過去からの逃避希望者達


 過去はどこへも逃がしてくれない。
 悔いるべきことも忘れたいことも哀しいことも例外なく逃がしてはくれない。

 “向き合えばいい”そんな強さもないのにどうやって?
 “戦えばいい” 戦う対象すら消えてしまっているのにどうして。

 結局““逃げる””しか道はない。 







 ♀♂





 


「だから、今は携帯の方に電話しないでね」

『まあ、失くしたんなら、仕方ねえか』

「……できるだけ、こっちからは掛けるようにするから」

『携帯失くしたぐらいでそんな落ち込むなよ。っつーか、お前が落ち込んでるなんて珍しいな。なんかあった?』

「仕事でトラブった」

『ユウキが原因で?』

「あー……いや、どっちもどっちかな……」

『相手が男ならいつでも力貸すからな』

「文字通り力で解決するつもりだね」

『女ならできるだけ穏便に頑張れ!』

「……いつも通りの千景で安心したよ」

『そうか?まあ、ユウキの味方なのに変わりはねえから』

「それはそれは、ありがとう」

『あ、冗談だと思ってるだろ?』

「思ってないよ、ずっと」

『なら、たまには頼ってくれよ』

「いやいや、私の仕事だから」

『じゃあ、たまには帰ってこいよー。半年以上会ってないって気付いてるか?』

「電話で話してるから気付かなかった」

『だったら今気付いたよな!』

「そんな嬉しそうに言われても、仕事が逃がしてくれません」

『どんだけきついとこで働いてんだよ……。その分だと、例のいじめられてた子とも会ってなさそうだけど、様子見に来なくていいのか?』

「…………もう、その必要なくなったから」

『え?あの子、引っ越しでもした?』

「そんな感じ」

『へえ。一回、会ってみたかったんだけどなー』

「ごめん、巻き込むだけ巻き込んで」

『謝んなって。俺だって十分巻き込んだし、相子だろ』

「……そっか」

『っつーか、むしろ女を巻き込んだ過去の俺をぶん殴りてえ』

「千景は今日も絶賛千景中みたいだ。まあ、帰れるようになったら、帰るから」

『おう!無理して体壊すなよ』

「そっちも喧嘩のしすぎで大怪我しないように」

『そんなのねえって』

「千景が強いのはわかってるけど、世界は広いよ。絶対千景でも勝てない人、知り合いにできたから」

『……マジかよ』

「マジだ」

『じゃ、東京まで遠征に来たときでも探すか』

「本気で大怪我するからやめて」

『冗談だって、東京に行ったらまずお前の居場所を探すのに忙しくなるからな』

「見つけられるなら見つけてみなさい」

『見つかったらもう一回付き合っ』「てあげよう東京の観光案内に」

『……もう望みなし?』

「……かな」

『じゃあ、他の子ともう遊ばないって言ったら?』

「あんまり、関係ない。それに千景がそんなこと言い始めることもないだろうし」

『……痛いとこ突くな、お前』

「そこで否定しないのが千景の良いところ」

『あんま嬉しくねー。本当に冗談抜きで女関係じゃないなら、俺なんで振られたの?』

「ヒント、過去の自分を振り返ってみよう」

『もう飽きるぐらい振り返った。女関係以外覚えがねえ』

「まあ、気にしなくてもいいと思うよ。千景は浮気性な彼氏だったっていう思い出だけで十分だから」

『……やっぱり女関係か』

「否定はしない」

『……だよなー』

「だから、これからは友達として接して下さい」

『え?ってことは、今まではまだ恋人だった?』

「恋人未満友達にもなれず、ただの知り合い」

『一応、ランクは上がったんだな……』

「というわけで、そろそろ仕事に戻るね」

『待った。テンション下がりすぎてどうしたらいいのかわかんねえんだけど』

「えー……。今日も一日頑張ってね」

『もう夜中だけどな』

「世界中の女の子が千景のこと待ってるよ」

『嫌味にしか聞こえないけどな』

「千景、寝ることの次に好きっ」

『具体的に何番だそれ!?』

「千景のそういうつっこみが大好きです」

『“のそういうつっこみ”を飛ばして、もう一声』

「千景が大好きです、友達として

『よし、テンション上がった!最後のは聞かなかったことにするからな!』

「……っていうか、なんで夜中にテンション上げたいの」

『これから出るから』

「そっか。あんまり派手にしないようにね」

『できるだけな。じゃ、また電話くれよ』

「できるだけね。とりあえずおやすみ」

『おう』



 ………………………………。








「言えない、なあ」







 (微かに嘲る)






少女は逃げ続けていた。

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