していいのもサンジ君だけよ」
「何でナミがそんなことわかるんだっ!?」
「"俺のために生まれてきた妖精だ"とさっきサンジ君が言ったでしょう。そしてあそこの窓辺にある鉢、今は花びらが閉じてしまっていて一見しても何の花か判別がつかないけど、あたしの予想が正しければ、あれはフェアリー・テイルの花なんでしょう?サンジ君」
「…………はい。その通りです、ナミさん」

百年に一度咲くか咲かないかという幻の花、『フェアリー・テイル』。
フェアリーと名のつくとおり、この花には妖精が宿っているのだという。
花が開くと共に生まれる妖精は、心の綺麗でオーラの波長の合う者の前にしか姿を現さず、その中でも真に己や花を大事にしてくれる人間だけを自ら見極めてその人間を主と定め、花を守り糧をもらう代償に主の願いを叶え、花が命を終えるときに共に消える。
主となり得た稀有な人間は、それが半ば己に課せられた使命であるかのように、己と暮らした妖精のことを絵本という形を取って描き記し、後世に残した。
主の庇護欲を誘う為かはたまた妖精を生み出した神の愛情のなせる業なのか、絵本に描かれている妖精の姿は皆総じて丹念に拵えた人形のように麗しくも愛らしく読む者の眼を奪い、この不可思議な生き物との共同生活の様子は、読む者の心を魅了して止まなかった。
所詮は絵本の中の夢物語だろうと笑う者も中には居たが、花を探し求めることに己の生涯をかけ、実際にその姿を眼にすることすらできぬまま焦がれ死んでいく人間は、いつの時代も堪えること無くあまたに居たという。
この地に生れ育った者で、赤ん坊の頃から子守唄代わりに夜毎繰り返し聴かされて耳にも脳にもすっかり染み込んでしまっている、『フェアリー・テイル』と妖精の話を忘れることができる者など、そうそう居はしない。
何にでも興味を示す反面、物覚えの余りいいとは言えないルフィも、さすがにフェアリーテイルのことは覚えていたらしい。
焦れて怒りに力んでいた身体からみるみる力が抜け落ちたかと思うと、逃げたがってもがき続ける妖精に向かってポツリと尋ねた。

「………お前の主は、サンジなのか?」

身を圧迫されて声が出せない代わりに、妖精が何度も必死に頷く。
妖精が一度己の主はこの人間と決めたら、たとえその主が不慮の事故や病で亡くなったとしても、その人間以外の何者も主には絶対に成り得ない。
ルフィが顔をくしゃりと歪め、無念そうにそのままがっくりと頭を垂れた。
握り締めていた拳から力を抜かれると、途端、もがいていた身体が宙へと零れ落ちる。

「ゾロ…!」

悲鳴のように叫んで、とっさに掌に受け止める。
綿雪のごとく頼りない感触で、受身を取ることもできずに七色に透ける羽のついた背中から掌の上へと墜落してきたそれは、喉元を押さえて咽ながら涙眼を薄く開けてサンジを見上げてきた。
眼が合うと、助けを求めるように自分へ向かって小さな腕が伸ばされる。

「サ…、ジ……」
「ああ、苦しかったな……骨折れたりしてねぇか?羽は…?」

のた打ち回る瀕死の蝶を見ているような痛ましさに眉を顰め、顔を寄せて小さな掌を頬へと受ける。
触れる温もりが余りにも儚く頼りなさ過ぎて、まるで今にも霞となって消えてしまうのではないかと思う。
この存在が、自分の傍から居なくなる―――考えるだけで背筋が冷たく凍りつくほどの恐怖に見舞われて、サンジは数瞬縋るように掌の中のゾロに額を寄せた。
鼻先へ抱きついてこようとする身体を親指の腹で軽くなぞって痛がる場所が無いことを確かめ、人差し指と中指でそっと背中の羽へと触れる。
もげたり破れたりしていないことにホッとしたのもつかの間、指の腹に覚えた、洗い終わったばかりのワイシャツのように皺が寄り、複雑骨折でもしたかのように芯の無い感触に、サンジは表情を暗く曇らせた。
ゾロを載せた掌ごと眼の高さまで持ち上げ、脇から覗き込むようにして羽の様子を見る。
正常な状態以外は五十歩百歩で、どんな状態だった方がまだマシだなどと一概に言えはしないけれど、それでもいっそ一思いに引き千切ってやった方がまだ眼に優しいと思わず眉を顰めるほどに、それは無惨な光景だった。

「惨いな……」

呟く声に、堪えきれずやるせ無い溜息が混じる。

「痛みはどうだ?綺麗に治る見込みは?……ああクソっルフィ、てめぇ、今すぐ帰れ!そんで向こう三年は店に来んな!」
「いやだ。まだ菓子もらってねぇから帰らねぇ」
「ざけんな、こいつの羽をこんな風にしたてめぇにくれてやる菓子なんざ、もう一欠けらだって無ぇっ」
「嘘つき!ケチ!サンジの薄らハゲ!さっき、こいつを放したらお菓子くれるって言ったじゃねぇか!」
「喧しい。俺は今腸煮え繰り返ってんだ、しばき倒されねぇ内にとっとと帰れ!」

今までさんざんタダ飯食らって店にツケを溜めこんでおいて、一体どの面下げてケチだの何だのとこの自分に向かってほざけるのか。
どこまでも己の欲望に忠実で、厚顔無恥。
ゾロを手に入れられなかったことに一瞬悄然としはしても、こいつは己のせいで傷ついた羽を見ても「悪かった」と謝りもしなければ心配もしない。
いつもなら相手はルフィだし仕方ない、と苦笑して自分が折れているところだが、今回は駄目だ。どうしても、こいつを許せない。
ふつふつと滾る怒りに、臓腑が冷ややかに凍りついていくのを感じたのだろうか。
ゾロが小さな掌でペタペタとサンジの鼻筋を撫で、頬へ唇を寄せてきて言った。

「…サンジ、大丈夫だ。身体はあちこち痛ぇし羽も力が入らねぇけど、千切れたわけじゃねぇから、サンジがたくさん撫でてくれれば、この前よりもずっとずっと早く治る」

この前というのは、ゼフが命の危機に立たされてうろたえた自分が遮二無二ゾロに助けを求め、その結果、力が最も弱まってしまう満月の日に膨大な力を酷使することになってしまったゾロの身体が、力の負荷に耐え切れずに弾けて壁に叩きつけられて傷つき、羽も根元から無残に千切れてしまった半年前の出来事を指す。
あの時はゾロに強請られるまま、一ヶ月ほどの間羽の付け根を毎晩優しく撫で擦り、唇を這わせていたら、一からの再生という形で新たな羽が生えてきたのだが……。

「……本当に?こんなにグシャグシャになっちまってても、また元の綺麗な状態に戻れるのか?」
「ああ、治る。………今晩たくさん栄養をもらえたら、明日の朝には治ってるかもしれねぇ」

念を押すように尋ねた自分に頷き、眼差しを伏せてゾロが呟く。
桃のようにうっすらと色づいた、けぶるように長い睫に縁取られた眼元や作り物のように小さな耳朶が、むしゃぶりつきたくなるほど愛らしい。
サンジはつかの間陶然と見惚れ、ややしてゾロの言葉の意図を脳が察するや否や、思わずこめかみを熱くした。
妖精の糧は、水でも肥料でも甘いお菓子でも豪華な料理でもなく、主の体液だ。
ゾロから初めてそれを聞いたときは、吸血鬼のように牙を立てられて血を吸われる猟奇的なイメージばかり浮かんだものだが、実際には主食は甘い舌を深く深く絡め合って生み出す唾液で、デザートはたっぷりと愛で可愛がって熱くトロけた身体の奥深くに注ぎ込む白い蜜…という具合だった。
たくさんゾロに栄養を与えてやるということは、つまりは、いつも以上に入念にたっぷりと自分の唾液と蜜をゾロに注ぎ込んでやらねばならぬということ。
滾る自分をうっとりと身体の奥深くで受け止めて艶やかに喘ぐゾロの姿に脳裏を犯され、寒気にも似た劣情が背筋を駆け抜けたらもう駄目で。
サンジは焦れとも怒りとも歓びともつかない何とも奇妙な表情に顔を歪めると、自分と同じようにゾロへと見惚れていたルフィを蹴り、興味深げに成り行きを見守っていたナミに向かって忙しなく詫びた。

「折角来てくれたのに、バタバタしててろくにエスコートもできなくてごめんね、ナミさん。俺はちょっとばかり抜けるけど、飲み物も食い物もたくさんあるから、ゆっくりしていってね」
「ええ、そうさせてもらうわ。なんだかよくわからないけど、そのコはサンジ君に任せておけば大丈夫そうだし、こいつのことはあたしが悪さしないように見張ってるから、サンジ君はこっちのことを気にせずそのコをゆっくりと介抱してあげて」

肩を竦めて微笑むナミに早く行けと促され、慌てて頭を下げて厨房へと走り込む。

「ジジイ!俺もう部屋に上がるから、ホール任せたぞ!」

追加のジンジャークッキーの焼きあがり具合を見ていた白い背に向かって怒鳴ると、ゼフが可愛い孫を見る眼とは到底思えない煩わしげに顰めた一瞥を寄越して言った。

「煩ぇ、夜中にアホみてぇに喚くなチビナス。疳の虫が騒いでんじゃねぇのか?あぁ?」
「夜泣きの酷い赤ん坊か俺はっ。てめぇとくっちゃべってる暇はねぇんだよ、とにかく任せたからな!」
「…頼みごとをする態度じゃねぇが、まぁいい。ボウズに何かあったんだろう、さっさと二階へ上がれ」
「あ…ルフィに握り締められて、羽怪我しちまって……って、何でわかったんだ?」
「てめぇの怒鳴り声が聞こえてきたんだよ。ったく、クソ煩ぇったらありゃしねぇ。けどまぁ、てめぇが客の前で血相変えるっつったらボウズ絡みのことしか無ぇし、てめぇが遠慮なく怒鳴りつけることの出来る客っつったら限られてるからな。大方、赤髪のトコのガキか花火屋のガキがボウズに要らんちょっかい出したんだろうとは思ってたが、当たったみてぇだな」

淡々とそう言いながら焼き上がったばかりのクッキーを小袋に三枚ほど詰め、振り向いたかと思うと「持ってけ」とこちらへ向かって放って寄越す。
自分に食えと言うのではない。お菓子が大好きなゾロへ、後で食わせてやれと言う意味なのだろう。
ありがとう、と言う代わりに、サンジは視線を逸らして呟いた。

「…後片付けは明日俺がするから、そのままにしとけよな」
「ふん…さっさと行け。ボウズが待ちくたびれてる」

犬の仔でも追い払うように手を振ってゼフが再びクッキーへと視線を戻し、黙々と小袋にクッキーを詰め出す。
言われて掌の上のゾロを見てみれば、ちょこんと正座したまま、心持ち潤んだような眼差しでジッと自分を見上げていた。
欲しがられ求められている自分を知るのはいつだってとても面映いことだけれど、ましてその相手が己の深く愛で慈しんで止まない相手ならば悦びは一入だ。
サンジは下腹に燻りだした熱に眼を細め、クリクリとその小さな頭を指先で撫でてやると、足早に厨房を出て二階の自室へと上がった。





電気をつけるより早く、掌の中のゾロが羽で身を覆って発光し出す。
ややして小さな光の爆発と共に首の後ろへと回されてきた、確かな重みと長さを持つ温かい腕に、サンジは口元を緩めて己に抱きつく身体を抱きしめ返した。

「良かった…ちゃんと大きくなれたんだな。羽があんなだったから、もしかしたらって少し心配した」

そっとベッドに横たえ、額へと口付ける。
嬉しげに瞼を閉じてそれを受け止めていたゾロが、ふと眼を開き、眼差しを曇らせて見上げてきて言った。

「サンジ…、いいのか?」
「ん?何が?」
「……前に死にかけたとき、サンジ言ってたろう。今度怪我したり羽傷つけたりしたら、一週間一緒に寝てくれねぇって。デザートも、飯以外でのキスも無しだって……。俺は、約束を守れなかった。それでもサンジに可愛がってもらって、いいのか?」

真剣な声音に、ここまで煽っておいて今更何をと苦笑が浮かぶ。
それでも、約束を忘れずに覚えていたゾロに甘酸っぱいような愛しさが込み上げてきて、サンジは整ったゾロの鼻先をキュッと摘んで言った。

「おバカ……。いいも悪いも、可愛がってやらなきゃ羽が治らねぇんだから、仕方ねぇだろう?」
「……そう、か…治療だものな……。……なら、羽が治ったら、おしおきか……?」
「ああ、言い方が悪かったな…すまねぇ。今日あんたが羽を怪我したのは全部ルフィが悪いんだから、あんたへのお仕置きは一切無しだよ。羽が治った後もそれは変わらねぇ。一緒に寝るし、キスだって何だってする。…他には?気になること、何かあるか?」

ゾロの、タンポポの綿毛のようにふわふわと柔らかい髪の毛をよしよしと撫でてやりながら、噛んで含めるように優しく囁く。
濡れたように光る瞳を凝らしてじっと自分の言葉に耳を傾けていたゾロは、ホッとしたように頬を蕩けさせ、あどけない位の笑みを浮べて答えた。

「何も無い。……ああ、良かった。一週間もサンジに触れてもらえなかったら、寂しくて干からびて死んじまうとこだった」

素直な思いを表す可愛い言葉と、猫が甘えるように摺り寄せられる頬が、何とも胸にくすぐったい。
一挙一動がいちいち愛しいこの存在に煽られて、キュンキュンとひっきりなしに啼く胸は、甘痒いような痛みに疼きながらこれが幸せなのだと噛み締める。
もしもゾロに触れられなくなるような出来事が起こったら、寂しくて干からびて死んでしまうのは、他ならぬこの自分の方だ。
……本当に。いつの間にこんなにあんたのことが大事になってしまっていたのだろう?

「…くくっ、それならもうあんたに触れてもいいか?今日はたくさんしなくちゃならねぇんだろう?」
「ん…触ってくれ、サンジ。いっぱい……奥に………」

甘い声を零す唇を深く塞ぎ、甘い唾液を貪る。
濡れた翡翠色の眼が欲しがってくるのを、ゆっくりな、と笑みで諌めて黒いワンピースの裾から手を突っ込み、立てた膝裏から付け根に向かって撫で下ろす。
戦慄くように震える半身に笑みを深めて唇を離すと、サンジはワンピースの裾から頭を突っ込んで、既に蜜を滲ませ始めているゾロの芯を口中深く咥え込んで舌を這わせた。




「…今日のサンジ、いつもよりももっともっと優しくて、俺幸せだ」

艶やかに啼いていた先ほどまでのストロベリータイムの名残を色濃く身に纏ったままシーツに身を沈めていたゾロが、蜜をたっぷりと注ぎ込まれて熱を持つ下腹を撫でながら嬉しそうに呟く。

「……あんた怪我人だし、今日はハロウィンの晩だしね…」

それは溢れそうになる愛しさ故だなんてバカ正直に告げることなどできずに、そんな風に嘯いて。
サンジは真意を笑みに隠すと、滑らかさを徐々に取り戻しつつある透けるような七色の羽にそっと口付けた。








END



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