「「別に記念日だとか、」」
「今年って、黄色が流行カラーなんですか」
きょろりと辺りを見渡してそう言うと、急な夕食(軽食?)同行にも「別に構わねえって」と気さくに言ってくれたトムさんがああと頷いた。
「今年っつーか、ここ数ヶ月だな。また流行りだしたのは」
「……本当に黄色が流行カラーだとは」
「あー……言い方が不味かった。あんた、カラーギャングって知ってる?」
去年の矢霧製薬云々の事件を思い出し「ダラーズとか、ですよね」確かそうだったはずだと返事をした。
ちなみに平和島さんはさっきからずっと無口だ。興味のない話題なんだろう。
「ダラーズのことはあんまり知らねえんだけど、多分そうだろうな。そのカラーギャングのひとつに“黄巾賊”っつーのがあるんだけど、聞いたことは?」
「ありませんね」
「二年前、いやもう少し前か……そんぐらいの時期に増えた連中のこと。ここ一年はおとなしくしてたんだけどよ、また増え始めやがってな……」
「はあ……」
「そいつらの色が――あれ。黄色ってわけだ」
トムさんが目線をやった方向では、黄色のバンダナやTシャツを身につけた男達がたむろっていた。
辺りを見渡すようにあちこちへ視線を向けているその様子は何かを探しているように見える。そのうちの一人と目が合ってしまい、睨まれた。どこのチンピラだ。
ふいっと顔を背けて進行方向に注意を向け直すと、
「急に増え始めたと思ったら、前にも増して好き勝手しはじめやがってよぉ……あんたも気をつけた方が良い」
「わかりました」
「つーか、あいつら知らねえってことは一年前ぐらいか。あんたがここに来たのは」
「そう、ですね」
もう一年か……早いな。トムさんの言葉に改めてそう思い、そういえばとひとつ思い出した。
今日は、折原さんと再会した日。
……だから何ってわけじゃないけど、そんな日に絶縁中ってどうなんだろう。何かがもやもやと膨れあがってきたので、首を振って考えなかったことにした。
今日は、何でもない平日です。
「静雄からあんたの話を聞いたのは……そういや去年の四月頃だったな」
「…………」
四月?
トムさんに存在を知られたのは七月の遊園地の一件からだと思っていたので、へえと首を傾げた。
いったいどんな風に伝わっているのか、気にならないわけじゃない。いや、むしろもの凄く気になる。
トムさんのイメージはそのまま平和島さんから見た私のイメージということになるんだ。気にするのは当たり前のこと、なはず。
「あの、トムさんとはこの間初めてお会いしたじゃないですか」
「ああ」
「それまで平和島さんからどう、」「ユウキ」
いきなり平和島さんに名前を呼ばれたので少し驚きながら「なんですか」そう言うと、平和島さんは口ごもる。
なんだか今日の平和島さんは落ち着きがないというか、なんというか……珍しい。
「……何って、だから……ここに来るまでどこにいたのか、とか……」
とかってなんだろう。
疑問に思いながらも口に出してはいけないような気がしたので「埼玉です」素直にそう答えた。
「埼玉か……あそこはあそこでいろいろいるよなー」
「ここには劣りますけど、凄い人は凄いです」
特に某暴走族チームの総長とか。個性の固まりって言うか……ねえ。
少し苦笑して返答すると、平和島さんがへえ、とでも言いたげな顔をしていた。
ここで、池袋へ来た理由を聞かれたらどうしようと内心焦る。しかし、結局そんなことを聞かれることはなかった。
……よかった。
♀♂
「そんなに気になるなら、早く連れ戻しなさいよ」
珍しく目に見えて不機嫌そうな目の前の男に、波江は呆れた様子でそう言った。
「あまりカリカリしないで欲しいわ。鬱陶しいから」
「……なんで俺が不機嫌だと、ユウキを連れ戻す話になるわけ?」
「あら、違ったのならごめんなさい」
仕事へと視線を戻しながら波江は淡々と受け答えをする。
そんな波江に小さく眉をひそめてから、携帯を取り出してディスプレイを数秒見つめた。が、すぐに向かいにあるソファへと携帯を投じる。
その様子を目端で捉えた波江は、
「そういえば、今は平和島静雄のアパートにいるのよね。あの子」
「知ってるよ」
「そう」
これ以上言うのは面倒だというように、中途半端なところで会話を区切り、小さく息をついた。
早く帰ってきてくれないと、いろいろ煩わしいのよ――
(「「別に記念日だとか、」」 決めたわけじゃないから。)
お互い不在のその日。
*前へ次へ#
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!