[携帯モード] [URL送信]

Maquette-Mannequin  〜マケット・マヌカン〜
Page4 遠い日の約束



リリン「ヤーンの契り…」

その言葉に先ほどの話を思い出す

彼が片時も私の傍を離れず
常に、その暖かな笑顔で見つめてくれるのだと想像してしまう自分がいた


リリン「―――っ、」


違う…!
そんな甘いものではない…

もっと残酷で、その契りを結べば…
彼の心を殺し、束縛し、光を奪う…

今、記憶を改竄し洗脳している者と何も変わらない…いや、それ以上に劣悪。



一瞬の気の迷いから生じた願いに従い彼を私のモノにしたとしても…きっと元通りにならない

幼かった私が、あの日彼と結んだ契りもまた…奪うものだったのだから。


リリン「やはり…私には…そんな恐ろしい事…」

日景「確かに、姫様のお考えになっていることは正しい。恐らく彼の人生を大きく変えてしまうでしょう…」


やっぱり…
私の考えは当たっていた。
彼の言葉を聞いて尚更、彼をそんな目にだけは会わせたくないと心の底から思った

もう二度と…私は彼から自由を奪いたくはないから…



日景「ですが、その生き方を決めるのもヤーンの契りを結ぶ貴女様しだいなのです」

リリン「…それは、どういう意味なのですか?」

私しだい…?

彼の言っていることがいまいち把握できない

その契りを交わせば、私は彼を永遠の呪縛に捕らえることになる。
避ける手立てがあると言うのなら知りたい…

それとも…ただの言葉のあやで全て私が背負うべき責と…言いたかったのでしょうか?



日景「…百聞は一見に如かずと言います…ご覧を。」

そう言うと日景は突然上着を脱ぎ始めると上半身を露わにする
鍛え抜かれ引き締まった体は、如何に彼が強靭な戦士であるかを物語っている。
突然、夜の暗闇の中淡い光が彼の胸元から発する。

リリン「これは…」

少し離れた場所からもう一つ淡い光が発せられる
その光は、祖父のマヌカン王からだった

日景「私と、殿下は固い繋がりを持っております…これも…ヤーンの賜物なのです」

光はより一層輝きを増すと一つ一つの魔力の軌跡を走らせ、皮膚の表面へと浮き上がる。

日景の体を縦横無尽に駆け巡る無数の光の線は
魔力の糸に縛られているように見えながらも、美しい姿は犯し難いものだった



マヌカン王「リリン」

リリン「―――はい、お爺様」

腰を落ち着かせて休んでいた祖父は今一度立ち上がると、日景の横へと並び立つ

先程の魔力の軌跡は彼の体のみならず、空間を漂い祖父が抱える光と繋がってより強い明りとなった


マヌカン王「…我々ヒトがヒトの全てを統べることなど許されてはおらん」

マヌカン王「…ヤーンの契りとは、互いに助け合う…そういう使い方も出来るんじゃよ…」

リリン「ですが…先ほどの言葉は…!」


日景は確かに、私の考えは当たっていると言った…
魔法には確かに多大な利便性がある、けれどもそれと同じくして欠陥もあることを祖父が知らないはずかないのです

だって…そんな欠陥を克服するために私たちマヌカン族は犠牲を立てて魔術をくみ上げているのですから…。

都合の良いことだけでは魔法は扱いきれない、諸刃の剣なのに…


日景「違いありません、私が告げた言葉もまた全て事実です」

日景「…その者の生き死には統べる者が決めるのです」

日景「私や殿下のような理解ある関係も、奴隷のように使い捨てるのも…結局は貴女様が決める事…」


リリン「詭弁を…よくもまぁぬけぬけと…」

その言葉に喜ぶべきなのかどうか、いささか複雑だった


けれども決心はついた
私が今しなくてはならない事、それは…



サーヴァント「…、っ―――」


少しでも彼の苦悩を減らしてあげる事

その為ならどんな事でもしてあげなくてはならない
…決して私が彼を独占するためのものではない…絶対に違う…


リリン「いいでしょう、ヤーンの契り…結びます」


日景「覚悟されましたか、急ぎましょう…いくら強靭な肉体を持つ者でも長く昏睡すれば危うくなります。」

私の表情を見て察したのか日景は一刻も早くと急かし、私は促されるまま彼らの傍に座り直す。
床に伏せたままの彼をそのままにできず、正座をして頭を預かるように乗せる

これで幾許かの心地良さは得られるでしょうか…?


日景「我が心魂に根差す主達よ…我が命を以て汝らに語り掛ける…」

日景は膝を立てて座ると瞼を閉じて魔法の詠唱を始める


リリン「――――、」

基本的にこの世界の魔法には詠唱が必要。

長い時間をかけて作られた知識の塊でもあり、過去の人々が命を賭して作り上げた魂の結晶でもある
圧倒的な破壊力と万人に適応する治癒能力
その効力は絶大であったがために過去の戦争では機械技術を遅れた存在にしてしまったのだとか

けれども、それも過去の話…

時代は進み機械技術も発達して便利になった

器用、不器用問わずに一定の性能を引き出せる機械に安定性は求められ、その成果を出すことができた…。

なにより、恩恵の代償として要求される時間を惜しむものが現れはじめ、
魔法の力にあやかるものは少なくなってしまっているのが昨今の現状。

ただ、他者を傷つけることに特化した機械は少なく
代わりに見出したのが簡素ながらも効力のあるものでした

戦闘においては詠唱なんて物を一々行っていては相手に隙を見せてしまうという痛手が拍車を掛けたのかも知れない。

悲しきかな、詠唱を行ってこそ魔法の最大効力が発揮できるというのに…
その利点を殺してでも瞬間的な破壊に目を向けるのは人の宿命なのだと改めて知った

それからというもの、現代の「魔法」というものは詠唱を長ったらしく読み上げる面倒なものと一般では認識され

魔力のみを手のひらの表面に放出し、固定化させて玉状にして打ち出すスタイルが一般的となった

この方法ならば、攻撃と治癒両方に応用が利く上に詠唱の時間も必要ないので人々の関心を集めるのも納得である



日景「繋ぎ無き青に張り巡らすは白き糸…汝、この者等に心鎮を手繰る者の手解きを…!」



詠唱を終えると眩い光が辺り一帯を明るく照らす
私の胸元から赤く輝く紐状に形成された魔力が出てくると眠る彼の胸元へと入り込んでいく

私の魔力が外へと出て、彼へと流れ込む感覚

胸が熱くなり、不思議と彼との一体感を感じた私は幸福に満たされた



サーヴァント様…


あなたは何を夢見ているのでしょうか…?





――――――――――



――――――――――






サーヴァント「ここは…」

また、あの草原だ



しかし、何かが違う
どこがどう変化があるのか…それを指摘することは僕には難しい
無頓着で、いい加減。

なにをするにも、ああこれでいいやと妥協してしまう点を考慮するに、
僕は…関心がないのだ。



コハク「おや、また来たのかい?」


声のするほうへと向かい直ると彼女が茶を嗜んでいた。
コハクに対しても違和感を覚えた

これに関してはすぐに問題点が浮き彫りになったので早速指摘してみることにしよう。


サーヴァント「なぁ、なんで元の真っ黒な姿になっているんだ?」

コハク「ん?これがもともとの姿だぞ…それ以外に君は何をみた?」


これがもともとの姿だって?
冗談じゃない。

さっき見たドレスに身を包む女性は、言葉通りお姫様だった
今、此処にいる塗りつぶされたような真っ黒な影ではない


サーヴァント「――――貴女がドレスに身を包んでいた、とても綺麗だった」

コハク「……そうかぁ、そんなものが見えていたとは…」


カップを皿の上に置くと彼女は立ち上がってこちらへと歩み寄ってくる
すこし体を揺らしながら、こちらを下から覗き込む姿はまさしく歳若い女性の動作で可愛げのある仕草だ


コハク「案外、望みはあるのかもね」

サーヴァント「は?」


意味深な言葉を発した彼女に問い詰めるも、くるりと回り何事もなかったかのように笑い飛ばされる


コハク「で、今度はどうした。またボコボコにでもされたかい?」

コハク「困って泣きべそかかれても私はポイポイとお助け道具なんて出せないぞ」



心外だ。

どうも彼女の中の僕のイメージはとんでもなく貧弱であるらしい。


サーヴァント「失敬だな、頭痛がひどくて気持ち悪くて倒れただけだぞ」

コハク「風邪か、それとも虚弱なのかキミ。」

コハク「え、っていうかそれをなぜ胸を張って言えるんだ?」


ああ、違うね。
誰かに倒された、という分けではないので僕は弱くはないとも。
体調管理ができてないと指摘されるとぐうの音も出ないが、彼女の質問には堂々と答えられるぞ

負けてなんかないんだと。


まぁ、変な所で意固地になってもしようがないので覚えている限りのことを相談してみよう



――――――――――



コハク「なぁるほどね」

コハク「つまり君は、誰かに洗脳に近い記憶の改竄を受けていると」


サーヴァント「ああ」

確か、意識がここに来る前に聞いていた言葉はそうだった

軽々しくああも簡単に僕の頭の中を弄られているだなんて…
日景という男、もしかして頭が良くないのでは?


サーヴァント「そもそも簡単に他人の記憶を都合の良いように書き換えるだなんて…」

コハク「できるぞ」


―――は?


今、なんて言ったんだ?


サーヴァント「は?」

コハク「心鎮の意図手繰りを使えば割と簡単にな。」

心鎮の意図手繰り…
確かヤーンの契りだったか


あれってただ形だけの契約で、パートナーである二人の絆を固くするとか
そういう思い込み成分の強いものではなかったのか


コハク「あ、君の顔でわかるぞ…ちゃんとマヌカン王たちの話を聞いていなかっただろ?」

コハク「ヤーンは万能過ぎて危険でね、だから表だって知らず一部の者が扱うマイナーな魔法になりつつあるんだよ」

コハク「用途は無限大、戦いから創造、洗脳や意思の伝達にエッチなことだってできるぞ!」


なんだそれ
いや、ホントになんでもできるのか?


サーヴァント「え、じゃあ仮に僕が貴女と契約したらその真っ黒な姿をどうにかできたりするのか?」

コハク「えぇー、それって口説いてるの?」


違うわバカモノ。

確かに先の説明を聞いていてそんなことを言えば勘違いされてもおかしくはないだろうが…


コハク「んー…それは無理。だって私は実在しないし」

所詮は夢に巣食う蟲、と彼女は呟くけれど
その表情はどこか切なくて、寂しそうだった

前もそうだったが、どうして彼女の声を聴いていると胸の奥が蠢くのだろうか…


サーヴァント「なぁ―――」

コハク「――――来たか」

更なる問いかけを彼女に向けようとした時だった
コハクが眺める空の先、雲が立ち込めて一帯を暗くする


サーヴァント「なんだアレ…」

流れゆく雲は徐々に高度を下げているように見える
…というか、アレ…こちらに向かってきていないか?


しかもとんでもない速さで。

近づくにつれてモゴモゴと蠢く雲はとても気持ちの悪い動きをしている


サーヴァント「うわぁ…」

目の前に着陸…もとい墜落した雲は皿から落とした料理のようにベッチャリと草原に広がった
音もビターンってしてたし…やっぱり雲でも痛いのだろうか?


なんて無用な心配をしていると散らばった欠片を集めるように雲は再び大きく纏まり始める
高さもそれなりにあって自分と同じくらい。

腕も足もあって―――


サーヴァント「――――ヒト?」

これじゃあまるでヒトではないか。

体格的に少年期の男性
僕と同じくらいか少し年上な感じ…いやいや
みるみる形がしっかりしてきたぞ

サーヴァント「コハク、これって…」

コハク「私に聞くなよ、ただの雲の塊にしか見えてないぞ」


ただの雲の塊って…
コレ、どう見ても―――


サーヴァント「僕…?」

コハク「ほぉ、自分に見えるのか」



自分に見えるなんてもんじゃないぞ
鏡なのか?
目の前に居るのは間違いなく自分自身で、紛れもないサーヴァントそのもの。




サーヴァント「…お前は誰だ?」


『―――こんにちは、君がサーヴァントだね?』


喋った。

問いかけたのはこちらだから返事があったことには嬉しく思う
しかし、同時に嫌悪感が大きく表れたのはなぜだろうか?


サーヴァント「コハク。」

コハク「んー、相変わらずだ。なにか喋ってるのか?」

彼女には姿が見えず声も聞こえていない
実際に感じられているのは、雲の塊がここにあるだけだという


サーヴァント「質問に答えろ、誰なんだお前は」


『そうだね…さしづめ君がもつ力の具現だよ』




自分の力の具現…?

なにを言っているのかよくわからない

表情は硬い、と言うか無表情に近くて探りがいれられない
嘘をついているような様子もないし、真実を語っているような誠実さも感じられないからだ。


サーヴァント「僕が持つ力…、そんなものはない。僕はただの学生だぞ」

『ただの学生…ねぇ』

『そんな奴がああやって暴れられるのかい?』


…。

あれを知っている、と言うことは間違いなく僕を見ていた存在だ
しかし、傍らに立つコハクとは違いコイツの指摘はとても嫌気がさすものだ



『ああ、気に病まないでくれたまえ、何も俺は君を邪険に扱いたいワケじゃないんだ』

『ただ、頼れる力になりたいと思ってね』



おかしな事を言っている

自分自身に潜む力が意志を持って助けになりたいだって?

ははっ…バカげたことを言う。


サーヴァント「ふざけるな、僕は好き好んで戦いたくなんてないし 得体の知れないお前なんて信用できない」


『そうか、良い取引ができると思ったのだけれど…』

『君がお姫様を守りたくないっていうのなら仕方ない、大人しく眠るとするよ』


サーヴァント「待てっ」


考えよりも先に言葉が出た
コイツ―――、放っておいたら何をしでかすかわからない―――。

夢の中に存在するだけの奴が現実にどう影響を及ぼすかなんて、非現実的だと思うが―――


コハク「なんだ、私の顔をジッと見て」


彼女のように真実味のある存在がここにある以上切り捨てるのは危険だ
それに―――もし本当に洗脳に近い記憶の改竄をされているのだとしたら、こいつは誰かが仕込んできた罠になり得る


サーヴァント「ひとつ聞かせろ」

サーヴァント「アレースと戦ったのはお前か?」

『……そうだとも。肉体側で君の意識が潰えたのを感じ取って代わりに戦ったのさ』


やはりか。
だとしたら僕が眠っていたり、意識を手放すような状態になれば再びコイツが暴れることになる…


…っ!?


サーヴァント「…こうして眠っている間もまさか…!」

コハク「ああ、平気だよ君の体は眠ったままだ」


テーブルに頭を打ち付けて強制的に目覚めようとした矢先、彼女に引き留められて未遂で終わる
危ない危ない

あと少しでこの白いテーブルが真っ赤になる所だった


サーヴァント「ありがとう」

コハク「んむ。」


サーヴァント「お前の力、借りてもいい…だが僕の肉体を乗っ取るな」

『それは構わないが…万が一君がしくじった時は大人しく死ぬことになるぞ?』


構わない…
と大口を叩きたいところだが…僕は戦いに不慣れだ
先程のようにどちらの戦いでも意識を手放している以上、軽率にすべてがうまくやれるとは言い切れない


『本当にダウンしちゃったときは、君が起きるまで面倒を見るよ』

『それ以外はいいや、疲れるし』


普段の生活には興味がないのか…?
ますますコイツの事がわからなくなった


サーヴァント「お前の望みはなんなんだ…」

『ああ、言ってなかったね』

『俺の望みはただひとつ、君の力になって戦いたいんだよサーヴァント。』

『俺は戦うことが好きなんだ』

『だから平和な日常なんかには興味がないし、関心もない』


ただ、戦いたいだけ…?


サーヴァント「なぜ…」

『さっきも言ったろう、俺は君の力なんだ…』

『力はただ振るわれるだけであればいい』

『でなければ存在する意味もないし、価値もない。』


『それがたとえ…どんな願いに沿ったものだとしても』

『理由があるなら、振るわれるべき力なんだよ』



言いたいことだけ言ったような感じで僕に似た何者かは立ち去ってしまった




コハク「ん、いいのか放っておいても」

サーヴァント「わからない、アレの言ってることの全てが正しいとは思えない…信用できないんだよ胡散臭くて」


傍らに目を向けると彼女はとても懐疑的な視線をこちらに向けている
なぜだ

そんな目で見られる謂れはないとは思うのだけれど…


サーヴァント「なに」

コハク「いや、なんで君は私の言葉を信じるのかなぁって…ほら夢の中に居る点は同じだし…」


ああ、なんだそんなことだったのか
だからって落ち着きなくモジモジすることはないだろうに…まったく。


サーヴァント「貴女のことは信じてる、なぜかと問われると説明はできないが…僕に対して不利なことはしないんだろう?」

コハク「――――驚いた、とても単細胞なんだな君は。」


褒めた途端にこれである
素直に喜んだりしてくれないのだろうか、このコハクという女性は。

コハク「まぁ信頼してくれているのはとても嬉しいのだけれど…あまり過信しない方が良い…私だって私利私欲で動くこともある」

サーヴァント「そういうところだ」

コハク「ん?」


彼女を信頼できる根拠。
包み隠さずに己の事を伝えてくる姿勢

悪く言えばウソが下手で
良く言えば正直者。



サーヴァント「騙す気があるならそんなことは言わないよ」

コハク「はぁーん…そっかそっか…ふふ。」


今ので納得できたのか謎だったが、彼女はとても満足そうに笑いながらテーブルの周りでくるくると回りながら踊っていた

そして―――再びドレスに身を包む綺麗な女性に変化している彼女を見ていると
コハクは微笑みながら言葉を口にする


コハク「心鎮の意図手繰り…か、」

サーヴァント「何か気になる事でも?」

コハク「…ううん、なんでもないよ。」


問いかけに対して微かにだが、彼女から僕に向けられる視線がとても寂し気なものに見えたのは気のせいなのだろうか…?

彼女とは面識はない
だというのに、絶えず付きまとうこの胸の締め付けと蠢きは今も止まないまま

彼女は自らの頬を軽く叩くと改めて笑顔を向けて僕を送り出してくれるのだった


コハク「もう起きる頃合いかしら」

コハク「また、おいで?」





――――――――――


――――――――――




サーヴァント「…っ」


目が覚めるとそこには見慣れぬ天井が視界に映り込む


自分の家ではない
作りも、そして匂いも違う。

そして全身を襲う痛みと倦怠感が嫌が応にも先程の記憶を呼び覚ます


サーヴァント「…随分と痛めつけてくれたじゃないか」


どうやら、あの後僕は運ばれたようで、部屋の雰囲気からしてマヌカン邸の一室なのだろう。
とても高貴な装飾品や見た目でわかる材質のよさそうな物ばかり…

内心、このままもう一度眠りに落ちて体を休めたかったのは言うまでもない。
しかし、どうしてか必ずこういう時に決まって邪魔が入ると相場が決まっている


『コンコンっ』

ほら来た、予想通り。
ドアがノックされるとノブが軋みをあげて来訪者を迎え入れる


リリン「…お目覚めになられたのですね…」

サーヴァント「……」


室内へと足を踏み入れた彼女はすぐに僕の意識が戻っていることに気がついたらしく笑みを向けてくる

そんな彼女に対して僕は、なんと言えばいいのかわからずに黙ってしまう


サーヴァント「どれくらい…寝ていたんですか?」

愚痴以外に出た最初の言葉がこれだった

己の無力さに対しての失望もあるけれど、それ以上に夢の中で会話したもう一人の自分との内容を思い出して悪心にかられる
その結果が大して重要性のない発言へと至ってしまう


リリン「…三時間ほど、ですね」

リリン「意識を手放す前のことを憶えていますか?」

こちらの気配を察知したのか彼女はベッド横の椅子に腰を下ろし心配そうにこちらを見ている
僕は黙ったまま首を横に振ると彼女は一呼吸した後、事の経緯を話してくれた




僕は、日景の手ほどきの末彼女と契約を交わした


その影響もあってか
体に流れ込む魔力を感じるも量が絶大で、体が絶えず脈動を繰り返しているように思える



サーヴァント「っ…、」

リリン「サーヴァント様…やはり痛みますか?」


傷の事を彼女は指摘しているのだろうが見当違い。
ヤーンの契りによって結ばれた契約から成る魔力共有は想像以上に負担がかかるらしい

ハッキリ言ってとても苦しいのだ。



『コンコン』

再びドアがノックされるともう一人の来訪者が現れた

応答をする前にドアノブが回り踏み入ってくる


…奴だ。



日景「具合はどうだ」

サーヴァント「おかげ様でね…」

彼の声を聴くだけでせり上がってくるものを押しとどめる衝動にかられ
深くため息を吐いた後にやっと口にした言葉は皮肉混じりなものだった


日景「皮肉が言えるくらいなら大丈夫だな、気乗りはしないが殿下より言伝を預かっているので手短に話すとしよう」


彼の口から語られる先の戦いの真意。
僕の実力を見るための物であり、アレースと戦った際の力が仮初のものではないことを確かめたかったと言う


サーヴァント「なんのために」

リリン「それについては私から…お爺様は近々マケットへと旅立たれます」

リリン「しばらく留守にする、その合間にピースでの一部の仕事を私がお預かりすることになったのですが…」


…?

なぜ、そこで話を区切るのだろうか?
彼女は俯いたまま、その先の話を進めずにいる


そんなリリンの姿を見かねたのか日景は閉ざしていた口を開いたのだ



日景「殿下をお守りする私がここを離れる以上、リリン様を守れるのは他に居ないということだ」

サーヴァント「なんで…他にも人はいるでしょうに」

彼の言い分が理解できない
彼女はマヌカンの姫君で守られるべき対象。

だったらマヌカンから腕利きの精鋭を連れてくるべきだろうに



日景「…私も、それが一番と思ったのだがこの方が意固地でな。」

リリン「ダメ、なんです…」


ダメ…?
ダメって何がなのだろう

日景を除いて、頼りになれる者がいないのだろうか


日景「姫様、やはりここは私たちと共にマケットに向かわれたほうがいいかと」

リリン「なりません、ここでの生活はいずれマヌカンでも生かされるべき風習を学ぶ機会であって…」

リリン「三世界が交流するようになって落ち着きが見え始めた今も大切なやり取りがある以上、私がここで代理を引き受けるのが一番…」


少しずつだけれど話が見えてきた


マヌカン王は近々ここを離れて他世界であるマケットへと向かう
その合間、ピースでの仕事を代わりに受ける彼女の補佐兼、守れる人脈が欲しいとのことだがマヌカンから遣わせることはできず
信頼できる者もいない

故に僕に白羽の矢が…とのことだが
やはりはっきりとしない。


そうだ。
僕はまだ、どうして僕が選ばれたのかを聞いていない



サーヴァント「………なぜ、僕なのですか」


問いかけても答えてはくれない

彼女は今も俯いたままで日景も視線を流している



いい加減だ。


僕は弄ばれているのかもしれない
先の戦闘は場の空気に飲まれて請け負いこそしたが動機が不純なままでは僕もこれ以上は干渉できない


マヌカン王は言っていた

遠い日に交わした夢物語、その約束がある…と。



でも…僕にはそんな覚えはないんだ



それが…誰かに記憶を弄られていたからだとしても
今の僕は…僕は…。


サーヴァント「………帰ります」


リリン「え――――」



重苦しい空気にしてしまったのは申訳ない
けれど、なんの説明もなく
浮ついた抽象的な話だけで取り込まれるのはごめんだ。


僕が席を立つと、日景は玄関まで見送ってくれた

結局、家を出るまで彼女は何も言わないまま
ひとりあの部屋に残っていたのだ



日景「サーヴァント」

サーヴァント「なに」


玄関を出てすぐ、彼に声を掛けられる

今まで以上に突き放すような言い方になってしまった
微かに罪悪感を感じながらも日景に問いかけの意味を問う


日景「あまり彼女を責めないでくれ、本当に頼りになる者がいないんだ」

サーヴァント「意味わかんないよ、リリン様ってマヌカンの王族だろ…民からは慕われているんじゃないのか」

日景「………上に立つ者というのは、崇拝されるだけではない」

日景「立場から引きずりおろされ、下手をすれば命を狙われることもザラだ」


わからない

わからないよ…


サーヴァント「だったらやめればいいじゃないかっ…命まで狙われてまでやる事なんて―――」

日景「そうだな、お前にはそういう価値でしかないんだ。マヌカンも…彼女も」


なんなんだよ…
その目…

僕にはそういう価値でしかないって…


なにが言いたいんだよ!!


日景「やはり買いかぶりだったようだ、さっさと消えろ」

サーヴァント「……コレ、どうするんだよ」

胸を叩く。
何も現れたりはしないが、この胸には先程彼女と結んだヤーンがある

これについても不明な点が多い。


結局、これを結んだからと言って僕が彼女の何になれるっていうんだ


日景「なにもしなければ害はない、彼女が相応しい者を見つけた時に新たな契約が結ばれてお前のものは勝手に消えるだろうから気にするな」

日景「お前はこのまま、何事もなかった平和な日常へと帰るがいい。お前自身が望んだ日々がお前を待っている」


勝手なことを…。
自分の事くらい自分で決めるさ



二人とは半ば喧嘩別れに近い形で離れる事になった

気になることが多々ある中、僕は投げ出してしまう選択肢へと向かいつつある




日景「最後にひとつ、お前に伝えたいことがある」


日景「お前はあの時、私を圧倒した。」


日景「それだけの力を有しているのであれば、使い道を誤まるなよ?」



サーヴァント「―――――。」




彼の言葉を胸に留めながら
僕は帰路についた




――――――――――




――――――――――





リリン「彼は…」


日景「帰りましたよ」



リリン「……私は、どうしたらいいのでしょうか…彼に全てを打ち明けるべきなのはわかっています…でもっ」


日景「姫様、余り深く思い込まないほうが宜しいかと…焦っては事を仕損じます」

日景「順を追って…まずは姫様が今置かれている現状のみを話せばいいかと…混乱も見られますし」


リリン「―――――――、はい…。」






――――――――――




――――――――――




ダリア「ぶううううううっ!!」


サーヴァント「おわっ!?」


帰宅して早々に妹にクッションを投げつけられる
本気のそれではないが、なかなかに重量があるため重いではないか。


サーヴァント「なんだ、藪から棒に…」

ダリア「知らない!!」

ぷいっと効果音が鳴りそうな感じで視線を逸らした妹はそのまま自室へと閉じこもってしまった

うーん…なにかしただろうか?
心当たりはないのだけれど…


キショウブ「あら帰ってたの?」

サーヴァント「ああ、はい…今…」

キショウブ「…どうしたの?」

僕の妙な反応に気が付いたらしく姉が訪ねてくれた
僕よりも先に家に居た姉ならばなぜダリアが不機嫌なのかを知ってるかも

深く考える前に僕は尋ねてみることにした



キショウブ「あー、あの子ね…貴方と夕方デートするって約束してたの忘れられて怒ってるのよ」

サーヴァント「……あ゛ !?」


思い出した

いけない
これは完全に僕のせいではないか

妹が怒っても不思議じゃないぞ…!


サーヴァント「参ったな…なんて謝ればいいんだろう?」

キショウブ「お菓子もってけばいいんじゃない?」


いや、そんな安直な手土産でどうにかなると思ってるの!?
というか、同じ女性で姉妹なんだからもっと的確なアドバイスとかさぁ…


キショウブ「なにか言いたそうね」

サーヴァント「いえ、なにも…」


サーヴァント「いや、あるわ」

キショウブ「どっちよ」


悩みぬいた末、近場のコンビニで簡易スイーツセットを手土産に謝りに行くことになった


サーヴァント「これでなんとかなればいいんだが…」

家に帰ってすぐに姉にお菓子を一通り見せ、これでご機嫌取りができるのかの是非を問う。
姉はとても迅速な手さばきでビニール袋からスイーツをひとつ掻っ攫うと、そのままゴーサインを出すのだった


『コンコン』

ドアをノックする
…返事はない。

ドアノブをガチャガチャしてみる
鍵はかかっておらず、開けようと思えば開くがなにもしない。


反応はない

と、思ったのだが


ダリア「なに?」

とてもご立腹な妹が出てきた
好都合だと思い、そのまま袋に入ったお菓子を渡す

サーヴァント「今日のお詫び、食べて」

ダリア「―――――、私の好きなプリンがない、ので許しませんっ悲しみ!」

サーヴァント「え゛」

バタン!と勢いよくドアが閉められてしまう。
もちろん、差し出したスイーツは全てダリアが持って行った

訪れる静寂に僕はただ、震えるしかなかった―――…。




サーヴァント「って、おい」

なんだ今の態度は。
いくら何でもあんまりじゃないか!?


サーヴァント「ダリア、すまなかったって…」

ダリア「怒ってません!」


いや、怒ってるだろ。
その声色はどう考えてもさ。


サーヴァント「とにかく、それ食べて落ち着いたら話そう?な?」

ダリア「女の子に、…むぐ。こんな夜中に甘いお菓子買って来ておいて太れって言いたいのお兄ちゃん!?……うまっ」


食べてるじゃん。

はぁ…なんかもういいや
今日はいろいろあって疲れたし…休むとしよう


サーヴァント「しかし…プリンがないって…確かに買ったはずなんだが」


キショウブ「プリンおいしー、このカラメルの苦さがまたっ…☆」


あんたかい…。




――――――――――



――――――――――




サーヴァント「―――、ふ、ぅ……」


食事や風呂など一通り済ませて自室に戻り痛みを我慢してベッドに入る
姉や妹に何も言われなかったのは顔に傷を負っていなかったからだ

その点、奴は上手く戦ってくれたらしい。
おかげで家族に余計な心配を掛けずにすんだのだから…


しかし…


サーヴァント「なんなんだよ…僕じゃなきゃダメって」

彼女はマヌカンの姫君。
皆から慕われ、将来王位を継ぐであろう希望の象徴的立ち位置の方で高嶺の花。

そんな高貴で身分のある存在が何もない僕にここまで関心を持つことがおかしいのだ

そもそも、僕は彼女といつ知り合った?
どれくらい前から話すようになったんだ?


サーヴァント「それもこれも全部記憶を弄られてるから…」

そんな話、誰が信じてやるものか。
僕は僕なんだ

今まで生きてきたのは紛れもない僕自身で、これから先の道を歩むのもまた自分なんだ。


だけど―――


サーヴァント「どうして…子供のころの記憶が思い出せないんだろう」


そうだった
姉や妹に昔、僕たちがどんなことをしていたのか聞かなければいけないんだった
ダリアがあんなにも拗ねてるものだから忘れていたよ

……、いや、流石に夜も更けた。
下の階も静かになってるし、二人とも眠っている可能性が高い

今夜は大人しくこのまま眠って日を改めて聞くとしよう
ダリアも…明日には機嫌が直ってると思いたい。


サーヴァント「…、……、」

瞼が重い
意識を手放してしまいそうだ

このまま眠ってしまうのはいいけれど、何かの拍子で眠りが浅くなった場合
部屋の明るさで起きてしまっては良質な睡眠は得られない

ここは何としてでも部屋の灯りを落とさねば…


サーヴァント「っと…よし…このまま眠るとしよう」

明日はきっといい日になってるはずさ
自分にそう言い聞かせながら瞼を閉じる。

眠るまでそう時間はかからなかった。



――――――――――



――――――――――




コハク「いや、ホントによく来るねキミ。」

コハク「またおいでって言ったけどさ、節操とかないの、ねぇ?」


本日三度目の会合に流石の彼女もあきれ顔だ

でも、心なしか嬉しそうにしているのはなぜなのだろう?



サーヴァント「今回はなにもない、一日の終わりに眠っているだけだよ。」

コハク「あら、そうなの…」


真っ黒な彼女は僕の言葉を聞くととてもつまらなさそうに席について茶をカップに注いでいる
ジッと見つめていたのに気が付いたのか、視線だけでこちらに飲むかどうか尋ねて来たので黙って頷いて返す。


コハク「でもね、ここにあなたが来るって言うことはなにか報告や整理したいことがあるからなのよ?」

サーヴァント「む」

鋭いな。

今までこの草原に訪れることがなかったのは、深く物事を考えず
それなりに済ませて来たからなのだろう


サーヴァント「なぁ、コハク。」

コハク「ん、なにかしら?」

サーヴァント「君、今僕をまた単細胞だと馬鹿にしなかったか?」

コハク「えぇ、してないわよぉ」


目。
目がこっち見てないぞコラ。


結局、彼女の指摘通り
僕が此処を訪れたのは相談事があったからだ


サーヴァント「外の事って君に伝わるのかい?」

コハク「んー、どうだろ」

コハク「あなたの意識がこっちに来てるなら見れたりするけど、それ以外はわからないわ」



なるほど
では、先ほどまでのやり取りは彼女は知らないということになる

ここは上手く整理してから言葉にして話したほうが良いのかも知れないな。


サーヴァント「………」

コハク「そんなに考えなくても妹ちゃんにはまたプリン買って来てあげればいいだけでしょ」


バッチリ知ってるじゃないか!

なんなんだよ、もう。


コハク「ごめんって、ちゃんと話は聞くから…怒らないで、ね?」

席を立ち、こちらに駆け寄ってきた彼女は僕を抱きしめて頭を撫でてくれる
心地は良いんだが、いかんせん恥ずかしい

というか、どうしてそこまでされなければならないんだ?


今日は本当に疑問が絶えない一日だ

しかしそれら全てに構っていては心がやられてしまいそうになるので多少は気にしないようにせねば。


サーヴァント「それはそうと…なんか話し方違くない?」

コハク「そうかしら、私はいつだってこういう話だと思うけれど?」


そうだったかな?
なんか普段はもっとこうボーイッシュっていえばいいのかな


サーヴァント「僕の前だけだとそういう話し方になるよね…たしかあの時も―――」

コハク「………。」


視線を感じる
コハクからだ


サーヴァント「どうした?」

コハク「んーぅ、なんでもないの…えへへ」


瞬きをした際に、例のドレスに身を包む彼女に見えたのは黙っておこう。
彼女とこうして話しているととても落ち着く。

僕はこの気持ちの向くまま、コハクに今日一日の出来事を相談し
いいアドバイスがもらえないかお願いをすることにした



コハク「ん…結局あなたの悩みっていうのはリリンに必要とされる理由がわからないから?」

サーヴァント「そう…だと思う」


話の論点が一番胸に突き刺さる内容だ
恐らく僕の話し方もマズかったのだろう

無意識にここの部分を強調していた可能性も少なからずあるだろうし
実際の所悩みの大きなタネであるに違いもない。


コハク「それについて私が言える事は…『女の子がそう言うにはとても勇気がいる』ってことくらいかなぁ」

サーヴァント「…わからん」

ピンっと額を指で弾かれる
とても痛いが反論など受け付けないって顔だ。


コハク「ウダウダ言うな、男だろ」

サーヴァント「いやいやいや、おかしいだろ。良く知りもしない相手を頼るとかさ」

コハク「ぇー、じゃあなに。あなたって知ってる人とじゃないと何かしら行動ができないタイプなの?」


学校の授業とか本当についていけてるの?
とかいらぬ心配までし始めた彼女。

僕が聞きたいのはそういったことじゃなくて…!


サーヴァント「つまりっ…!」

コハク「はいはい、じゃあ私が今から例を挙げるから良く聞きなさい」


彼女は指をパチンと鳴らすと何処からともなく大きな黒板とチョークを手にして教師風に語り始めるのだった。


コハク「あなたにはお姉さんと妹が居るわよね」

サーヴァント「ああ」

コハク「その二人が急遽外出することになりました、家に残るのはあなた一人。」

コハク「お姉さんから、あなたに対して家事をひとつ託されていますがあなたはそれがとても苦手。」

コハク「そんな時、あなたはどうするの?」

サーヴァント「やらない」


――――おお。

ものすごい勢いでチョークが耳の横を通りすぎて行ったぞ。
真後ろでなにか岩らしきものが砕けた音がしたが気のせいだろう

教材が殺人兵器になるなんて話聞いたことないからな、間違いだ。


コハク「馬 鹿 に し て る の ?」

サーヴァント「すいませんでした」


椅子の上で正座をし
まじめに彼女の話を聞くことを専念する

僕は、コハク先生の、授業が、楽しいです。


コハク「そんなあなたにとある選択肢が現れます、それは『誰かに聞いて自分で実行してみる』ということ」

コハク「さぁ、あなたは誰に聞くのかしら?」


―――――、

誰かに…?


僕ってそんな頼れる友達っていたか?
居ない

皆、それとなく会話をしてるだけで本当に悩みとかを相談できる相手なんていない
もし、そんな相手に心当たりがあるのだとしたら……



コハク「ん?」


サーヴァント「きみに聞く」


僕は迷わずに目の前に居る女性、コハクを指名した。


コハク「なんで?、私あなたにそんな事頼まれるほど親しくないわよ?」

サーヴァント「っぐ…」

これって結構言われるのきついな。
自分は相手の事を信頼しているつもりでも、相手の都合は違うか…

くそ、結構悩んだし正面から切ってお願いするのにも勇気が必要だったってのに…


サーヴァント「……ん?」

コハク「気づいた?」


今の僕ってもしかして
リリンの立場にすごく似てるんじゃ…?


コハク「そ、今のあなたがリリンの…私があなたの立場でやってみたんだよ?」

サーヴァント「…なるほどね、僕はなかなかに酷い男だ」

コハク「解ればよろしい、女の子が助けてほしいって言ってるんだから男見せなさいよ?」

胸をドンっと叩かれる
おかげで腹をくくることができた

やはり彼女に相談して正解で、僕の聞きたい事を教えてくれる…


サーヴァント「ありがとう、コハク。」

コハク「どういたしまして、あなたの頼みならお安い御用よ」


ん。
とても嬉しい言葉だがこれ以上恩を作るだけになるのはみっともないな
何かお返しできればいいんだが…


コハク「あ、余計なこと考えてる…」

コハク「良いんだって、私はあなたの役に立てれば…それだけで」


サーヴァント「いや…いつか必ず恩は返すよ…今は何より彼女に謝ってくる」

僕の言葉に彼女は満面の笑みを浮かべると背中を押してくれた
どうやらもう現実では陽が昇っているらしく、起きる頃合いとのこと。

せっかくだ。
少しばかり早起きして心の準備を済ませようじゃないか


サーヴァント「行ってくる、見ててくれよ!」

コハク「ああ、行ってこい!」



意識を取り戻すため、僕は平原を去る
起きる直前、振り向くと丘の上で彼女はいつものように素敵な姿へと戻ってこちらに手を振っているのを僕は見逃さなかった




コハク「……私の事、覚えてくれてて…まだ頼ってくれるんだね…」


コハク「嬉しいな………ねぇ、次はいつ来るの?…良い茶葉とケーキを用意してるから…またおいで…スレイブ。」





――――――――――




――――――――――



サーヴァント「……行こう。」


目が覚めて、学校へ行く準備をする

身だしなみはよし。
朝食も適度な量と栄養バランスを考えたものにしてもらった

調子も良い


あとは彼女に会うだけだ



サーヴァント「行ってきますっ」


キショウブ「あら、今日は早いのね…気を付けて行ってきなさい?」

ダリア「………ぷいっ」




また帰りにお菓子を買ってこよう。
今度は二人分で取られないようにしないと


いいや、三人でおやつを食べるんだ


小走りで通学路を掛けていく
朝早くの時間、まだ他の学生は見受けられない

風は微かに涼しく、しっかりと降り注ぐ太陽の光が体を適度に温めていく。


サーヴァント「はっ…はっ…!」


大丈夫。
きっと謝れる


逸る気持ちを抑えたつもりなのに
あっという間に学校へと到着してしまった。

昇降口の下駄箱の前で息を軽く整える

サーヴァント「よし…」

適度な心拍数を維持して自身の教室の前へ。
引き戸の向こうに感じる音。

足音と共に教室の窓を開けている音がする
リリンがそこに居る

僕はそのまま戸に手をかけて開けると、背伸びをしながら窓を開ける彼女の元へと向かい―――


リリン「え―――サーヴァント様?」

サーヴァント「貴女を、守らせてください」



約束を…果たしたい。


[*前へ][次へ#]

4/13ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!