スタンガン×小学生
 その子は10歳になるかならないかという、小学生らしい背格好をした女の子だった。
 平和島さんとトムさん、そして私といういい大人三人が首を傾げているというのに、その子は気にした様子もなく、手元の紙片と平和島さんの顔を交互に見て、ぱあっと無邪気に笑った。

 可愛い。
 いや、この状況でどんな感想だよと言われそうだけど、本当に可愛らしい子なのだ。あんな子をこんなところで一人にしている親の気が知れない。
 と、そんなことを思いつつも、トテトテという音がよく似合う小さな歩幅で歩き出したその女の子が、平和島さんの方を見ながら急にクルクルと回り始めたことへは首を捻るしかなかった。


「……ありゃ静雄の親戚とかか?」
「……いや、心当たりは無いすけど」
「……知り合いに見せる反応じゃなさそうですもんね」
「でも、静雄の服が珍しいから見てたって感じでもねえぞ」
「ですよねぇ。ちょっと出てみます」 


 そう言って、平和島さんは席を立った。


「おいおい、行くのかよ。突然『パパ!』だの『ダーリン!』だの言われたらどうすんだ?」
「あり得ないっすよ。遊馬崎の妄想じゃあるまいし」
「『お兄ちゃん!』の可能性も否定は」「できるに決まってんだろ」


 どうにか流れに乗ろうとよく考えずに発言してしまったせいか、平和島さんにばっさり切り捨てられてしまった。

 そうしてゴミなどをトレイに乗せて、片付けがてら出口へと向かっていくその人と女の子を改めて見比べてみる。
 さっきも言ったけれど、あれは知り合いを見つけたというような笑顔でもないし、きっと手にしているのは写真だろうから平和島さんとの面識もなさそうだ。
 となると、どうしてあの子は平和島さんを見つけて喜んでいるのだろう。


「大丈夫でしょうか、平和島さん」
「あんな子供相手に、大丈夫も何もねえだろう」
「……それはそうなんですけど」
「……一応、見に行くか」


 トムさんの言葉に頷いて、私は自分の分のトレイを持ち、席を立った。
 そうして片付けをして、先に出口の方へ向かっていったトムさんの後を小走りで追いかける。店の外へ出たときには、女の子は平和島さんのすぐ側まで来ていた。
 ……さっきから嫌な感じがするのだけれど、トムさんの言うとおり、あの女の子に平和島さんを“大丈夫”にさせない何かがあるとは思えない。
 だから止めようもなく二人の成り行きを眺めていたのだが――。


            「死んじゃえ」


 女の子がそう言った瞬間に、彼女の手元から出てきたものがその人の腹部に押し当てられた。


「今な」んて、と言う前に、小規模な爆発音がその場に響き、


「あ痛ッ」


 平和島さんの腰辺りで青白い火花のようなものを見てしまった私は、しばらく唖然としてしまった。


「あッ!」


 さすがに払いのけられたその子の手から、四角い機械がガタンと音を立てて地面に落ちる。
 ……あんなもの、私は漫画やテレビでしか見たことがない。
 四角いそれを拾い上げた平和島さんは、不思議そうにそれを見つめている。けれど、火花や爆発音やらを見て聞いてしまった私はだいたい見当がついていた。
 きっと、トムさんも予想付いているに違いない。

 それからスイッチのような部分を押し、そこから火花が出ることを確認した平和島さんが「なんだこりゃ?スタンガン?」そう呟いたのを聞いて、うわー……と思う。
 平和島さんは全く平気のようだけど、こんな女の子がどうしてスタンガンを持っているんだ……。
 周りにこの子の保護者らしき人間を探してみたが、そんなもの見つかるわけがない。その代わりと言っては何だが、こちらを見て警察官の元へ向かっていく人を見つけてしまった。

 今、平和島さんはスタンガンを持ち、その足下には蹲っている女の子がいる。

 ……あー。  


「あの、トムさん。あれ……」


 辺りを見渡し始めた平和島さんを困った表情で見ていたトムさんに、その光景を指さしで伝えると、


「あ、やべ。さっきの強盗逮捕しに来た警官だ」


 そう言って、平和島さんの肩を掴み、走り出した。
 

「あんたもさっさと逃げろよ」


 「……え、ええー?」と首を傾げたままの平和島さんを連れて、トムさんは最後にそう言ったが、この女の子を置いて逃げるのは……って。


「あれ」


 ふと足下を見れば、女の子が姿を消していた。
 どこへ行ったのだろうと視線を彷徨わせて、やっと見つけたかと思えば――――その子は先を行く平和島さんのベルトにしがみついていた。


「ちょ、ちょっとッ!」


 二人とも気付いてない!?
 何だかこれはいろいろとまずいんじゃないかと思い、私も慌てて三人の後を追いかけた。



 (スタンガン×小学生)



 どう見ても異常です。

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