〈《覚えていたけど、それが何?》〉


「そろそろバイトでもしようかな……」

 
 アパートへ戻ってきての第一声がそれだった。
 平和島さんたちに露西亜寿司へ連れて行ってもらい、涙が出そうになるぐらい平穏な夕食をとったのだが(ワサビのせいかもしれない)、
 やっぱり寿司は高い。おごってもらうことなんて気の引けることはやんわりと辞退させてもらって自腹をきった。
 思いきり軽食のファーストフード店にでも行くのかと思っていたからなあ……。
 
 とりあえず会計を済ませて気になったのは、貯金の残金だった。
 余裕があるといえばまだある。でも、この不安定な生活で貯金を遣ってしまうのはどうなんだろう。
 働かざる者食うべからずということわざもあるのだから、明日にでも何かバイトを探しに行こうか。

 うんと頷き、私は携帯電話を取り出した。
 


 ♀♂ 



 ――――きゆさんが入室されました。


【あ、きゆさん。こんばんはー】

〈こんばんは〉

[ばんわー。連日で来るなんて珍しいですね]

{こんばんは です}

《遅いですよぅ!甘楽ちゃん、ずっと待ってたんですからね!!》

〈あの、過去ログを読んだんですけど〉
〈黄巾賊とダラーズのはなしですか?〉

《あれ!?おもいっきり流された!?》

【ええ、まあ】

{私は 知らないので 教えてもらおうと}

[あいつらには関わらない方がいいと思うんですけどね……]

《セットンさん、今日は何時にも増してお堅いですねー》
《とりあえず話の続きなんですけど、ダラーズも黄巾賊と似たような、若い人達の集団ですよー》

[……ただ、これといって特徴がないから目立たないんですけどね。ダラーズの方は]

《この二つの組織が、この間の切り裂き事件以来、いろいろ危ない状態なんですよー》

{え}
{どういう ことですか}

[詳しく知らない人に話してもしょうがない話題ですよ]
[きゆさんだって、知らないでしょうし]

〈確かに知りませんけど、気になります〉

《ほらほら、本人さんもこういってますよ!だから、話続けますー》
《ええとですね、こないだの切り裂き事件で、ダラーズにも黄巾賊にもそれぞれ被害者が出てるんですけど、
 どうも、お互いがお互いを犯人だと思ってるぽいんですよねー。結局犯人も捕まってないし》
《なんだかんだで、あの『リッパーナイト』以来、パタッと事件が途絶えちゃいましたから》
《だから、色々な憶測が飛び交ってるんですよね》
《それで、黄巾賊とダラーズの人たちは、自分たちの仲間をやられているわけですから》
《犯人を見つけないと、お互い面子が保てないわけですよ》

【ダラーズの方は、そんなに面子事態には拘ってないですけどね】
【ただ、仲間の借りは返したがっていると思います】

《で。今の状況になってるってわけです!》

〈なるほど〉

【まあ……お互いのことをよく解っていないでしょうからね……誤解もあるんだと思います】

{そうですか ありがとうございます}

内緒モード〈あの〉
内緒モード《おや、めずらしい》
内緒モード〈……なにか、企んでません?〉
内緒モード《ハハッ、そんなこと教えると思う?》
内緒モード〈……もういいです〉

{すみません ありがとうございます}

【?】

《何にせよ、切り裂き魔の真犯人が両方の手でリンチにでも遭わないと……このままいったら池袋に血の雨が降りますよー。恐いですよー。抗争って奴ですね!》

【……そんなことにならないように祈ってますよ】

〈全くです……〉

{あの すみません}
{私は 今日は これで}

【あ、はいー。罪歌さん、お疲れ様でしたー】

〈おつです〉

《おつかれさまでっす☆》


 ――――罪歌さんが退室されました。


[罪歌さん、おやすー]
[ありゃ、一足違い……]

内緒モード〈いきなりなんですけど、ひとついいですか?〉
内緒モード[?どうかした?]
内緒モード〈今日、警察の人に追われているのを見かけたので〉
内緒モード〈大丈夫かなと……〉
内緒モード[ああ、見てたんだ……とりあえず、無事帰れたよ……]
内緒モード[あいつら本当に化け物だから!!免許とっても、スピード違反はしちゃ駄目!]
内緒モード〈は、はい〉

[……それじゃ、私もそろそろ落ちますねー]

《あれ?セットンさん、今日は早いですね?》

[ちょっと客が泊まりに来てるもんで]
[ではまた、おやすー]

《はいー》

【お疲れ様でしたー】

〈おつでしたー〉


 ――――セットンさんが退室されました。


〈じゃ、私も落ちます〉

【きゆさんも、なにか用事ですか?】

〈ええ、そんな感じです〉

内緒モード《ちょっと待って》
内緒モード〈教えてくれるんですか?〉
内緒モード《何か言い忘れてない?》
内緒モード〈  別に、折原さんこそ何かないんですか〉
内緒モード《……別に》
内緒モード〈わたしおぼえてますから〉

〈では、おつでした〉


 ――――きゆさんが退室されました。


【お疲れ様です】
【あれ?退室早っ】

内緒モード《素直じゃないねえ》
内緒モード《……馬鹿馬鹿しいよ》



 (お互いにね)



 今日は、何でもない日なんかじゃないんです。

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