物語の最後に彼女が思うこと

 私はこの人と出会ってよかったのだろうか。

 そう何度考えて、何度その答えを保留してきたか分からない。
 
 この人――折原臨也さんという人は、私にひとつの終わりを押しつけた一人だ。
 そうすることが私情を含めない仕事だったのだとしても、そのことに変わりはなく。
 その仕事を終えた後、私を追い詰めるような真似をしたことにも変わりはなく。
 何度も何度も過去を抉って、首を絞められるような思いをさせられたことにも、変わりはないはずだ。

 それなら、私はあの人を憎むべきだったのだろうか?

 あの子を死に追いやるようなことをして、私に復讐しようとした文瀬雪子と同じように。
 お前もあの子を殺したのだと、頭がどうにかなってしまいそうな恨みを持つべきだったのだろうか。
 池袋や新宿での暮らしは全部誤りだと、間違いだと、そんなことあっていいはずがないと思うのが――普通なのだろうか。

 いや、そんなことは考えるにも値しない。

 私は復讐心や恨みだけで生きられるような人間ではない。
 それより罪悪感や喪失感や空虚感に押しつぶされて、いなくなることを選ぶ人間。
 特にあの子や千景と出会った後では、先が真っ暗で何も見えない、ただ前に進むだけの生活にはもう耐えられなかった。
 すぐにでもいなくなるつもりだった。

 あの時折原さんからのメールが来なければ、私は間違いなく自分で自分を殺していた。

 あの子が死んだ原因を調べた後、ああそうなのかと原因を作りだした全員を憎んで、そうしていた。

 しかし、そうならなかった。
 あの人が私に生きることを強いたから。私を無理やり立ち上がらせたから。
 
 ――それが何だと言われるかもしれない。
 どうしてそんなお前が折原臨也に好意を抱けるのかと、一緒にいようだなんて思えるのかと。
 言われるかもしれない。罵られるかもしれない。

 しかし、私にはそれが、あのとき死を選ばなかったことが、何よりも大切なことなのだ。 

 私があの子に対してやったこと――それが全て無駄といわけではなかったと、間違いではなかったと言える今なら。
 
 はっきりと、その答えを口にできる。 
 
 あなたに出会えたこと。
 そして池袋の人達と出会い、過去と向き合うきっかけをくれたこと。

 そんなのは自分の思惑じゃないと言われるかもしれない。
 でも、きっかけは全部あなたがくれたから。

 だから、折原さん。

 私はあなたに出会えて――――。


 
 (物語の最後に彼女が思うこと)


 
 終わりを始めよう。

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