飴=口うt

※色気あり&臨也が変態注意




「君と波江がここに来てそろそろ一年が経つんだけどさ、一年もあれば仕事の流れっていうものができるんだよね。
 それを急に変えられると、この間みたいにいろいろと不都合が生じて仕事に支障を来たすわけ。ユウキはいなかったから知らないだろうけど。
 それで、そんな話を聞いても君はそういうことを言うのかな」
「はあ……じゃあ、具体的にどういうことがあったのか聞かせてもらいましょうか」


 池袋から強制連行されたのが昼過ぎのこと。そして、波江さんが帰ってからの現在午後7時。
 私は折原さんとソファに向き合って座っていた。横に腰掛けることはできれば避けたかったので、それ自体は少し安心している。あくまでそれ自体は。
 余裕に溢れた笑顔の折原さんは、私の返事を聞くと少し考えるように間をおいて、


「君がいないっていうことを思うと、自然に同じアパートにいるシズちゃんの顔を思い出してもの凄く苛つくんだよ。
 その苛々しているのを見てさらに波江が苛々し始めて、仕事場の空気が最悪になったとか」
「……波江さんに悪いことをしたということは再確認できました。でも、それだと今回のことでは不都合にならないんじゃないですか」
「とにかく、俺に譲るつもりはないってことだよ」
「ゴリ押しですね」

 
 このままでは埒が明かない。なんとか8時までに決着をつけないと……。
 しばらく黙ってその方法を考えていたのだけれど、まるで良い案が思い浮かばなかった。
 折原さんが納得してくれる方法って、なに?むしろ考えたくもない議題だ、過去の体験からして絶対に穏便では済まされないだろう。
 
 ふと顔を上げて折原さんの様子を見てみると、もの凄く意地悪な笑みを浮かべてこっちを見ていた。
 思考回路がばれている気がする。とにかく、案が思い浮かばないのなら仕方ない。
 ……あまりしたくなかったことだけど、本人に聞いてみよう。


「折原さんは、どうすれば納得してくれるんですか」
「逆に、君はどうすれば俺が納得すると思う?」
「……それが思いつかないもので」
「そう?確実に納得する方法がひとつやふたつはあると思うけど」
「とりあえず私が女であることを前提にしたものは考えるまでもなくしません」
「あっそう、残念」


 本当に残念そうな顔をしないでもらいたい。「何いってんの?」と呆れた顔をされる方がマシ……でもないか。
 

「じゃあ、夕飯の決定権を折原さんに一任します」
「あまり気乗りしないねえ」
「昼食込みでどうですか」
「言っておくけど、俺は朝食を入れられても納得しないから」
「そこで頷いてくれればほのぼので終わるのに……」
「ほのぼのより需要のあるものがあるんだよ」
「そんな方向にはもっていかせません」


 ええそれは是が非でも。えー、とか言わないでください。
 自分で汲んでおいたお茶を飲んでため息をつくと、折原さんが思いついたように「あ」と言った。
 

「ユウキ、ちょっと風呂入ってきて」
「…………」
「別にやましいことをするつもりはないんだけど」
「以前、シャワーを浴びてくるよう言われてシャワーを浴びていたら、着替えがすり替えられていたことがありました」
「だから、しないって。場合によっては、そうするだけで納得してあげなくもないよ」


 向い側でにこにこと笑っている折原さんの言葉に、思わず考え込んでしまった。
 ここまで言うなら、信じてもいいかもしれない。さすがにここまで言っておいて約束を破られたことはないし。
 
 けれど、折原さんは私の風呂上がりなんて飽きるほど見ているような……。
 いやでも、この間帰って来たときに女の子女の子しているパジャマを貰った(何故か今まで寝間着として使っていたTシャツ類が紛失したので、どういうわけか女物のパジャマを持っていた折原さんから提供してもらった。うわあ不自然)ばかりだし、そうでもないかもしれない。
 ……っていうか、二十歳過ぎた女のパジャマ姿見て何が楽しいのだろうか。何も楽しくないな……。



 ♀♂ 


 
「馬鹿にしてるんですか」
「してないしてない。いいから舌出して」
「出しませんよ」
「ノリ悪いねえ。もうこれそういう流れだから、拒否権はないよ」
「私の拒否権は私が所持しています。出しませんよ」
「舌出しながら『ください』って言えばそれで事は終わるのに?」
「いろいろアウトです、折原さん」


 何の話をしているのかといわれてみれば、まあ折原さんの言っていることでだいたい伝わると思う。
 でも明らかに誤解を生みそうなので断っておくと、くださいの対象は私がお風呂へ入っている間に折原さんが買ってきた飴だ。

 あれ、これってやましいことじゃないの?むしろ罰ゲームの領域?

 
「だいたい、舌を出したままで言えるわけないじゃないですか」
「言えないのがいいんだよ、わかってないなあ」
「わかりたくもありません」


 髪を乾かす暇もなく話を切り出されたため、たまにおちてくる水滴が鬱陶しい。
 でも、そろそろ8時前なのでそんなことをしている時間はない。これはもう羞恥心とプライドを捨ててやるしかないのか……。
 そんな調子で脳内葛藤を繰り広げていると、


「あと3分以内に決めてくれないと、別のこと考えるから」


 折原さんはそう言って、清々しい笑みを浮かべた。
 その言葉の裏に「別の もっとひどい こと考えるから」という意味が含まれているような気がしてならなかった。
 これ以上ハードルを上げられてはたまらない……。

 時間的にも精神的にも切羽詰まっていたので、正常な判断が下せなかったんだろう。


「やります……」


 私は承諾してしまった。
 これ以上ないぐらいに淡々とこなしてやればいいんだ、それぐらい耐えようむしろ耐えろ。
 苦々しい私の返答に折原さんは満足げに頷いて向いのソファから立ち上がった。
 ……舌出して言うだけじゃないのか。

 私の腰かけている方のソファまで回り込み、真後ろに立った折原さんからこっちを向くよう指示されたのでとりあえず従う。


「じゃあ、俺の方見上げて、はい」
「……いや、あの、普通目線でいきませんか」
「8時まであと5分」


 納得してもらえたらバリバリバイトいれてやるッスケジュール表バイトの文字で埋めてやるッ。
 それぐらいしないと割にあわない!

 少しの間うつむいてから、覚悟を決めて舌を出し、目を瞑って言ってみた。とても折原さんの目を見て言えるようなものじゃない。
 ……なんといったかなんて、説明する必要はないと私は自己判断してみましたはい。
 

「やっぱり『くらひゃい』になるよねえ、想像はしてたけど面白かったよ」
「人が必死で隠そうとしたことを、」「でも、目瞑ってたからもう一回俺の方を見て言ってね」
「……いや、」「8時まであと3分」「やりますから……っ」
「そう?じゃあ、次は言い終えてもしばらく舌出したままにしておいてね」


 最後の言葉に不審なものを感じながらも、なんとかもう一度言い終えた。
 ちなみに折原さんはずっとニヤニヤ笑っていた、凄く殴りたかった。

 言われた通りに舌を出したままにしていると、


「はい、納得祝い」


 口の中に飴を入れられて、喉につまるかと一瞬焦った。
 というか、納得祝いって……納得してなかったのは折原さんじゃないかっ。
 そう思いながらも、これで済んだことに安堵した。

 飴はレモン味のようで、少し酸っぱい。口の中でそれをころころと転がしていると、いつの間にか折原さんが隣に腰かけていた。


「もっと違うことされると思ってた?」


 機嫌の良い様子でそう言った折原さんには言い返したくても言い返せない。
 

「いいこと思いついた」
「……」
「飴が出てきた時点で、もう気づいてたんじゃないの?」
「……」
「決まりきった法則は守らないと、ねえ?」


 馬鹿だこの人馬鹿だ、むしろ変態だ!
 何されるってあれでしょ、口の中に飴が入っててそれで、それでなんかはいどうぞみたいな!で伝わるかな……表現力のなさを嘆いている暇はない。
 っていうか、するならそういう関係が成立してからしてほしい。そんな見込みはなさそうだけど、だからするべきでないと思うんだけど。

 早く噛み砕いてしまおうと思っているのに、案外かたくて割れる気配が全くない。吐きだそうにもティッシュがない。さすがに飲み込む勇気もない。
 ないないづくしでどうしようかと思っているうちに腰を引かれて、私が右手を振りかぶったときだった。


「君の店主、空気読めてないね」


 ずっと服のポケットにいれていた携帯から着信音が鳴りだしたので、折原さんの言葉を無視して急いで電話に出た。
 明日から、明日から全力で頑張ろう……。



 (飴=口うt……なんて法則はないッ)

 
 
 notキス butセクハラ

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あきゅろす。
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