もしも探し出せたなら、
夜 池袋 某アパート前
「指定された室内へ侵入、実行済みです。しかし、人の気配は皆無でした。次なる行動を検討します」
「いないなら仕方ないだろう。今日中の仕事でもないんだ、明日また来ればいい」
「肯定です。情報不足により、現在の居場所推測は不可能」
「君に不可能なら、俺は考えるまでもない。なら、次は子供の方か」
「力、技術、経験、何も持たないターゲットばかり。気が進みません」
「おまけに今留守中の女は昼間の店員ときた。まったく、この街は理解できん……」
「同意です。しかし、依頼に対し理解は不要。仕事の続行を提案します」
「ああ」
♀♂
夜 板橋区某所
「今日は気をつけて帰れよ。駅までは一人になんなよ」
「解ってるって。ろっちー、マジで心配性なんだから」
「じゃーねー」
今日一日池袋を案内してくれた少女達とそんな言葉を交わし、歩道橋を下って行く彼女達を千景は笑顔で見送った。
彼の日々で、これはそれほど変わった風景ではない。一日中少女達を連れて歩き――というより引きずられて歩き、適度に遊んで夜に別れる。
一般的に見れば渋い顔をされそうなものだが、彼自身や周囲の少女達にとってはありふれた一日だった。ということはないのだが。
見送りを終えたと思い、千景が車道を眺めていた時。階段を駆け上がってくるような足音が聞こえてきたので、千景はその方向へと目をやった。
「どうした?ノン」
階段を上り終えたからか、少し息を上げて現れた少女にそう言うと、
「ろっちーさ、もしかして誰か探してる?っていうか、ユウキさん探してない?」
ふぅと息をつきながら、少し呆れたような調子で彼女は言った。
「万引き捕まえた後に掛ってきた電話、絶対ユウキさんでしょ」
「……俺なんか言ったっけ」
「画面見た途端、『ちょっと待ってて!』とか言って、ダッシュしたじゃん」
それだけでどうやって特定したんだ?
そんな顔をしている千景に向かい、彼女は僅かに眉を潜めた。
「すっごい正直に言うけど……まだユウキさんのこと考えてるろっちーが、私はちょっとやだなって思ってる」
だって、ろっちーっぽくないんだもん。
拗ねた口調でそう言った彼女に、千景は苦笑して、だよなあと呟いた。
「らしくねえのは分ってんだけどさ……つーか、多分ノンが思ってるような理由で、俺はあいつのこと探してるわけじゃないよ」
「?未練タラタラで諦められないんじゃないの?」
「うん……その表現は地味に傷つくからやめような」
そう項垂れるような素振りをして、千景は車道の方へと視線を戻した。
「ユウキから見れば単に鬱陶しいだけかもしんねーし、今さら何だって言われるだろうけど……だからって無かったことにはしたくねえんだ」
ノンに話していると言うより独り言に近いものだった。
その様子にもう一度息をついたノンだったが、「しょうがないなぁ、ろっちーは」そう言って少し笑みを浮かべた。
「ユウキさんのバイトしてるお店なら、私知ってるよ」
「……マジ?」
「マジ。入ったことはないけど、そのお店の植木鉢に水やってるのは見たことある」
ホントはこれ言うために戻ってきたんだけどね。
そうノンは苦笑気味に言った。
「確かにひとり占めされるのは嫌だけど、女の子のために必死なろっちーが格好いいんだもん。これぐらいなら協力するよ」
「ノン……」
「それに、ユウキさんのことは私も気になってたし。急に電話もメールもできなくなっちゃったから、見かけても声掛けにくくって」
だから、何か解ったら絶対教えてね。
そう付け加えたノンに、千景は笑顔で「わかった」と頷いた。
(もしも探し出せたなら、)
きっと君には何も言えない。
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