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Maquette-Mannequin  〜マケット・マヌカン〜
Page5.5 欠落・とある少年との出会い


命界、マケットのとある街




日景「まったく、殿下は何をお考えなのか…」


ふいに愚痴るようにここには居ない主人に対して悪態を吐いてしまう。

深い意味はない。
ないのだが、いかんせん今回の思い切りは予想を大きく超えてはみ出していた。



日景「マヌカン姫になんの引き継ぎもせずマケットに来るなど…」

些細な用事があるから。
そんな言い出しっぺで疑いもなく三又の大橋まで同行したのが悪かった。

あれよあれよと、気が付いた時にはもうマケットにたどり着いてしまっていたのである。





一応、当初の目的ではあるから遅かれ速かれ此処に来なければならなかった。
しかし…


日景「はぁぁぁぁ…」


空を眺めながら深くため息をついてしまう。

私はマヌカン王と共に今回の事件について話し合うためにマケットまで来た。


なにについてか?
もちろん、カイライについてだ。


元々、カイライはマヌカンとマケット双方から優秀な人材が派遣されて創設された面もあり
運営は共同だった。

しかし、いつのまにか武力を保持し
独立を求めた活動を開始したのである。


これについて、どちらが責任を取るか
そんな議題が持ち上がったことも勿論あった。

互いに得た有益な情報を我先にと抱え込もうとしながらも
都合が悪くなるなり手放そうとする。


ヒトの悪い癖だ。
が、時は残酷である。

罪の擦り付け合いをしている間にもカイライは強大な組織となって我々を攻撃し始めた。
そこからの方向性の変化はあっという間だったと思う。


両国ともにカイライを如何に討伐するかを考え始めた。
もはや輝かしい未来を得るために発足した、かの研究機関はない。




日景「だというのに…。」


今日も議会が開かれるので護衛のために付き添うのが仕事なのだが…なぜか今、こうして街にいる。

殿下の計らいで、他の兵士と違い付きっ切りの私に対して羽を伸ばすように度々申し付けられるのだ

もちろん、私は頑なに拒否をしたのだがヤーンの契りでの命令には逆らうことが出来ない

せっかく殿下がくれた息抜きの時間だというのに
余り他人を信用しない質なので、こうして外出していても殿下の事が常に気になって休暇にならない始末である。


日景「…ん?」

街の商店を冷やかしがてら散策していると、ふと視線が目の前にある公園に止まる。
中から小さな男の子がこちらを見ているからだ


少年は徐に立ち上がると砂を払う動作を見せたのちにこちらに駆けてくる



少年「兄ちゃん、ヒカゲハルキだろ!」


ううむ、とても元気がいい。
快活男児そのものだ。

初対面の年上の者に対しての言葉遣いはなってはいないが
訊ねられたなら答えない訳にはいかない


日景「…そうだが」

返事をするや否や、少年は瞳を輝かせ更に近づいてくる。


少年「すげーっ本物だ…握手してっ…あとサインもっ!」

日景「…すまないが、そういうのは苦手でな」



大の大人にはめっぽう強くても、あまり子供とふれ合う機会がない私は、こうした時に臆病になる。

子供とは恐ろしいと思う時がある…無邪気だからだ。
争いを知らず、希望に満ちた眼差しがとても恐ろしい。

決して彼等に対して後ろめたいなどと言う気持ちがあるワケではない。

ただ…


少年「ヒカゲ?」


日景「悪いが、放っておいてくれないか?」


この無垢な瞳が、いつか燻むと思うと…目を背けずにはいられない。




少年「えー、なんでだよ。ヒカゲハルキはマヌカンの『しんぜんたいし』なんだろ?」


……。

この少年は恐らく、親善大使の意味を理解していている訳ではないようだ


日景「良いか、少年。親善大使だからと言って英雄や有名人な訳ではないんだぞ」

少年「え゛…し、知ってるよ…それくらい」


そっぽを向く仕草がなかなか微笑ましいではないか

どうやら、悪餓鬼というものではないので気まぐれに少し話をしようとすると…


「おい、お前何をしているんだ」

日景「……」


突然声を掛けられ、声の主に方向へと向き直る

マケット族の男だ

見るからに民間人であるが、何やらご立腹な様子。


「何をしてるって聞いてるんだ、お前ヒカゲだろ」

日景「そうですが…?」


今日はよく身元を尋ねられる日だと思った


「このマケットの面汚しが!マヌカンなんて悪魔に魂を売った犬なんざ、お呼びじゃねぇんだよ!」

はてさて…どんな因縁か。
見ず知らずの小父にいきなり罵声を浴びせられる始末である

先ほどから街中の人々の視線が棘のように鋭いのも、そういう理由なのか?


少年「なに、言ってるんだよ!ヒカゲがなにかしたって言うのかよ!」

日景「…」


少年は私を庇うように男に向かって抗議する

特に理由もなく私を批判してたであろう、男は少年の言葉に狼狽えていた


「…っ…うるせぇ、ガキは黙ってろ!」

少年「っ!イテ!!」

日景「…!」

年の功、とでも言えばいいのか
子供に侮辱されたので頭に来たらしく、言葉ではなく暴力で説き伏せようとし始めた

さすがに、それでは少年が不憫であるし
なにより大人が無意味に子供殴るのはよろしくない。

少年「言い返せないから殴ったんだろ!ばーか!」

「このガキ―――っ!!!」

先ほどは平手であったのに対し、今度は拳なので咄嗟に男の腕をつかんだ


「なんだよ、やんのか――――ひっ!!!」

日景「………やめろ………」


無意識だったと思う。

男の腕を掴んで止めた、
そこまでは良いのだが私が相当ガラの悪い目つきをしていたのだろう

制止の言葉を掛けると男は怯え始めた


「ふっざ…いてぇよ!!」

違った。
どうやら視線ではなく握力に怯えていたらしい。

私が掴んだ男の手首付近は真っ青に変色しており、うっ血までしている様だった


日景「無暗やたらに子供を殴るんじゃない…」

「わ、わーったよ!離せよ!!」

私は、その言葉を聞くと腕を離した
すると男は血相を変えて走り出し、逃げ去っていった


日景「…少年、大丈夫か……―!」

すぐに少年の怪我を確かめようとしたが、私の前に沢山の大人たちが少年を守るように立っていた

皆それぞれ怒り、恐怖に満ちた視線を私に向けている


日景「……」

少年「あ…」


どうやら私の出る幕ではなかったのだろう
あの少年は多くの大人たちに守られている

なら、ここは安心して去るとしよう


日景「…っは。」

これで、マヌカンの親善大使。

マケットとマヌカンの希望の架け橋、か…
我ながら吹き出してしまいそうな肩書だと改めて思い知った。




――――――――――



「ぼうや、大丈夫かい?」

少年「ん、平気…だけど…」

少年「また会えるかなぁ、ヒカゲ…」




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あきゅろす。
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