募るばかりの疑問


 久々にチャットへ参加したその翌日、私は杏里ちゃんが学校へ向かうのと同じタイミングで部屋を出、また来ることを伝えてから自分のアパートへと帰ってきていた。
 自室前に到着して鍵を開けて中へ入ろうとしたとき、丁度平和島さんがお隣から出てきたので「あ」サングラス越しに目があう。


「今、帰ってきたのか」


 少し眠たげな声に私は頷いた。


「平和島さんは今からお仕事ですか」
「まあな。そういや、今日病院には行かないのか?」
「……えっと、今から行こうかなと思って。別れるまで、一緒に行っても大丈夫ですか」
「ああ、構わねえよ」


 解錠した鍵を閉め直し、立ち止まってくれている平和島さんの元へ足早に向かった。
 来良病院へは沙樹ちゃんと会うために行くつもりだった。本当は午後からのつもりでいたけど、平和島さんにも聞きたいことがあったので丁度良い。
 しばらく無言で足を進めてから、よしと頷く。聞いてみよう。


「平和島さん、罪歌の話をしてもいいですか」
「あ?」


 そう言って、平和島さんは眉を潜めながら首を傾げる。

    
「罪歌って、この間の切り裂き魔のことか?」
「はい、その罪歌のことでちょっと」
「……まあ、俺に答えられることならいいけど」


 快く、とは言えないけれど、断れなかっただけ良しとしよう。

 昨日の杏里ちゃんが使っていたハンドルネームのことを、ずっと考えていた。
 ただの偶然ということもないわけじゃない。でも、偶然で済ませるにはあまりにも嵌りすぎていて納得できない。
 もし仮に杏里ちゃんが罪歌と関係があるとしたら直接聞くのもどうかと思ったので、


「平和島さんが南池袋公園で罪歌と会ったとき、その、メガネを掛けた女の子を見ませんでしたか」
「メガネ掛けた女なんて、いくらでもいるだろ」
「……えーと、来良学園の子で、もの凄くスタイルの良いショートカットの子なんですけど」


 そこまで言ったところで、そういえば去年の4月に見てるんじゃ、そんなことを思ったけれど、あのときは折原さん以外眼中になかったようだから覚えてはいないか。
 考えるように黙り込んでいる平和島が口を開いたのは、それから数秒後のこと。


「あそこじゃ見てねえけど、臨也んとこのマンションへ行く前に、見たかもしんねえ」
「それは、どういう状況で」


 聞いてみると、平和島さんがそのときのことを話してくれた。
 なんでも、杏里ちゃんと思わしき女の子が斬られそうになっていたところを門田さんたちと撃退したらしい。
 ……いや、門田さんたちの車と、かな。


「そのとき、その子に怪我は」
「なかったはずだ」
「……そうですか」


 もし杏里ちゃんがその子だとしたら、いったいどこで怪我を……っていうか、そもそも本当に杏里ちゃんは罪歌のひとり?
 ああ、もう。分からない。


「おい、ついたぞ」
「えっ、もうですか」


 ハッとして正面を向くと、確かに病院の玄関口が見えていた。いつの間に。
 

「じゃ、臨也の野郎には気をつけろよ」


 そう言って平和島さんは回れ右をする。
 私はと言えば少し呆けてから、あることに気が付いた。

 結局、今日も送ってもらってしまったっ。


「あの、ありがとうございました」


 遠ざかっていく大きな背中にそう言うと、平和島さんがひらひらと手を振ってくれたのが見えた。
 
 

 (疑問は積もるばかり)



……格好いいなあもう。

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