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Short
Twinkle snow


アホコックの肌は雪みてぇに白い。

触れたら溶けちまいそうで、脆く儚い。

それでいて
とても綺麗でキラキラしてて、
どこか人を引きつける。









「島が見えたぞー!!」



甲板で昼寝していた俺は、大声で叫ぶ船長の声で目を覚ました。

欠伸をしながら体を目一杯のばすと、視界が白いことに気付いた。



「…あ?……雪?」



船にはうっすらと雪が積もっていて、空からも絶え間なく落ちてくる。



それを見て、
コックの事を思い出した。




(…綺麗だな…)





暫くそれに見とれていたが、よく見ると、
自分の体にも雪が積もっていた。



「……………寒っ!」



かなりの時間差でそう気付くと、俺は立ち上がって雪を払い落とした。

そこへ厚着したナミが現れて、ギョッとした顔でこっちを見てきた。



「…ちょっとゾロ!あんたこの寒い中そこで寝てたわけ?…しかもそんな薄着で」


「…あぁ」


「呆れた…もうすぐ島に着くわ。冬島よ」


「見りゃ分かる」


「だったら、早く上着を着てちょーだい。見てるこっちが寒いんだから!」


そう言ってナミは足早に女部屋へ向かっていった。


さすがにやっぱり寒かったので、男部屋で自分の上着を羽織る。

だが昼寝していた時間は結構長かったらしく、体の芯まで冷え切っているみたいだった。

コックに何か温かいもんでも貰おうと、キッチンへ向かう。




――――ガチャ



「…あ、やっと起きたのか」


「…おぅ」


ドアを開けると、目の前にコックがいた。



「窓から見てたらよ、お前どんどん白くなってくし…今ちょうど起こしに行こうと思ってたとこだ」



そう言ってコックはシンクの前に立つと、
温かいお茶を煎れてくれた。

何も言ってねぇのに、やっぱり気が利くな、こいつは。



「サンキュ」



素直にそう言うと、
コックはニッコリと笑った。



「風邪引くなよー?」


「……あぁ」



(…んな可愛い顔すんじゃねぇよ…)



出されたお茶を啜りながら、密かに思う。






……俺がお前に
好きだと言ったら

お前はどんな顔をするんだ?



困らせちまうか。

…気色悪がられるか。


…いや、蹴られるか…


何にしても、
コックはもう俺に笑顔は向けてくれねぇだろうな。




「……ロ?…ゾーロ?」


「…っ、何だ?」


「何ボーッとしてんだ?」




いつの間にか俺はコックの顔を見て静止していたらしい。



「…何でもねぇ」


「…?そっか。それ飲み終わったら上陸の準備しようぜ〜」


「あぁ」



残りのお茶を飲み干すと、湯呑みをコックに渡した。


「ごっそーさん」



そう言ってキッチンを出ようとすると、コックに呼び止められた。



「ゾロ!…島に着いたらさ、買い出し付き合ってくんねぇ?今回、量多くなりそうだから…」


「…あぁ。いいぞ」



そう言うと、コックはまた笑顔を向けた。



(…だから、可愛い顔してんじゃねぇよ)




買い出しの時、新しい品物を発見すると、あいつはコロコロ表情を変えやがる。

嬉しそうな顔だったり、
悩んでいる顔だったり。



その全てが可愛いと思う。


コックに俺の気持ちを伝えれば、きっと一緒に買い出しも行けなくなる。

色んな表情も見れなくなる。



…だが、
うだうだ悩むのは性に合わねぇ。


好きなもんは好きなんだ。



…俺は今日コックに想いを伝える。

そう決めた。









島に上陸すると、コックはまた可愛い笑顔で俺に近寄ってきた。



「ゾロぉ〜行こうぜっ」


「…ああ」


短く返事をすると、俺はコックに大人しく付いていった。


雪は丁度止んできたが、
街には一段と雪が積もっている。
見渡す限り、一面の銀世界だ。


俺の少し前を歩く、金色の頭。


やっぱりこいつには雪が似合うと思った。


青い海や空も似合うが、白い雪もいい。



「…うぅ〜さみぃなっ」

「そうだな…テメェこそ、風邪ひくんじゃねぇぞ」

「へへっ。心配してくれてんのか?」

「するかバカ」

「バカって言ったな?
フッ、バカは風邪引かないんだぜ〜」

「自分で言ってんなよ」



二人きりだと、意外と仲良く話せたりする。

くだらない話で盛り上がっていると、いつの間にか街の中心部に来ていた。


コックは目を輝かせて、色々な店の品を物色し始めた。

せわしなく動き回るコックの姿を、店の外から見つめる。




全く、可愛すぎて困る。


…末期だな、こりゃ。

だらしねぇ顔してんだろうな、俺。








コックの買い出しが終わり、俺達は大量の荷物を両手に抱えて船へと向かった。



「船番はウソップだったな。船に戻ったら代わってやるか…ゾロはどっか行きたい所ないのか?」


「…特にねぇ」


「そっか。じゃあ買い出しの褒美に何かうまいモン作ってやるよ」



新鮮な食材を料理するのが楽しみなのか、コックは機嫌が良さそうに鼻歌を歌いながら歩く。



船に付くと、船番のウソップが出迎えてくれた。


「おーお帰り〜」


「ただいま〜。ウソップ、船番代わってやるから街歩いてきていいぞ」


「いいのか?助かる!丁度新発明の為の部品が欲しかったんだ」


「「ガラクタか?」」


「違ぇよ!!」


ハモった俺たちにウソップが力一杯ツッこむ。

ウソップはいそいそと準備をすると、喜んで街の方へ走っていった。






「…手伝いサンキュー、ゾロ。ちょっと待っててなっ」



そう言うと、コックは嬉しそうにキッチンへ入っていった。



俺は見張り台に上ると、島の景色を見渡した。

高い所から見ると、雪がキラキラ輝いて更に綺麗だった。


マストを背に腰を下ろし、深呼吸する。




…柄にもなく緊張してやがる。







愛の告白なんざした事ねぇ。

惚れた奴すらいなかった。

女なんて面倒くせぇし、突っ込めりゃ誰でも良かった。





だが、あいつに出会ってから。


四六時中、あいつの事が頭から離れねぇ。

修行にも身が入らねぇ。

あいつが俺以外の奴に笑いかけてると、無性に腹が立つ。



…あいつに触れてみてぇ。



自分のモンにしてぇ。





こういうのを恋っつーのか。





…俺は、いつからこんな腑抜けになっちまったんだ。

もっと精神を鍛えねぇと。



そう思っていたが、

どうやらこの気持ちは抑えきれそうにねぇから。


いっそ言ってスッキリしちまった方がいい。








「ゾロー?」


「ぅおっ!?」


いきなり声をかけられて、不覚にも驚く。
見ると、いつの間にかコックが見張り台まで登ってきていた。


「……てめぇか。驚かせんな」


「何だとコラ!呼んでも来ねぇから来てやったんじゃねぇか」


「…あ…悪ィ…」




参った。

コイツの気配にも気付けねぇなんて。


どんだけ重症だよ。



「…なぁゾロ、お前最近おかしいぞ?よくボーッとしてるし…大丈夫か?」



コックはそう言って、小首を傾げて俺の顔を覗き込んできた。



「…っ……!」








あぁ。


もう我慢ならねぇ。











「……………ンジ」



「……ぇ……?」




考えるより先に、体が動いた。





初めて呼んだコックの名前。




「……ゾ、ロ…?」




目の前の細い身体を、
抱き寄せて。






「……テメェが…



     好きだ…」






ありったけの想いを込めて、そう告げた。










コックは俺の腕の中で動かない。




…そりゃいきなり抱きしめられて、いきなりそんな事言われたら…そうなるか。






どのくらい時間が経っただろう。


コックは悪態を吐く訳でもなく、
俺のことを蹴り飛ばすわけでもなく、
ずっと固まったままだ。


少し腕の力を緩めて、
恐る恐るコックの顔を見た。




「……っ…!?」






いくつかコックの反応を予想したが、

こんな反応は予想できなかった。






綺麗な碧い瞳には涙が浮かんでいて、今にも零れそうだった。





「………泣くほど…嫌だったか…?」




初めて見るコックの泣き顔に、痛いくらい胸が締め付けられた。




「……悪ぃ…」


「………っ、違…」




細い身体に回した腕を解こうとすると、
コックは弱々しく首を振り、涙いっぱいの顔で俺を見上げてきた。




「……嘘、じゃ…ない…?」



消え入りそうなか細い声は、微かに震えていた。


「…んなタチの悪ぃ嘘つけるか」



ジッと見つめてくる瞳に、負けじと真っ直ぐに見据えてそう言うと。




コックは今までに見たことない笑顔になって。





「…っ…、俺…も……



俺も、ゾロが好き…!」




そう言って、
思いっきり抱きつかれた。








……信じらんねぇ。







たまらなくなって
俺も、もう一度抱きしめ返した。





「…俺、ずっと……ずっとゾロの事、好きだったんだ…っ、でも…嫌われたくなくて……ひっく…怖、くて……ふぇぇ…」





何て可愛いことを抜かしやがるんだ、コイツは。




「……もう、離す気ねぇからな」


「…離れないよっ…」



こんなに泣かせちまうなら、もっと早く言えば良かった。




「…ゾロぉ…っ」


「…すげー嬉しい。ありがとう…」





自分でも驚くほど、自然に言葉が出てくる。





「俺も…嬉しぃ…っ、ふぇ…」



なかなか泣きやまないコックの涙を、優しく親指で拭ってやる。



コックはくすぐったそうに目を閉じた。


そのまま頬に手を寄せ、
ゆっくりと赤い唇に口付けた。




コックの唇は予想以上に柔らかかった。




ふと頬に冷たい感覚がして唇を離して目を開けると、
さっきまで止んでいた雪が、また静かに降っていた。





「…また降ってきたな。風邪ひく前に中入るか」


「うん。…、わぁっ!」



すり寄ってくる華奢な身体を抱き上げて、見張り台を降りる。



「ちょ、ぞ、ぞ、ゾロ!」


ビックリしたのか、
どもってやがる。

可愛すぎだ。



「早くうまいモン食わせろ」

「…そ、そうだ!飯が冷めちまうから早く食いやがれっ」


「あぁ。…その後に…もっとうまいモン食わせてくれるんだろ?」


「?…………っ…////」


キッチンに向かいながらニヤリと笑うと、コックは真っ赤な顔をしながら頬を抓ってきた。



「痛ぇ痛ぇ!」

「エロマリモ!////」





――――……‥


ここは冬島。

俺に、一足早い春がきた。


幸せだ。

もう絶対コイツの事を離さねぇ。

どんな事があろうと、
絶対幸せにしてやる。



『絶対』なんて言葉は、海賊の俺には軽々しく口に出来ねぇけど。



生涯かけて、コイツを…

サンジを愛そう。




END.

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あきゅろす。
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