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Maquette-Mannequin  〜マケット・マヌカン〜
Page 2「契約」




煙たい


とても視界が悪い。




それどころじゃない、躯体くたいが―――言う事を聞かない



アレース「――――――何――――ガ―――?―」





ひどい屈辱だ。
弾き飛ばされ、瓦礫に埋められ…

挙句の果てには自身の躯体が使い物にならない始末。

重い瓦礫を引きずるように躯体全体で押し退け相手を見据える


そこには――――




サーヴァント「――――…グルル…ルル―――――」




純粋なヒトのモノとは言えない姿に変化した化け物が立ち尽くしていた

体中のあちこちから蒸気を噴出し、辺りの魔力を引き込んでは無作為に放出を繰り返している


”狂気”

眼前の存在はただの闘争本能の固まりと呼称すればいいのだろうか
だとしても、どこか抜けている気もする…油断を誘っているのだろうか?



アレース「ク―――ふふ…面白い―――、闘いとは、やはり昂ぶるものっ!」


指令系統も乱れ所々破損した躯体を無理やり起こし地面を大きく蹴る

塵煙を巻き上げながら駆け出した躯体は、なんら戸惑いなく敵へと襲い掛かる。


唯一の悦楽のひと時のために。




サーヴァント「ガアアああああ!!!」




さあ、存分に戦おう―――!





――――――――――



――――――――――







霧立ち込める暗闇



薄れゆく意識の中、僕はひたすらに駆けていた



サーヴァント「――――――――――――――――!!!」



暗闇の景色をを掻き消すかのような怒号と叫びが黒に染まる建物を震わす。


呼応するように撃ちだす魔弾は火花のように弾けては散る


灯りだ。


刃物と刃物がぶつかる物とは違い
様々な光を見せる

赤、青、黄、緑。


己の意思と強さを示し、互いを殺す為に鮮やかに彩り、都度消える。



淡い光の白。



風景の黒に対して強く表情を見せて動く
光より目立つソレに一層目が惹かれる


ソレは敵。



アレース「ふっ……!!」



彼は鼻で笑うだけの余裕があるのか

地面を蹴ってこちらへと殴りかかる姿勢を見せてくる



思考がおぼつかない僕は、後退するためか手のひらに集めた魔力を払うようにしてぶつけてみる

だが、当然のように拡散した状態のそれでは仕留めきれず
勢いを削ぐ事くらいにしかならない


避ける…、そんな手段、持ち合わせてなんかいやしない

だったら、やってやろうじゃないか。


徹底的に…どこまでも。






サーヴァント「――――――アアアア―――!!!」



リリン「サーヴァント様!!」



声が聞こえる

誰だろう
とても暖かく感じるけれど、どこか遠くに感じる


なにかがおかしい。







目の前には―――僕?

これは僕が見る…僕なのか?

二足で歩く事すら忘れて腕ですら自身を高く、早く跳躍させる手段に用いている
まるで獣じゃないか


本当にコレが僕なの…か?







サーヴァント「ギ…ギギ…!!!」



口が裂けそうな程に歯ぎしりをして、牙を剥く
言葉の比喩ではない、糸切り歯がとても鋭い。

熱い…


勝手に体が動き、瞬く間に距離を詰める。






アレース「…むっ!」



確かに速い
だが、追いつくために加速したのが仇となったと気がつく
なぜなら、これだけ勢いをつけたにも関わらず
敵は…僕を目だけで捉えていたのだから…。



アレース「隙だらけだ…!」


彼は両腕を金槌のような得物へと変化させる

そして間髪入れずに僕の腹部、顔面へと容赦なく打ち込んでくる




サーヴァント「―――!?―――ガっ―――」



とても耐えられるような衝撃でない

だが、そんな攻撃を受けても尚立ち上がろうとするこのカラダはいったいなんなのだろうか



サーヴァント「―――――――――――!」



アレース「―――ぐっ!!」



自由など無い、
勝手にうつ伏せ状態で予備動作を取らずに飛び込む



なんなんだ僕は―――、ただの化け物になってしまったのか?





アレース「硬さと速さは一流だな…しかし!!」




腕が振られる

拳は眉間を捉えており、言葉通り必殺のものとなって打ち出される




これじゃ…殺されるだけ
自分を律しなければ…狩られるだけだ



サーヴァント「――――っ―――!」



アレース「―――――!?」



でも――――、ダメだ

僕のカラダはまるで別人の物のように言う事を聞いてくれない

敵の動きを勝手に察知し、回避行動を取って打突の矛先を地面へとすり替える


アレース「―――――きさま…!」



サーヴァント「―――勝った――」

言葉…?

喋る事さえも、僕の意志に反するのか…


アレースと視線を合わせる

その瞳には言い表すことが出来ない不思議な色が映し出し相手を眩惑する





アレース「―――あああああ!!!!!!」


瞬間。

聞くだけで身の毛もよだつ苦痛とも言えるおぞましい悲鳴が木霊した



何も見えない
何も感じない



アレースは今までにない恐怖に両眼を手で塞ぎ、もがき苦しんでいた





サーヴァント「――っは!!」

視力を封じられ抵抗できないアレースを容赦なく殴り飛ばし
再び崩れた瓦礫の中へ埋め返す




サーヴァント「これでぇ…!!!!」


両手に魔力を溜め魔弾へと形成する
これ以上のものがないと言わんばかりに強力なものを作り、目の前の敵を殺す為
解き放とうとした時だった





「―――いけません!!」






サーヴァント「!!」



聞き覚えのある声が霞掛かった視界を揺らす

眼球だけが動いて無意識に声の主を探す

その声は、思い出せなくてもわかる
聞くだけで落ち着く


彼女の声だ


彼女を守らなくては

何のためかって?


そんなこと……




「そんなこと…しないでください」



深く瞬きをすると霞が晴れていき、声の主の姿をはっきりと捉える




リリン「サーヴァント様…」



彼女は頬に涙を伝わせて、こちらを見つめていた




サーヴァント「…リリン…さ…ま」




ようやく自分のしていたことがわかった。



両手に込めた魔力をゆっくりと消滅させる

これ以上彼女を悲しませないために…
傷つけないために…




リリン「…ぅ…私…が…知ってる…サー…ヴァント様は…そんな人では…お願いです…元のあなたに…」



泣きじゃくりながらも言葉を懸命に紡ぎ、その想いを欠かすことなく伝える

その姿がとても愛しく



そして、後悔した。



今の彼女に、どう接すれば良いのかすら…今の僕にはわからない



ただ狼狽うろたえていると離れた場所から瓦礫が崩れる音がする



サーヴァント「…!」




アレース「……」





視線を向ければ倒したはずの奴が起き上がっていた



アレース「ギ…ギ…っ…油断が…過ぎたよう…だ」



不意打ちに与えた一撃によってやつの顔はみにくく歪んだようだ

機械的でノイズ混ざりの音声が耳に不快感を与えてくる



アレース「これが噂に聞く『ライ』…か、今回…ハ、…退かせてもラう」



サーヴァント「待てっ!お前たちは何者だ!なぜリリン様を狙う!?」



よろめく足取りで瓦礫から身を引きずり出し終えたアレースはこちらの投げかけた質問に対し
睨みをきかせるとため息混じりに一息つく。


どうでもいい、まるでそう聞こえてきそうな感じで
こちらをまっすぐ見据えて口を開いた


アレース「我らは『カイライ』。ヘル・メルト・カリスに従い、この世界を統べ、新たに導き手として君臨するもの。」



サーヴァント「カリス…っ?」



『カリス』

『カイライ』


その言葉になぜか懐かしく、とてつもなく嫌な感じがして手のひらで顔を押さえる



アレース「――――ギ――――…また会うことになるだろう…首を洗って待っていろ…『スレイブ』」



サーヴァント「っ!?待て!アレース!」


スレイブという言葉を残し、敵は突如として消えてしまう


自分の中に突き刺さる多くの言葉
それを奴は知っている


奴は、僕が何者なのか知っている





リリン「――――ぁ…」


サーヴァント「リリン様!」



傍らで崩れるように意識を失う彼女を受け止める
相当参ってしまったようだ




リリン「すぅ…すぅー…」




ようやく恐怖から解放されて安心したのだろう…落ち着いて眠りについている


さて、いつまでもここに留まるわけにはいかない。
脅威は去ったとはいえ、いつ新しい敵が来るかも知れない。
そうなれば消耗した今の状態では確実に負ける



一刻も早くここを離れなければ…







――――――――――



――――――――――






深く


とても深く。



海底なのか
地底なのかもわからない、奥深く。


人目、光届かぬ地にひっそりと佇む古城。


その城に住むもの達は、苦しみの声あれど楽し気な雰囲気とは無縁。

ただ生きている


なにも希望無く


夢もなく







アレース「――――――戻ってこられた…か」


仲人界から転移魔法によって戻って来れたのはいいものの、
躯体は酷く損傷していた


アレース「よもや、ヒトの姿を保持してあれ程の戦闘力を有していたとは…」

アレース「いや、アレをヒトと呼称していいものか…」

戦闘の最中、アレは…まさしく化け物と成った
我らのような存在とは違う、明らかな異質。

なにかの混ざりもの…と言えば良いか


ともあれ想定していなかった事に対し改めて己の失態を悔いる

ここに戻ったのはただ自己の修復のためだけではない。
今回得られた貴重な戦闘データをフィードバックし、次に生かす為に一刻も早くこの事を伝えなくては



如何いかがなされましたか!」

城の前まで戻ると門番が慌てて駆け寄ってくる

ヒトだ。

ここにもヒトは居るのだ
とても弱い生き物である彼らは結託し、徒党を組んで三世界に屈しない力を蓄えている

けれども、それも微弱。
我らの様な外道の力が無ければ轢かれるだけの弱者。


アレース「すまない、今は弁明している余地がない…通せ」


「は、はい…すぐに!」


城門は重く軋みを上げながらゆっくりと開かれる


自己修復も可能だが多大な時間が掛るこの躯体で、いつまでも破損したままうろつく訳にはいかない


半ば機能していない足を引きずりながら、急ぎあるじの元へと歩を進める



アレース「――――」



カイライはテロ組織に近いが、本来は軍だ


マヌカンやマケットから追放された者達を雇う形で構成されている。



近からず遠からずの場所から兵士たちの小声話が聞こえてくる




「おい、聞いたか?アレース様が敗退されたそうだぞ」



「ありえん。我らの導き手と謳われる闘将だぞ」



「だが事実だ。あの顔を見てみろ」



「ひどい有様だ」



さぞ滑稽こっけいな姿なのだろう

まるで恥じるように躯体からは蒸気を発し、辺りに灼熱の霧を充満させてしまう

限界稼働寸前だ

いわゆるオーバーヒートに近い
このままでも行動は可能だが確実に寿命を縮めるだろう


なにせ私の限界稼働は忌み嫌われたシロモノなのだから…



アレース「躯体が…重いな。」



周りの兵士たちの視線など気にも留めずに、一息つける場所を探すも
この環境が整っていない場所で落ち着ける場所はそうそう見つからない


あるとすれば、技術班のいる場所だが…あそこは嫌いだ
嫌なニオイがする



アレース「……」


いつの間にか私は傷を癒す事をせず、ただ座り込み考え込んでいた



カイライ一の豪傑ごうけつと呼ばれる自分が、『あんな出来損ない』に負けるはずがない



悔しさと怒りに身を震わせるが、もう一つ気になることがある


『ライ』と言う言葉


自分の口から出たものだがライというものを知らない




あの時の自分は、自分ではなかった。



なぜ、あのような事を口走ったのだろうか…?





「アレースがヘマしたってホントかよ!」




静かな室内に響く声

ケラケラと笑いながらそれの主が踏み入ってくる




アレース「何の用だ、ネメシス」



他の兵士とは違い
ネメシスと呼ばれるものの姿は躯体名アレース…そのもの。

違いと言えば、武器や体の些細な彩色の違いと……性格だ。


ネメシス「はっ!ご挨拶じゃないか。兄上がお怪我をなされたと聞いてねぇ…」

ネメシス「お見舞いに伺ったんでございますよ!無様なお姿を!!!」


コイツとは兄弟ではあるが慕ってくれる気配が全くもってない。

その苛立たしい態度にも飽き飽きして口論する気もとうの昔に失せた



アレース「………」



ネメシス「待てよ、スレイブにやられたんだろ?奴はどこにいる」




相手にしていられずに背を向けて歩き出そうとする私に食いついてくる
こういう時の勘だけは鋭い。

だが、今の私にはそれを公言できる権利がないのだ
なにせネメシスが言った『スレイブ』が関わっている事は現状では極秘に近い調査内容だからだ



ネメシス「だんまりか、そういう頑固な所だけは昔から変わんねぇよな」


アレース「理解が早くて助かる…あとで報告をあげるから、それを見てくれ」



そのまま立ち去ろうとすると、再び目の前に立ちふさがってきた




アレース「なんの真似だ」


ネメシス「悪いが、奴に関してはのんびりしていられねぇ…今吐いて貰うぜ」



奴を気に入らない理由は良く分かる。

だが、なにをそこまで執着するのか…





アレース「公言できないと言った」

ネメシス「教えろ、でなきゃテメェを殺す」



眼差しが確かな殺意を伝えてくる

こちらも、満身創痍の体に鞭を打ち構えを取る

拳を交えようと踏み込んだ瞬間―――




「双方、控えなさい!」




アレース「!!」

ネメシス「っち…!」


殺伐とした部屋に踏み入る影。
それは、この古城の主
全身を黒い甲冑ともいえる物に包まれた姿を目にすれば、たちまち戦意が失せる


ヘル・メルト・カリス

我らカイライの創設者
決してその素顔を表にすることはなく、その意図は誰にも図り知れない。



「余りに目に余る…貴様らはカイライを束ねる者だろう、愚か者どもめ…」

主の傍らに立つローヴに身を包んだ側近の女が一喝する



カリス『止せ、我らの敵は別におる…同志で争うな』

主は手をかざし、皆の苛立ちを抑える


側近の女「失礼いたしました…」


カリス『よろしい、アレース、ネメシスの両名は私と共に議室へ。お前は他の長を集めよ』

側近の女「ええ、了解しました」

女は与えられた役割をこなす為、暗がりへと姿を溶け込ませ消えていく




冷静さを取り戻した我々は主の後ろについて歩き出し議室へと向かった





――――――――――



――――――――――






アレース「面子が多いな…」




場所は移り変わり、大議室。


この城の中で機能が確保された数少ない場所であり、
幹部が集まり方針や作戦などを決議する場所。

数多く用意されている席には戦いに赴く兵士達を束ねる長や幹部が顔を揃えており、普段は会議には姿を見せない者までいる


諜報担当の者

技術担当の者まで足を運んで来たという事は、今回の報告が如何に重要かが改めて見て取れる



ネメシス「………」

奴も大人しく座っているが、時折こちらを睨み付けては居心地が悪そうにしている

しばらくすると主が側近の女を連れて現れ議長席へと鎮座する



アレース「あの女…いったい何者だ…」



すっぽりと顔まで隠れる織物を着こなしており、その素顔と共に素性は全く知られていない。



カイライが創設されてから残っているメンバーは主のみだと聞く
我々も古株な方だが知る限り有力者による見立てという事も無い。

推薦などもなく、ただの新参ものが側近になれるものなのだろうか…
何にしても、目を光らせておかなくては…



側近の女「皆様、お集まり頂けましたでしょうか…これより先遣隊アレース班が観測した仲人界、ピースへの視察の報告会を執り行います」


ネメシス「早くしろよオラぁ!」


目の前に座る者の後頭部を蹴飛ばして急かすように声を荒げる粗末な存在が一体。
余りに目に余る為、一旦黙らせようかと歩を進めた時だった


諜報機「静かにできないんですかねぇ、彼の弟…とても下品です」

ネメシス「んだとコラぁ!殺すぞテメェ!!」


普段顔見せしない諜報の者から煽りの文言が浴びせられ、余計に炎上してしまったようだ

…召集を受けて、発言権を行使しようとした矢先にこれだ。
先が思いやられる


我らも組織として成り立ってこそいるが決して仲が良いわけではない
斥候せっこうとして働く私の隊は基本的にそこまでさげすまれる事はないが
弟が管轄している部隊は事情が違う

殲滅を目的とした編成である為に道徳心が欠けているものが多い。
と、言ってもアレほど狂っている者のは居ないが…


対して、それを煽った諜報の部隊を纏める躯体…
名はなんと言ったか…姿形すらまともに形容しがたい

表情がない…と言えばいいのか
つかみどころがないのだ。

戦力としてはそこまで脅威に感じないがネメシス相手に挑発できる
その点を考慮するにそれなりの心得はあるのだろう


気持ちを切り替えて私は、彼らの言い争いを無視して結果を述べる事に専念する




――――――――――



――――――――――




アレース「以上が今回、仲人界であるピースへの視察結果であります」


今回の要点は主に

一、ピースの政治経済、生活環境
二、ピースの軍事力
三、マケット、マヌカン族の居住数
四、上記の種族によって生まれた恩恵と弊害
五、ピースの現存する希少価値のあるもの
六、異端であるスレイブのこと


の六点に着目した結果の報告を挙げた。



側近の女「アレースの見聞は以上です、発言権の優位者から発言し、議論を始めてください」


ネメシス「スレイブについての情報は、記憶喪失と異常なまでの戦闘力…たったこれだけか?」



女の締めが終わるとともに口を開いたのはネメシスだった




アレース「報告に追記するのであれば、現在奴はサーヴァントと呼ばれておりマヌカンの姫君と共に行動しているようだ」


ネメシス「んな事はオメーの記憶回路のフィードバック観てわかってんだよ!!」



側近の女「ネメシス、発言権を行使している上での乱れた言葉は避けなさい」


ネメシス「なんだと…上等だ女…」

落ち着いているアレースに対して言葉を荒げるネメシスに見かねた女が横やりを入れると二人の間に殺気が立ち込める




『待て』



側近の女「―――…」

ネメシス「――。っち、」


一触即発寸前の二人は重く響くたった一言に、威を収める



カリス『これについてだが、技術担当の意見を聞きたい…発言権を行使せよ』

カリス『具体的に、この場に居る者全てに理解できるように簡潔にな』


主の要請で静かに傍聴していた技術班の者が立ち上がる

アレース「ん…?」

何かがおかしい
アレは確か、技術班の責任者ではなく…


「はい。この度の一件は技術開発最高責任者の見解、及び意見の発言でなければなりません」


技術担当からの一言に、一同は騒めく。
なるほど、代理では回答できない程に不可解な現象だという事か
それとも…なにか知られては困る事が技術班にはある可能性も捨てきれないな…



ネメシス「ふざけんなよコラ。おめーらの怠慢がスレイブを泳がせてんだよボケ!」


アレース「静かにしろ」

ネメシス「ああ!?」



カリス『…確かに最高責任者の姿が見えんな…副責任者も…どこに居る?』


「申し訳ありません…技術者全員、行先も何も…」


側近の女は主より数歩離れると魔法陣を引いて何やら呟いている
おそらく技術開発最高責任者と連絡を取っているのだろうが、すぐに詠唱を止めてしまう


側近の女「マヌカン族による攻撃を受けたという報告以降、再三の呼び出しにも応じません……責任逃れでしょうか?」

カリス『…仕方あるまい、スレイブがこの様な状況になったのも最高責任者の寝返りやも知れん。
今を以て技術開発最高責任者を反逆罪にて、直ちに手配せよ』



側近の女「はい。」


主の命を受け、女は再び闇に溶け込むように姿をくらます


カリス『して……仲人界だが、相も変らず名の通りにあの国は武装はせず、仲立しているようだな…』

カリス『だが、当のマケットとマヌカンには未だに埋まらぬ溝があると見る…期は近い…各自、ぬかるなよ』




アレース「御意のままに」

ネメシス「…」

諜報機「畏まりました、我が主よ」


カリス『カイライ軍総統として命ずる。今後の仲人界に対しての調査だがアレースの傷が癒えるまで代理としてネメシスに任せる事とする。以上』



アレース「……む。」


その言葉に私は耳を疑った

主は決して、ネメシスを単身で作戦に組み込むことはない



奴は常に私の僚機となって援護に務めさせていた
何故なら奴は数々の任務の度に破壊の限りを尽くし生きるもの全てを殺し、滅ぼす悪魔そのものだからだ。


そんな奴に、仲人界の調査を任せるのか…?


ネメシス「ついに俺の出番か…ははっ…了解だぜぇ!」

ネメシス「このネメシス、主の前にガラクタとなった奴を連れてこようか!」


意気揚々と席を立ち、こちらにを睨み付けたその顔はすぐさま不気味な笑みへと変わり足早に会議室を後にする



諜報機「とても面白そうなことになりそうだ」

アレース「―――何がだ」


諜報機「いえいえ、純粋に思った事を口にしたまでのコト、深い意味はありませんよ」

諜報機「ただ、その結果でどれだけの死人が出て幾数もの損害がでるのかは知りませんがね」


コイツ―――
理解した上で言っているな…


アレース「下衆が」

諜報機「ハハッ!結構結構!貴方をこれ以上怒らせるのは得策ではない」

諜報機「弱者はそれなりに尻尾を巻いて逃げるとしますか…ね」



傍らを通り過ぎていく
その最中も表情など持ち合わせていない奇怪な面から卑しい笑みが伺える


諜報機「もっとも…手負いの貴方なんて、ゴミ…ですけどね」


アレース「――――」


振り向きざまに壁を破壊したが、直撃する事なく姿を消していた


こうして、私の仲人界の視察報告会は幕を閉じた


この胸の内に、微かな騒めきを残したまま…




――――――――――





――――――――――






マヌカン邸玄関前




リリン「すみません…ここまで送って頂いて…」


サーヴァント「あの様な者がうろついてる中、ひとりで帰られるのは危険ですから…」

帰りの道中、彼女が目を覚まし自分の足で歩きたいと申し出たので付き添いながら帰路につき
無事にリリンの住まう家まで送り届けることができた。



ここなら安心して彼女も休めるだろう…




リリン「宜しければ、お爺様に会われませんか…?…久しぶりにサーヴァント様に会われればきっと喜ばれると思うんです」

きっと彼女なりのはぐらかしなのだろう…
自分が口にした「あの様な者」は…きっと奴ではなく、自分の事を無意識に言ったのかもしれない



彼女はそのことに気にするなと言ってくれたが…自分が何者で、なんなのか不気味な程に知らなさすぎる
誰かに問おうとしても
何を、どう尋ねればいいのか…言葉を選んで会話にまでたどり着く事が出来ないんだ


普段は、そういった事が無いと言うのに…




サーヴァント「……」


いいや。

知らない、のではなく…
思い出せない、が正しいのかも。


頭の中に何かが引っかかる感覚が気持ち悪い



いったいなんなのだろう…あの力は…





リリン「サーヴァント様…?」


サーヴァント「え…あ、すみません…考え事をしてました…今日は遠慮させて頂きます。リリン様もどうかお休みください…」


心配そうに彼女が僕の顔を覗き込んできて、ハッとする


その表情が、より一層心配させまいと自分を明るく偽って見せてしまう…

僕は、その空気に耐えられず半ば彼女を追い返すようにドアノブに手を伸ばし玄関を開けた


『戻ったのか…リリン……?』


屋敷の奥から聞こえて来るか細い老父の声


その声がこの屋敷の主の物だと理解するには、そう時間の掛らない事だった。


衰えなのだろう。
壁に手を添えながら、自身の体を重そうに支えながら姿を現す


リリン「はい、ただいま戻りましたお爺様…」


マヌカン王「おぉ…おかえり、リリン。遅かったじゃないか…」



トランジェント・マヌカン
現マヌカンの王にして生粋の魔術師―――

老いてこそ魔力の衰退を感じるが、技術はなかなかに高いと言う

孫にあたる彼女…リリンも相当な技量を誇っているが
そんな彼女でも勝てるか解らない、そう言わしめる程の実力者だ



リリン「遅くなって申し訳ありません…それが…」

歩み寄る実の祖父の姿に、彼女は話しにくそうにしているとマヌカン王は微笑み掛ける



マヌカン王「なに、大体の事情は知っておるよ…無事で何より…」


リリン「お爺様…」


彼女の頭に手のひらを乗せ優しげに撫でていると、マヌカン王はこちらに視線を流す




サーヴァント「………」



マヌカン王の視線に含まれている意味を全ては汲み取れない…

ただ黙って頭を下げる事しかできなかった

目を逸らしたかった
見透かされているような…その眼差しから…



マヌカン王「…どうした?顔を上げなさい」

マヌカン王の言葉に従い、ゆっくりと頭を上げて顔見せる


視線を合わせるとマヌカン王は微笑んだ


マヌカン王「…ご苦労だったな、サーヴァント。」

その言葉に、何か自分の中から溢れ出そうになる…


サーヴァント「……申し訳ありません…私は…『また』リリン様に危害を…」



そう…「また」なのだ…





――――――――――



――――――――――





『やめて!これ以上争うのは…っ!!』




『ガ…ガが……ル…』


『ま――――も、る』


『あなたは自分が信じたことをすればいい、リリンの為でもない、あなた自身の為に…ね』




『ハ…か…ハカイ…ハカイダアァァァァァァぁ!!!!!!』




――――――――――



――――――――――










…「また」?


………何が、「また」なんだ?





わからない

溢れるものを塞き止める

だって…そのものの存在を…知らないのだから




リリン「違います…っ!」




彼女は声を上げ、僕とマヌカン王の間に立ち大手を拡げて立ちふさがる

リリン「彼は…私を守ってくれました…お爺様…信じてください…」


息が掠れ、小さな背中が小刻みに震えている
恐れ…、微かに怒りの感情も垣間見える

何が彼女にそこまでさせるのだろうか

どうして、『あんな事をした』僕を庇う…、どうして…、


サーヴァント「――――っ」



マヌカン王「あぁ…心配するな…全てわかっている。彼が事細かく教えてくれたよ…」


そう口にすると陰に潜んで様子を伺っていたのだろう
音を立てず、そっと明るみにひとりの青年が姿を現す。

歳はリリンと大して変わらないか少し上のように感じる



その姿は軽装だが、とても清楚に纏められた衣服を身に纏うことで
彼の人となりを表していた


リリン「日景様…来られていたのですね!」


サーヴァント「……」


その姿を目にした彼女は目を輝かせ、少しばかり息が上がっているのがわかる
…嬉しいのだろう

彼女の喜びの感情は僕にとっても嬉しいのだけれど、どこか苦しく感じてしまう



日景「ご無沙汰しています、姫様」


リリン「彼は、その―――、私の近衛を務めてくれてる日景陽輝ヒカゲハルキ様です」


僕が懐疑そうな表情を浮かべていたからだろうか
彼女は突然現れた彼の紹介を済ませると、僕の心のざわめきが少し収まる

安心…なのかな
何について胸を撫で下ろす事が出来たのかは僕自身でもわからないけれど
とにかく彼は敵になりうる存在ではない

彼女を守るのであれば、志は同じはずなのだから―――



サーヴァント「よろしく、日景。」

そっと手を差し出し、握手を求める
だけど、その手は握り返される事もなく


彼は横目で流した後に軽くため息をついたのだ


日景「失礼します」


彼はリリンへ一礼すると一歩退き、マヌカン王にも一礼をし後方へと身を潜めた


マヌカン王「すまないな、あとで言って置くとしよう…して…陽輝よ。此度の件は…」


日景「はい。恐らくマケットの過激派による襲撃の可能性もありますね」


マヌカン王「―――、他の介入は?」


日景「十二分にあり得るかと、マケットだけでは表立っての戦争の準備は厳しいでしょうし」

日景「裏で何かしらの援助を受けて再戦の期を伺っていると考えるべきです」


リリン「…!?」


サーヴァント「な…っ」



彼らの口から出たその一言に驚きを隠せなかった

未だにこの世界は水面下で戦争をしている。

終わっているはずの戦いが…


日景「意外、と言った顔だな」

日景「この世界は平和だったことなど一度もない。いつもどこかで小競り合いが生じ…その都度少ない犠牲と流血は免れることはできない」


日景「そうして、事あるごとに事態を小さくしていき最終的に無に帰す…それが現状なのだ」

リリン「そんな―――、私、そこまでだったなんて…」


突きつけられる現実に、リリンは崩れるように座り込んでしまう
顔は青ざめており

先程よりも体が震えている
恐怖の感情がとても色濃く現れているんだ…


日景「姫様、どうかご自愛を…これから知ればよいのです。」

日景「王は…そのために貴女を待っておられたのですから」


リリン「え―――?」

ただ帰って来たわけではない
彼の言葉が真実なら…なにか目的があって、ここに呼ばれたことになる


日景の言葉に続くようにマヌカン王は杖を用いて一歩前へと出てくると僕へと手を差し伸べる


マヌカン王「数多の罪を背負いし守り人たらん者よ、心して聞け」


サーヴァント「―――」

頭の中をノイズが駆け巡る







これは罪なのか




僕はなにをしでかした


思い出してくれ
ほんの一欠けらでもいい


僕がなにかをしたという事実を、誰か教えてくれ





もう…戻れない


その一言が…



マヌカン王「お前はリリンと心鎮の意図手繰りヤーンの契りを結べ」


運命の糸を手繰り寄せ、時計の針を進めてしまう。


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