罪悪感か好意
 一年前 二月某日



「うん、まあ、何て言うか。私、進学せずに働くって言ってたでしょ」

『ああ、言ってたな。東京だっけ?』

「そう。だから、もう頻繁に会えないと思うんだ」

『……それは、仕方ない……って意地でも納得する』

「うん。それで、こういう機会だから、千景とお別れしようと思って」

『…………悪い、聞き間違えだと思いたいから、もう一回言ってくれる?』

「千景とお別れしようと思って。ああ、別に誕生日のことじゃないよ。前も言ったけど私もその日、あの街にいなかったしね。親戚の都合で」

『待ったッ、全然話が見えない』

「ごめんね。本当に、ごめん。ただの私の我が侭だから、千景は気にしなくて良いから。また友達からやり直そう」

『友達って、』「しばらく忙しくて電話出られないかもしれないけど気にしないでね、またね」






 ♀♂



 5月2日 早朝




「…………」


 目を覚まして頭上にあったものは、ここ一年間目覚めを共にしている天井だった。
 つまるところいつも通りの起床なのだけれど、気持ちの良い目覚めかと言われれば答えは確実にノーだ。
 元彼を振る夢なんかを見て、気持ちの良い目覚めをする女なんかいるわけがない。
 仮にいたとしてもドのつくサディストかよっぽどその元彼が嫌いだったかのどちらかだろう……いや、本当に嫌いならその夢をみた時点で気分が悪いか。

 私の場合は彼のことを好きなままで振っている。その理由も話さず、自分勝手に別れてしまった。
 かといって過去を振り返ることも出来ずに私は逃げることを選び、付き合っていた頃の記憶を思い出さないようにと全部無かったことにした。
 そんな小芝居めいた会話に最初こそ付き合ってくれていた彼だが、最近少し変わってきたなと思う。あれはきっと、私へ本音をもらしているだろうから。

 それ自体は嬉しいのだけれど、その彼の本音に対して頷けない自分が心底嫌だ。


「……さて」


 一度頭の中を切り替えて、身支度をさっさと済ましてから、朝食を作りにいこう。
 布団の中でいくらぐずぐずしていても、折原さんに絡まれた上にバイトへ遅刻するだけなのだから。



 (これは罪悪感かそれとも)


 
 こうして簡単に割り切れている、つもり

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