それはツンデレ?

 数時間後 池袋某所




「あ、ユウキちゃんじゃん!久しぶりー」


 引き続き池袋内をうろついていると、門田さんや遊馬崎さんを連れて向い側から(渡草さんはいないらしい)歩いてくる狩沢さんと遭遇した。
 最後に会ったのは池袋集団暴走事件後の来店以来だから、数週間ぶりの再会だろうか。いや、再会と言うほど大層なものではないかな。


「こんにちは」


 とりあえず足を止めてそう言い、門田さんや遊馬崎さんとも挨拶を交わした。
 それにしても、この人たちはいつ見かけても一緒にいるような気がする。まあ、それほど仲がいいってことなんだろう。
 しかしそれでも、狩沢さんや遊馬崎さんとはあまり趣味の合致しそうにない門田さんが、二人とどういうきっかけで知り合ったのか。それは前から少し気になっていた。
 候補を挙げるなら、学校の後輩とか同級生とか(そもそも全員同い年なのかどうかもあやふやだ)、ダラーズ関係で知り合った可能性も――。


「…………」
「どうした?」
「顔が漫画みたいに引きつってるっすよ」


 怪訝そうな門田さんたちに対し、私はあることを思い出していた。
 ダラーズ。それは、今日千景がお礼参りにくるかもしれない相手の集団名だ。

 ……何だろう、何か三人に言っておいて方がいいのだろうか。
 門田さんはどこかダラーズの幹部的存在と認識されているそうだし、さすがに何か言っておいた方が……。
 私がそんなことを思ってじいっと三人を見つめていると、


「三次元の上目遣いも、なかなか破壊力抜群なんすねぇ」
「その雰囲気で次のコスイベント出てほしいなー」
「お前ら……」


 狩沢さんと遊馬崎さんはしみじみと、門田さんはいい加減にしろとでも言いたげな顔でそう呟いた。
 このまま悩んでいると何やらいらない誤解を生みそうだったので、とりあえずある程度のことを伝えることに決めた。
 のだが、その前に。

 
「あの、このあたりで顔に包帯を巻いてストローハットを被った人、みませんでしたか」
「……俺は見てないな。狩沢たちは?」


 門田さんの問いに、首を横に振る二人。まあ、やっぱりそう簡単には見つからないか。
 

「もしその人を見かけたら、私が探してると伝えてください。
 それでも万が一お互い見つけられなかったら、七時に『いけふくろう』へ来てくれるようにというのも、伝えてもらえれば助かります」


 そう言うと、門田さんは少し考えるような間をおいて「わかった」しっかりとそう頷いてくれた。
 ただ、その隣で狩沢さんが少し意地悪げに笑っていることが謎だ。
 また変な誤解をされているんじゃないかと思いながらも、そろそろ本題へ入ることにした。
 

「あと、もうひとつお話が」
「なんだ?」
「この間、池袋でさんざん付け回してきた暴走族がいたじゃないですか」    
「そういや、そんなこともあったな。で、そいつらがどうした?」
「今日、あのこととは別件で、ここに来ているんです」


 ダラーズの人たちを見つけるために。

 そう言うと、門田さんは少し眉をひそめ、狩沢さんや遊馬崎さんが首を傾げた。


「別件って、何かあったの?」
「詳しくは分かりませんが、ダラーズを名乗る人たちがそのチームを襲撃したとかで……。ああいう人たちって、そういうことはしっかりお礼参りとかしますからね」


 千景だって、例外じゃない。
 チームに関しては私や他の女の子達が何を言ったって、聞いてはくれないだろう。
 それでも、女の人はもちろん、子供にだって手を上げないし、変につっかかりさえしなければ一般の人へ暴力を振ったりもしない。
 ……まあ、その条件を満たしていないと、酷い目にあうんだけどさ。


「門田さんたちはダラーズでも目立ってる方達ですから、もしかすると喧嘩を吹っ掛けてくるかもしれません。それに――」


 ……いやちょっと待てよ。

 私はここであることに気づき、ハッとした。
 千景がそのチームの総長でその千景に対して私が探していたという伝言を三人が伝えてしまったらそれはもうなんというか飛んで火に入る何とやらでは……(いや、狩沢さんは大丈夫か)。
 そう考えると、とてもじゃないがあんなお願いはできない。


「……あの、さっきのストローハットの彼の話は聞かなかったことにしてください」
「どうしてっすか?」
「たった今、彼がそのチームの総長だと、思い出しました……」


 ついさっきまで考えていたことなのに、どうして忘れられるんだ私は。
 そう少し情けなくなり、俯き加減で呟くと、


「わかった」


 門田さんがそう言うのを聞いた。


「ちょっとドタチン、なにも即答しなくたっていいじゃん」
「そうっすよ。女の子の頼みをあっさり断るなんて、門田さんらしくないっす」
「誤解を招くような言い方をするな。だいたい、断るなんて言ってねぇだろ」
「え、でもさっき」


 わかった、って。
 疑問に思って顔を上げると、門田さんが仕方ないとでも言いたげな顔で腕組みをしていた。


「別にダラーズとして目立ってるわけでも、目立ちたいわけでもねえ。ただ、ダラーズがそいつらけしかけたっつーのが本当なのか、それが気になっちまってな。
 その包帯の奴を見つけたら、それを聞き出すついでにあんたの伝言も伝え、」「ようするに、あんたのためじゃないんだからねっていう典型的なツンデレっすね」「ドタチンは本当にツンデレなんだからー」
「お前らは一度殴った方がいいらしいな……」


 冗談だよ、冗談ー。そうっすよ。
 と、二人が弁明しているのを聞きながら、ツンデレかどうかはともかくとして門田さんは優しい人だと改めて思った。


「でも、彼は本当に男の人へ容赦ないので……」
「大丈夫、大丈夫。ドタチン強いから」
「この間の集団暴走事件のときに見た通り、腕っ節はおりがみ付きっすよ」


 どうしてか狩沢さんや遊馬崎さんが胸を張ってそう答えてきた。
 まあ、それほど門田さんを信用していると言うことだろうから、私はそれもいいと思うのだけれど。


「……こいつらの言うことはともかく、こっちが勝手に言ってることなんだ。あんたは気にしなくていい」
「そう、ですか」


 ああ、と頷く門田さんへ、私は結局伝言を頼むことにした。
 それでも願わくば、門田さんたちと遭遇する前に千景を見つけ出して、ダラーズに関しての詳細を私が聞いてから、それを門田さんに伝えるという戦法をとりたい。
 三人へ手を振りながらそう考えて、私はまた歩を進め始めた。



 (というより、親切)



 また少し前へ進めたような気がした。

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