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Maquette-Mannequin  〜マケット・マヌカン〜
Page 10「再会」


焦土と化した集落



もう間もなくと咲き頃を迎えるであろうヒマワリの花は無残にも踏み倒され
灰と消し炭に変わり果てている



……花や建物だけであれば、まだ良かっただろうに
『それ』を見るまでは…




リリン「――――ひどい」



辺りを見渡し、やっと口にできた言葉がこれだけだった


焦げ臭さに加え、えもいわれぬような悪臭が一帯に立ち込める

その正体に辿り着くのにはそう時間はかからなかった




ヒトだったモノの燃えカスの山






家も動物も水路すら無事な物がない


これが、本当にマケットの行ったことなのだろうか







サーヴァント「………」


『カイライ』


間違いなくこの事件の裏には奴らがいる


マヌカン王や日景が言っていたように…闇で手繰すを引き、何かを狙っている




リリン「――――サーヴァント様、あれを」


考え込んでいるとリリンが遠くを指さした



サーヴァント「…煙」


そして僅かながらにも地響きと空気を揺るがす爆発音

間違いない
あの場所で、確かに何かが起きている



リリン「行きましょう!」

サーヴァント「わかりました―――!」



走る彼女に速度を合わせ
手慣れたように助走をつけてから彼女の体に腕を回し
ふわりと持ち上げて宙を駆けては着地する


随分と距離はあったが道が平坦な為にそこまで苦労する事無く
煙が上がっていた場所へと到着した僕たちは調査を始めた





小さな村だが先ほどの集落よりは豊かであることは一目でわかる


だが、そんな村にも争いの火種は襲い掛かっていた


中心部へと向かうと、如何に深刻な状況なのかが理解できた


マヌカン王が捕えられ指揮は混乱し
同時に多くの土地で奇襲を受けたのだろう

支援の兵や物資もなく、ただ相手に狩られるだけの弾圧と蹂躙


村の男たちも生粋のマヌカン族だが、魔法に長けている訳ではない
所詮農民は農民でしかないのだ



そんな彼らではあんな化け物を止めることは出来ないだろう




「−−たすけて−−」



「――――――いたい―――苦しい―−−−−−」






リリン「……」

街に立ち込める死と恐怖の旋律

リリンは堪らず立ち止まると深い傷を負った人々に治癒の魔法を掛け始めた


サーヴァント「リリン様…」


リリン「…申し訳ありません…今は先を急がなくてはいけないのでしょうが…
この人達を放って置く事は私にはできません」


涙を堪え、怒りを殺し
ただ、ただ今だけと言い聞かせる彼女



――――思い違いだった


彼女は変わってしまったわけではない

その心には常に慈しみと優しさがある


ただ、「対応」が出来るようになっただけなのだ



決して、非道ではない



これはリリンの「強さ」なのだから…








『――――  ―― ― ― ―!』



轟き



リリン「―――――!」

サーヴァント「な、なんだ!!!」



辺り一帯、地面を震わす爆発音


煙は生き物のように群れを為し、あろうことかこちらに向かって来るではないか



サーヴァント「―――――ちぃ!!」

リリンの上を飛び越え、真っ向から立ち向かうように陣取る
視界にソレを捉えてからの反応は驚くほど速かった


リリン「サーヴァント様!」




一か八か、全身から魔力を可能な限り引き出し拳に収束―――



その腕を斜め手前へと地面目がけ打ち出し、魔力を孕み大きく膨れた地面は岩となり
防壁と化して爆風を左右二つに分ける事に成功した


サーヴァント「良し―っ――!!!!」




喜びの声を上げたのも束の間―――――


左右に分れた一つの煙、その中は黒く影を為し

傍らを過ぎ去る光景に目を疑った



ダリア「――――――――――」



サーヴァント「―――ダリア!!」

確かに妹だった
一瞬しか視界に映らなかったが、大切な家族を見間違えるわけなど無い



リリン「――――!」

分かたれた灰煙のもう一つには真っ白に色塗られたネメシスに似た化け物―――




突き抜ける風と抉られた地面に残る魔力の波長



サーヴァント「―――――――!」


その眼は妹を捉えた事をいち早く体に伝え、思考よりも速く追う体勢を作りだす


けれどもその脚は地を蹴ることなく、追うは出来なかった

ひたすらに人々の傷を癒す彼女を敵が息潜めるこの地で一人にはできないと



サーヴァント「――――――――……」




リリン「……行ってください」


彼女を抱え、ダリアを追う事は難しい事ではない
けれども彼女が今この場を離れれば間違いなく死ぬ命がある

その眼は決して揺れることなく、ただじっと僕を見据えて「行け」と言う
彼女は恐らく僕の考えを理解した上で決断したのだろう



サーヴァント「――――すぐ戻ります」

これも自分の意思なのか


はたまたヤーンの賜物か
僕は何一つ悩むことなく彼女に背を向け、地面を蹴った


風を切り、駆け出す際に心なしか小さく

「行ってらっしゃい」
と聞こえたような気がした



―――――――――



―――――



――





サーヴァント「―――――――あれか――――」


ものの数分、街をひた走り
郊外へと抜けると森の中へと入り込む




静かだ




風が木の葉を揺らし、鳥たちのさえずりが聞こえる



サーヴァント「……おかしいな…魔力が途切れている」


痕跡がなくとも僅かな魔力の軌跡があるならば追跡は可能だ
ましてや、戦闘を行ったのなら尚更に足跡が残るだろう


だだ、おかしなことに
森の入り口までに確かに存在した魔力の軌跡は途絶え

戦闘の痕跡もなく

動物たちが暮らす平穏な森でしかなかった




サーヴァント「ダリアぁ――!!!」

突然の叫び声に驚いた鳥たちは一目散に逃げていく。




妹は何処へ――――


無事なのか


頭の中を駆け巡るのは常に悪い想像ばかりで、必死に否定するかのように首を左右に振る


『―――――――――、−−−−−−−』




サーヴァント「―――な」



―――しくじった


考えを単純にしすぎていた


なにも魔力を使う物は地上を奔るだけではない

幹と枝を伝わり、空も駆けられる



敵は陽を背にし、視認できない速さと光りの作り出す暗闇に身を任せ降下してきた







サーヴァント「―――――っ………?」




けれども、その影はいつまで待ってもこの身を裂く事はなく

代わりに馴染のある声が聞こえてくる




ダリア「お兄ちゃん…?」



妹だった



目の前に現れたのが身内で驚いたのか
妹は目を丸くしたまま立ち尽くしており、ハッと我に返ると僕の服の袖を握りしめ
まるで嵐の様に迫り山ほどの質問を投げかけて来た


どうしてここに来たのか

なぜ、報道の事を知ったのか


どうやってここに来たのか


その姿に思わず笑みが浮かびそうになったが、怒られそうなので
一つ一つ茶化さずに答えた




――――――



―――










ダリア「つまり…私たちが心配で来てくれたんだ?」


サーヴァント「ああ。無事で本当に良かった、…ところで…姉さんは?」


ダリア「無事だよ、ちょっと離れたところで二人で隠れてるの」

僕の質問に無邪気な子供のようにその場でくるりと回って見せる


振り向きざまに目を細め、少しだけ大人びたような笑顔を向けてくる



ダリア「……会いたい?」



サーヴァント「……」

その言葉聞くなり
口を開くよりも先に首が縦に動いていた



大切な家族の妹に会えた…
なら、次は姉に会ってお互いに無事であることを確認したい


そして…今度こそ聞こう

自分が何者なのかを…




ダリア「決まりね、急いでお兄ちゃん…あいつらしつこいから…」

無意識だった


ああ、本当に悪気があった訳ではない


案内すると言い出し歩き出す妹に
僕は一つだけ気になってしまった事を尋ねた






サーヴァント「…………―――なぁ、ダリア。
カイライってなんなんだ?」



ダリア「―――――――」


歩みが止まる


時が止まったかのように静まりかえり


呟かれた一言だけが耳に良く通った





ダリア「…なに言ってるの?カイライってなんの事?」





振り向きざまにこちらを見据える瞳はとても真っ直ぐだった



まるで、少しでもこの眼を動かせば食われてしまうほどに真っ直ぐに…



だとしても引き下がれない
事をこのままうやむやにしてしまえば、恐らくずっと何も知らないままに終わってしまうだろう

そんな事は嫌だ…



サーヴァント「お前もあの化け物に襲われた…ここの争いの火種もやつらなんだろう?」


ダリア「アイツらじゃないよ、これはマケットの仕業…」



かみ合う事のない会話


妹はカイライを知らない
けれども、マケットと別のものだという事は知っている…


サーヴァント「なんで…マケットとカイライが別だって言えるんだ?」


ダリア「…?お兄ちゃん、さっきから変だよカイライってなに?」


声が微かにうわずっている

瞳孔の動きも不自然で視線は合っているものの、その眼は僕を捉えてはいない



…間違いなく、何かを隠している



サーヴァント「…ダリア、答えてくれ僕は何者なんだ!?」


やはり姉たちは僕や、カイライの事を知っている
その気持ちが焦りを産み出し、愛する妹にも食ってかかり
両肩を掴んで揺すぶる



強迫に近かった
兄が妹に強くあたる…
それでもダリアは恐怖に臆することなく


じっと僕の目を見つめながら瞳に涙を滲ませていた




ダリア「……………………………どうしてそんな事言うの?」




口元が歪み、頬を伝う雫は止めどなく溢れて感情を露わにする



ダリア「お兄ちゃんはお兄ちゃんだよ!サーヴァントなの!…戦争とかカイライとか関係ないの!!」


サーヴァント「…ダリア…」


泣きじゃくる姿は、僕の良く知る妹そのものだった

強迫観念に駆られ信頼するべき家族を疑い
傷つけてしまった自分を悔やむ



そうだ…


別に、自分が何をしていたのかなんて関係ない


今の自分が何を、どうするかが大事なのだろう



サーヴァント「……」


一歩一歩、すすり泣く妹に向かって歩み寄る
今はこれでいいんだと


そう自分に強く言い聞かせながら、ダリアを抱きしめて泣き止ませよう


そう思った直後だった





『――――――― −−−−−−−−』



耳障りな雑音



滑空とは程遠い垂直落下による木々のしなりと枝の折れる音に混じり、機械的な音も混じっている





「ギチ――――ギギ」


地面に着地した際の土煙を煙幕に仕立て上げ、
接地したばかりで休むことなくその中を駆ける化け物じみた挙動


間違いない


カイライだ



サーヴァント「――――――こいつ――――!」



煙から抜け出て目の前に現れたソイツは、ネメシスに似てはいたが別物であることは一目でわかった



感情のない、生きている兆しのない眼と冷たい空気




コイツはただの兵器だと―――




そんな危険な物体が妹の傍に立っていることに黙って見て居られるほど能天気ではない


今すぐに手を伸ばせば―――、



ダリア「――――え――――?」



届かない


この手は愛する家族を掴むことなく
今その場にいた妹を助けようとした右腕は寂しく、ただ空気を握りしめ

ただ連れ去る者の姿を目に焼き付ける他に手はなかった



サーヴァント「ダリア――――!!」

たまらず雄叫びをあげる
木々の枝と葉は揺れ動き、敵の動きを僅かに鈍らせる事ができた

この機を逃してはいけない

すぐに踵で地面を蹴り、追いかけるように樹の上へと駆けのぼり追跡に入る




敵はなかなか俊敏だ


全力で加速しなくては見失ってしまうだろう…




サーヴァント「…っふ!!!」



――――風を切る


木の幹を蹴る度に速度は増していき着実に距離を詰めていく








――――――長い

体は満足に動くというのに、何故敵に追いつくことができないのだろうか…








サーヴァント「……これは」



いや、追いついていない訳ではない





確かに距離は詰まっている






だが、この脚が迫るたびに距離を引き離されているのだ


自分でも理解するのに時間が掛った


そう、三歩近づけば二歩下がってしまっているのだ



なぜ…?


考えに老け込んでいると、足の運びが悪くなり我に返る



サーヴァント「いけない…今はダリアを…、」


視線を前へと向ければ不思議な違和感を覚えた

今確かにスピードは落ちたはずなのに敵との距離は変わってはいない


明らかに向こうはこちらの調子に合わせている







ここでまた一つ、頭に考えがよぎる





サーヴァント「…誘ってるのか」


恐らく敵の目的は僕をどこかへ案内することだ


そうでなければ、この一定の距離を保ち続ける意味が分からない





でも誰が、何のために…?






そう思考が働いているうちに敵は枝を伝わり下降し始める




サーヴァント「――――洞窟?」



減速せず下降する最中、木の葉に視界を遮られてしまうも
この目はしっかりと敵の姿を見届けていた



枝に捕まりながら勢いを抑えて地面へと着地する




我ながら化けた身体能力だと改めて思い知った




そう、改めて思い知っただけで何も思うこともせず
じっと目の前の洞窟を見る



大きく口を開けたように広く、そして見る物すべてを吸い込む程に暗い




思考は止まった




僕はただ、脚を動かして
誘い込まれるように暗黒の中へとこの身を踏み入れていく






辺り一帯は暗闇


僅かな光は入口から差し込む日差しのみで他はない



自然にできたものなのだろうか…
ゴツゴツと突き出た岩に乗ると苔のせいか足を滑らしそうにもなる


それでも僕は無心で奥へと歩を進めていく


するとしだいに足場は安定した平らなものとなるのが足裏から伝わる


…まるで整地したかのように





水の滴る音も聞こえなくなると
視界は明るくなっていく

それでも薄暗いのは変わらないが真っ暗ではないのが唯一の救いだ



サーヴァント「……」


何かいる


恐らくは先ほどのあいつだろう…

瞬時に足場の良い所へと立ち回り臨戦態勢を取るものの、
一向に攻撃をしてくる気配はなかった




サーヴァント「そこにいるのはわかっている、僕を何故ここまで誘い出した」



答えは返って来ない



『――――…――――…』

水の滴る音
洞窟の天井から滴る水だろうか…

だが水音の中に、微かに別のものが混じっているのを僕は聞き逃さなかった




「…くす……――――ふふふ」


暗闇の向こうから漏れ出すように聞こえる笑い声

声の質からして女の物だ




サーヴァント「―――――――――出てこい!」


「はいはい…今日は一段と男らしいわね…」



その言葉に答えるかのように壁際に掛けられている照明器具に灯りを灯し
ゆっくりと闇の中から姿を表したのは…



サーヴァント「――――!」


キショウブ「長旅、お疲れ様…サーヴァント」



一番会いたかった姉のキショウブだった







――――――――――






―――――





――







キショウブ「なるほどね…それで貴方は此処に来たわけか…」



僕は此処まできた経緯を話した
思わぬ所での再開に拍子抜けだが、それでも会えたことへの嬉しさの方が大きかった
今まで積りに積もった憂鬱な気持ちは晴れたような気がした…


サーヴァント「………姉さん、」

キショウブ「ん、わかってる。貴方が聞きたいことは沢山あるはず…

私の知ってることは話すから落ち着いて聞いてね?」


こちらが話しかけると姉はすぐに首を縦に振り、僕の気持ちを察してくれた


キショウブ「その前に…ダリアなんだけど…」

そう言うと姉は洞窟の奥から寝息を立てる妹を抱えてきた




「−−−−−−−」


サーヴァント「―――!」



その傍らには、先ほどまで追いかけていたアイツもいた



キショウブ「待って、この子は何もしないわ…大丈夫」


僕の気配に気が付いたのだろう、姉はすぐに僕とソイツの間に割って入り制止をしてきた



キショウブ「良い?サーヴァント…
この子…ダリアにはこれから話すことは極力知られて欲しくないの…黙っていてくれる?」




サーヴァント「……―――」


こくりと黙って頷いて見せる


恐らく今から聞く話は僕だけではなく…僕たち家族にとって最も重要な事…




キショウブ「まずは…そうね、何から話すべきかしら…」


サーヴァント「何故ソイツと?」



こういう時、人間というのは衝撃を受けたりや印象に残る内容を第一に考えてしまう


僕は手身近に、ダリアの誘拐犯について尋ねた




キショウブ「ごめんなさいね、このトガタと呼ばれる兵器でダリアを攫ったの私なの」


思いがけない言葉だった
姉はその動機について語ると、どうやら僕が来るのがわかっていたらしく
他に邪魔が入らないように誘導したとのこと



サーヴァント「邪魔って…カイライ?」


キショウブ「概ねその通りよ。私達はカイライから目を付けられ追われているの」


カイライから追われている…



サーヴァント「一体僕たちとカイライになんの関係が?」



質問をしている最中に、漠然と頭の中に答えが湧いてくる
僕の表情を見て姉は頷いて見せると続けた



キショウブ「私はこのトガタの製作者…ダリアはその助手って事…つまり、私たちはカイライの一員なの」




サーヴァント「―――――――――――」


なんとなく、わかっていたのかも知れない



あれだけの戦いがあっても姉たちには連絡が付かなかった理由…
きっとこっちの世界にも報道は流れていたはず…敢えて音信不通にして身を隠していたんだ

キショウブ「…貴方一人を戦わせてしまって…本当にごめんなさい」


サーヴァント「…カイライって?」


姉の謝罪に対しての言葉はない

とても心は真っ白だったと思う
怒りや憎しみ、悲しみなんて起きる暇もない


純粋に、今

今この時だけが自分が求めた瞬間で、知ることの出来る時間
そんな時に無駄な感情なんて必要なかった



キショウブ「今の惨状を見ればわかる通り、冷酷非道の悪魔…
戦闘兵器トガタを使い全世界にテロ行為を起こし戦争の火種を作ろうとする狂気


…そうじゃなくて、組織の発足について聞きたいのかしら・・・?


前大戦の終わりには既に存在していたみたい…何を起源に出来たのかは知らないけど
その頃の私は父、クロノスの手伝いで新型のトガタ、『ライ』製作の手伝いをしてたの」



サーヴァント「――――!」


『ライ』


その言葉が強く耳に残る


自分では気が付いてはいないが、姉の目が見開かれた所を見る限り
僕は身を乗り出して聞いているのだろう

姉は咳払いをすると僕の目を見据えた



サーヴァント「その…ライって?」



キショウブ「……」



答えはない




ダリアと違い、ただじっと僕の目を見つめて話さない



僕は臆さない




今だけなんだ




知ることが出来るのは







サーヴァント「僕は…一体何者なの?」





キショウブ「サーヴァント…いえスレイブ。貴方は父が作り出した最高傑作」



知るはずのない父の名…クロノス



恐らくは本当の父親ではない、生みの親




キショウブ「貴方はトガタとして生を受け現在もっとも優れ、進化した不老不死の超越者…」


今まで結ばれていた血の繋がりはその人が「造り」だしたマヤカシ








キショウブ「人工生命体『ライ』そのもの」



本当の家族ではない



僕の中で、何かが音を立てて崩れたのがわかる






思い出した


映像が鮮明に映し出される


僕はトガタとして造られ生きて来た
アレースやネメシスと一緒に沢山の命を奪ってきた




命じられるがままに




でも、なぜだろうか

この時の僕の姿は…彼らによく似ている



今の僕は…?






そこからの記憶は不鮮明だった





キショウブはライが作り出す未来

僕という可能性を見守りたいが為に争いから遠ざけ、離反し今の状況になったという


サーヴァント「…頭痛が…」

頭がとても軽い

思考もとてもハッキリとしていて不思議と気分が良い




キショウブ「…今まで貴方の頭痛を作り出していたのは私。

記憶を取り戻した事によってさらに危険な目に会うと思って封印させてもらってたの…

でももう貴方を縛ることは私にはできないし…するものが現れるなら必ず守るから」



サーヴァント「どうして僕を解放するんです?」



僕の問いかけに姉は俯いてしまう


ほんの数秒だろうか
顔を上げた姉の顔は今まで見たことのない弱々しいもので
涙を流し、それでも笑いながら


「だって、貴方はちゃんと生きてるから」


と、言ってきたのだ






その言葉の後、姉は地面に座り込み

何度も「ごめんね」と呟き
肩を震わせていた







相当苦しんだのだろう


究明者として、家族としての葛藤に暮れる毎日
露呈した時の恐怖

そんな物に日々脅かされながらも彼女は僕という一人の人間の生き方を見てみたいと
今まで貫き通してくれていた









サーヴァント「……」


そっと後ろから歩み寄り
温めるように抱きしめる


キショウブ「―――――、」



心が真っ白だったなんて、嘘っぱちだった
何も考えていない訳じゃない



答えはとっくに出てたんだ





サーヴァント「二人が変わらず、僕の大切な姉と妹であり続けるなら…許すよ」





キショウブ「―――ぁ、」



そこから視界は暗くなってしまい、耳元では大きく泣きわめく声がやかましくて仕方なく
体は暖かく抱きしめられていたのを覚えている




――



―――――




――――――――――





サーヴァント「落ち着いた?」

何時間かかったのだろうか

ようやく落ち着いた姉は僕から離れる




キショウブ「ありがと…」



その微笑みは、たぶん
今まで見て来た中でも最高の笑顔だったと思う


絶対に忘れない









その後姉は知っていることを話してくれた




僕の体はトガタからライへと切り替わっている
その理由は、とある事故が元らしいのだが姉も詳しくは知らず
僕自身の記憶にも霞がかかってしまっている

恐らくはキショウブの父、クロノスによるプロテクトのせいだろうとの事



ライについてだが
間違いないのは僕がライであること
どうやら過去の技術を応用して作られたオーバーテクノロジーの様で
実際には『完成されたライ』の破損体の流用で作られた体であること
あくまで修復下に過ぎない姉やクロノスも研究に明け暮れていたようだ

あの暴走のような状態や、プラムによって紡ぎだされたウィレムソード
夢のような世界で聞いた声も
大元である『ライ』の影響だという事


今現在のカイライはマケットの一部の派閥によって支援されており
いつマヌカンと大きな戦争に発展するか時間の問題だという
また、マケットについても不穏な動きがあるから注意するべきだと

最後に
過去の記憶はどんどん蘇るという
これから先、記憶操作は絶対にしないしさせない
どんな些細な事でも必ず助け合う事を誓って、僕たちは晴れて元通りの家族になった




キショウブ「私は貴方の事についてもっと調べなければならないことがたくさんある

申し訳ないけれど…また私とは別行動を取って?」



サーヴァント「…大丈夫?」


不安げに訪ねると、姉から一発額を小突かれた


キショウブ「だいじょうぶい!貴方より魔法は強いのよ私」


と胸を張って送り出してくれた





ダリアは終始目を覚ますことなく、そのまま残ることになり
再び僕一人となってしまった





サーヴァント「……」


振り返り、洞窟を見据える



サーヴァント「…きっと大丈夫」




向きを直し、地面を大きく蹴る


行って来いと言わんばかりに洞窟からは風が吹き抜けて背中を後押ししてくれた





急いで帰らなくては―――リリンが待っている







幸いそんなに日は傾いていない







時間も経ってはいないはず…



サーヴァント「――――!」




村に戻る最中、異変に気付いた



雲は流れを止めており
日も傾くことを忘れているようだった



この感覚に覚えがあった

魔術だ

全力で森を駆け抜け、村へと突入する




建物は崩れ
田畑は燃え灰と化している




サーヴァント「リリン様…!」



襲撃の跡


あちこちに転がる死体の数々



嫌な予感しかしない





『―――ギィエアァァァァ――――ぁ!!!!!』



咆哮


その声に歩を止めざるを得なかった



全身は黒く
至る所から赤い液体を滴らせ、鈍器のような獲物で狩りをするソイツは――――






アレース『ギ――――チチチ!!!アァァァァァァ―――――!!!!』









かつての友だった




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