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Maquette-Mannequin  〜マケット・マヌカン〜
Page 8「再戦」



転移魔法で帰還している最中、アレースは再び考え込んでいた








アレース「……」









敗走


無断で出撃して、ネメシスの損傷も防ぐ事叶わず

敵に一撃すら食らわさずに退却…


おまけにスレイブにまで情けを掛けられ…完全な敗北だった


これでは、もうカイライの幹部として機能はさせてもらえないな…




アレース「せめて弟だけでも残してやりたいものだが…」





考えていた矢先だった


傍らに抱いていた弟に変化が見られる





ネメシス「―――――――!……ここは…」



アレース「…!気が付いたかネメシス…」



機能停止まで追い込まれ、
危うくは先がないと思っていたがコイツの精神力は尋常ではない事を改めて知った





ネメシス「…俺は……負けたところまでは覚えてんだ…

だが、歩けなくなるまでのダメージは負ってはいなかった

…何があったんだアレース?」


確かに。

今のネメシスの足は歩行には「外装での判断では」、何一つ差支えない状態だ



だが、ネメシスは動けない

先ほどの意識を失うほどの頭痛による「内装」の破損が原因だからだろう

幾ら意識が戻ったとはいえ、危険な状況に変わりない。


アレース「スレイブの件に関しては後回しだ、まずはお前の治療と整備を優先する…」



ネメシス「――――兄貴」



珍しい


あのネメシスが私の事を兄と呼ぶのは、いつ以来だったか


それ程までに今回の件、ネメシスにとって精神を乱すものだったのだろう



アレース「気に病むな、間もなく転移空間を抜ける…そしたらゆっくりと休め」



私の言葉に安堵したのか、頷くこともなく

静かに意識を落としていく








―――――



――








アレース「転移完了、現在位置…カイライ城」



転移魔法を抜けると見覚えのある景色が目に映る


どうやら無事にここまでは連れて帰って来れたみたいだ



――――弟だけは








ざっと見渡すと私の周りには50程の量産されたトガタが囲むようにして立っている


そして目の前には、例の四人組の姿も確認された





青髪の男「無断で出撃して、手柄もなく帰還とは…いやはや軍神アレース様には恐れ入る」


太った男「ウィヒヒ…うまそうなの連れてるな…食っていい?食っていい?」


褐色白髪の女「よしな、そんな出来損ない食ったところじゃ身にもならないよ」


黄色髪翡翠色の目の女「………」



やはりか、
転移前の議場でのやり取りでは、フードを深く被り顔が見えてはいなかった為に断定出来なかったが…

目の前の存在は我ら「トガタ」と呼ばれる戦闘に特化したカイライ兵ではない





アレース「何者だ貴様ら……」




褐色白髪の女「あんた達と同じ、カイライの幹部よ」


アレース「ぬかせ女、貴様らのような生温かな肌を持つ幹部など同僚に持った事はない」


青髪の男「でも事実ではあります、そして貴方達よりはカリス様に信頼されている」



太った男「今まで表に出てこなかったのは、必要がなかったから。


いやぁー、便利な駒があるって便利だよね!!」




アレース「…よく喋る。はっきり言え――――ライ。」




四人「「「「―――――――!」」」」




ライ。


私も詳しくはないが確かな存在として今、認識をした

単語を口にした途端、目の前の奴らは動揺を隠しきれておらず

また私自身の直感が決めつけた


こいつらは、奴……スレイブと同じ人間の身なりを持つ化け物だと…




周りの連中に苛立つかのように黙り込んでいた最後の一人が前へと出る



黄色髪翡翠色の目の女「つまり、お前達は名前だけの幹部で実質捨て駒」



なるほど、やはりそういう事か


主は我ら兄弟を当てになどしてはいなかった


そして目の前の奴らこそ切り札、なのだろう―――






「調子こいてんじゃねぇぞコラァ!!!!」




突然の怒号


傍らに抱いていたネメシスがいつの間にか覚醒していたようで明確な殺意を目の前の存在に容赦なく向ける


アレース「落ち着けネメシス…負担が増える」



ネメシス「うるせぇ!おめーは恥ずかしくねぇのか!

こんな顔も知れねぇ奴らに良い様に言われてよ!」





そうか


コイツは昔みたいにただ苛立っているだけではなく、私が侮辱されたことに怒っているのか…



アレース「…ふ…」




ネメシス「―――!…なに笑ってんだよ!」




……ここまで、変わることが出来るのだな……ならば、せめて






アレース「お前の存在こそ私の恥である」


ネメシス「――――な――――」







私も私なりに、意地を通してみよう







アレース「お前のような出来損ないの援護をしてこちらまで失脚するとは、

つくづく愚か者よ」



ネメシス「…てめぇ…!」



太った男「おいおい、兄弟喧嘩かい?ほんと愉快だねぇ!」



アレース「語るな贅肉。こいつはマヌケだが私はここまでではないぞ」



ネメシス「――――――っギ!!!!」



単調な罵倒に持ち前の殺意を明確に表してくるのがわかる




さぁ、どうするネメシス…




アレース「消え失せよ、お前との繋がりも今日までだ…」





…変わったのだろう?






ネメシス「……………………………そうかよ…ギギ…こちとら清々するぜ…」




体も満足に動けず、圧倒的な不利な状況を把握したのか

ネメシスは落胆したように一人、足を引きずりながら城へと戻っていく




青髪の男「ふーん、そういう事ですか…逃がす気ですね?」




アレース「抜かせ、所詮奴は重荷…どうなっても構いはしない」





流石にこの程度の思惑は筒抜けなようだ…





ネメシス「――――――――」




だが、私には培ってきた信頼がある
……頼むぞ…何としても技術班と合流しろ…



ネメシスの姿を見送るまで私は眼前の存在に動きを与える隙など与えずじっと睨み殺す




視力では確認できない位置、

魔力探知すら届かない距離まで行ったことを確認すると

再び奴らに視線を向け直した


アレース「では、改めて貴様らの目的を聞こうか?」



褐色白髪の女「アレースの捕縛、およびネメシスの事情聴取である」


アレース「前者は快諾しよう、しかし後者はメンテナンスを受けたネメシスになら良しとする」


私の発言が気に入らなかったのか、肥えた男が不機嫌そうに口を開く


太った男「そんな事知らないね。お前の命令なんか聞くもんか」




我々幹部はいつも互いを牽制してはいたものの
決して意見を無碍に扱う事だけはしなかった

それが他者に対する礼儀でもあったから…





こいつらはカイライの幹部である礼儀すら持ってないということか



―――少々図に乗りすぎた――――




アレース「――――黙れ贅肉。私の意志が通じないのであれば全員皆殺しにしてくれるわ!」



静寂


どうやら、こいつらには私と手合せしたら多少でもリスクになる理由があるようだ




青髪の男「了解です、そちらの条件も飲みましょう」

一人、口を開くと私の望んだ答えが返ってきた
思惑は正しいのか、それとも何かこいつらには策があるのか…そんなものは知ったことではない


アレース「賢明な判断だ」

今はこの状況を少しでも打開するしか我らが生き残る術はない

その為ならどんな思惑も利用して見せる…




青髪の男「では同行を願います」




私は手錠をはめられるとカイライ城の地下奥深くへと連行される







見たこともない設備






人材







柱へと四肢を縛り付けられて自由を奪われてしまう







アレース「……もう、陽を見る事すら叶わないかも知れんな…」






迫る器具の数々





笑みを浮かべる人々










私は、暗闇の中に一人






幽閉された











――――――――――




―――――




――







仲人界リリン邸





ネメシスとの戦闘後、幻は解かれると僕はすぐさまプラムを背負い帰路に着いた




玄関を開けるなりメイドたちが急いでプラムを連れて手当てを始める








戦いによる魔力の消耗やダメージでリリンは気が付いていたようで
速やかに対処できるように手配しておいてくれたのである






サーヴァント「……良かった」

夜になり、プラムの状態が落ち着くのを見届けた僕は自室へと戻り
体を労わるべく横になっていた


『コンコンっ』


来客の様だ

僕はドアノブに手をかけて回し、ドアを開く


リリン「……」

サーヴァント「リリン様…?」


来客はリリンだった
要件を訪ねても黙ったままで、流石に立たせたままでは悪いと部屋へと通す


サーヴァント「…すみません、中々時間を作る事が出来ず…」


帰宅してから慌ただしくて口を利く暇すらなかった
報告しなければならないことが沢山あるというのに…


なにより自分の主人でありプラムの保護者でもある彼女に何も話さないというのがおかしすぎる



僕はただ、顔向けができず頭を下げていた





――――――スッと、暖かく柔らかみのあるものが僕の頬に触れる


顔をあげるとリリンの白くて細い指先が添えられていた



サーヴァント「……リリン様」




彼女に伝えるべきなのだろうか


プラムとの契約


そもそもあれは現実なのだろうか


ヤーンの契りとは簡単に行うことが出来るものなのだろうか



そして…あの子は一体何者なのだろうか…



リリン「…どうされました…?」



深く考え込んでしまったのだろう

リリンは心配そうな表情で僕の顔を覗き込む


僕はプラムについて聞いてみる事にした



サーヴァント「あの子、プラムは何者なのですか?」


リリン「…………」



僕の質問に、彼女はとてもバツが悪そうにしている

聞いてはいけない事だったのだろう


サーヴァント「…失礼いたしました…無理はせずに・・・」


リリン「いえ、いつかはお話しようと思っていたのです…あの子は…」






―――――



――




サーヴァント「…人工生命体……?」




リリンから明かされたプラムの事実


言葉の通り、


自然の摂理に背き、ヒトの手によって作り出された命



リリン「………私達、マヌカンの民は皆、

魔法の探求を一生の宿命、誇りとして生きてます…

しかし、新たな魔法やそれらを運用するに当たってのリスクに私たちは怯えていました」





サーヴァント「リスク…」


そう、魔法は確かに便利だ

だがどんな魔術も、機械のように

「作り出した人間が記した説明書」

が存在する訳ではない


偶発的に見つけ出した産物を手探りで扱わなければならない



そうだな、もっとわかりやすく言えば


「これは食べられるキノコですか?」


と、知りもしないキノコを頬張らなければならない。ということだ


そんな事を生身で一つ一つ試していては命が幾つあっても足りはしない



ならば、いっそネズミにでも食わせれば良いではないかとヒトは考えたのだ



サーヴァント「――――――――っ―――――」



プラムが……あんな小さな子がネズミのように実験台にされている…



リリン「…軽蔑されても仕方ありません…私達の家系はそれらを認め、

推奨し、発展と繁栄のためなら容赦なく切り捨ててきた悪の一族なのですから…」


俯き、肩を震わせる彼女は今にも自身の背負おうとしている業に押しつぶされそうだ



サーヴァント「……」

僕は怒りを抑え、黙って彼女の隣で膝を立てて寄り添うと、小さな体に腕を回す



リリン「―――――――――――――!」



気休めの言葉なんか必要ない


いや。言葉を見つけられないのだ



せめて、彼女が背負っている物を少しでも軽くしたい


その一心で体が動く
抱きしめる、という行動しか今の僕には出来ないから…





リリン「――――――――どんどん、離れていくんです、




お互いに、



会いたくても、次に会う時は―――――もしかしたらって――――」




呼吸を乱し、啜り泣きながら僕の胸の中で溢れ出す言葉を、

思いを聞き逃さないように耳を傾け続ける






『―――――ビキ!――――――――――カコン』



こんな時にも「アレ」は起きてしまう




サーヴァント「――――――――――――――――」






まだ、、、、大丈夫――――――






彼女の苦しみに比べれば―――――――――――――――――――



こん――――な―――痛――――――――――――み










―――――





――





見慣れた彼女の家の一室、そこの僕に与えられた部屋

窓から差し込む陽の光。



ふと目をやれば中の良い男女が話し合っているではないか




リリン「――――――――ですね、ふふ」




先ほどまでの辛そうな雰囲気は消え、彼女には自然と笑顔を浮かべ

室内に笑い声が聞こえる




もう一人の男に目を振る


ベットに横になり半身を起こしながら彼女と談笑している








僕だ。










あぁ、僕って…こんなに、幸せだったんだな…







『――――――パキ!』




――


―――――





サーヴァント「――――――!」




今の一瞬は――――?







たしか、僕は彼女を抱きしめて…痛みに耐えて…



でも、
いつの間にか僕はベッドで横になっていて


夜だったはずなのに昼間になっている


記憶が飛んでいる上に、自分が自分を見つめている




絶対に起こりえない事態





リリン「…サーヴァント様?」



サーヴァント「―――――――え、はい…シンシア様の生誕祭の話でしたね?」


リリン「夏真っ盛りですからね、とても素敵な思い出が出来ると思うんです!」


とても楽しみなのだろう…
ベッドで休む僕の傍らで彼女は高揚しながら林檎を剥いてくれている






サーヴァント「…………」

自身の手のひらを見つめて、グッと握り込むとすぐに広げて見せる


何度も何度も同じように拳を握り、開く。





違和感


そう違和感なのだ



夢?

シンシアの生誕祭?



そんな話をしていたのか――――?




いや、していたのだろう


彼女の話を理解することが出来ているのだから




サーヴァント「………」


リリン「―――――♪」



――――――きっと「アレ」、なのだろう




全身に訪れる激痛


これまでにも同じ音が何度も鳴り響いて僕の心を不快な気持ちにさせていたが、
次第に痛みを伴うようになってきている

当初はリリンにも聞こえていたようだが、

痛み出してからは彼女にも聞こえ辛くなっていっている


やっとわかってきた…この痛み、不快な音の引き金は…

「強い魔力を持つものと触れ合う度」に僕の体は否定するように痛み、軋む




サーヴァント「―――――――――――――――――――」




いつか、この痛みに殺されるのではないだろうか…



なぜ、こんな痛みが僕を追い詰めるのか


誰がこのような事をしたのか


この痛みは誰が与えているのか





『シャリシャリ…』



悲壮に浸っている中、傍らで行われる林檎の皮剥き


その音に意識が傾いていく


その光景に視界は吸い込まれていく



しゃりしゃり…


しゃりしゃり…




――――――――



――――



リリン『――――――!』



サーヴァント『・・・・・・・・・・・・・』



視界が染まる



林檎のように赤々と



綿の山を駆け上り



動く人形の頭を跳ね



押し倒し



貪る


愛する人を、この手で――――――――



――――



―――――――




『カラン!――――カシャン!!!』






サーヴァント「―――――――――――――――――!!」



突然の落下音に我に返る



僕は何てことを想像していたのだろう――――


彼女をこの手で……





やめよう…






ふとリリンに目を向けると、青ざめた表情をしていた



サーヴァント「…リリン様…?どうかされましたか?」


いつの間にか彼女は林檎を剥く事を止めている


包丁も
林檎も床に落としてしまったようだ


僕の声に答えるように彼女は指をさす


指し示された方へと目を向けるとテレビがあり、

映し出されている報道番組の内容を目にした





サーヴァント「―――――虐――――殺?」





テロップには


『マヌカンでの大量虐殺行為』



『マケットによる新型兵器の攻撃』



『マヌカン王、捕縛される』



『再戦』






『―――――――――――――――――』






外ではセミが煩く鳴いている





…シンシア生誕祭の行われる夏が今、始まろうとしていた―――



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あきゅろす。
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