では、おやすみなさい
チャットルーム
きゆさんが入室されました
きゆ【こんばんはー】
バキュラ【ばんわーっす】
罪歌【こんばんは】
甘楽【こんばんわー!】
甘楽【っていうか、聞いてくださいよきゆさん!バキュラさんってば酷いんですよぅっ】
田中太郎【こんばんは】
田中太郎【酷いと言うか、いつものことですけどねw】
きゆ【あ、今までのログは見ました】
きゆ【太郎さんの言うとおり、いつも通りのことだから大丈夫ですよ。甘楽さん】
バキュラ【そうそう、大丈夫ですって】
甘楽【そうやってたまに意気投合するのやめてください!】
きゆ【たまにじゃなくて、いつでも意気投合してます】
バキュラ【ここでは主に甘楽さんを叩く方向で】
甘楽【怖ッ!?】
セットンさんが入室されました
セットン【ばんわー……】
田中太郎【あ、こんばんはー】
きゆ【こんばんは】
セットン【私はもう駄目です】
甘楽【こんばんわー☆】
バキュラ【ばわっす】
田中太郎【って、どうしたんですか急に】
罪歌【こんばんは、よろしくおねがいします】
きゆ【……何かありました?】
セットン【ちょっとお金を落としちゃいまして……】
バキュラ【!?】
田中太郎【それは大変ですね……交番には届けられたんですか?】
セットン【いや】
セットン【あ、すいません、届けました、届けてあります】
きゆ【お金ってことは、財布を?】
セットン【財布じゃなくて茶封筒に入ったやつなんですけど……それをぽろっと】
甘楽【へえー。いくらぐらい落したんですか?】
セットン【いえ、ちょっと今月の給料を丸ごと……】
罪歌【だいじょうぶですか】
バキュラ【!?】
きゆ【給料丸ごとってッ】
田中太郎【本当に大変じゃないですか! 大丈夫なんですか?】
セットン【ええ。貯金が割とあるので生活には困らないんですけど、凹んじゃって……】
甘楽【元気出してください!】
甘楽【そうそう、そんなセットンさんに朗報がありますよ!】
セットン【なんですか?】
甘楽【へへーん。『ここ』のアドレスを見て下さい!】
田中太郎【あ、文章にリンク貼れるようになったんですね】
バキュラ【へー】
内緒モード きゆ【って、さっき携帯で見てたのはこれですか……】
内緒モード 甘楽【そうだよ】
罪歌【あの、これって、どういうことですか?】
内緒モード きゆ【セルティさんに賞金って……あの番組が原因なんですか?】
内緒モード 甘楽【らしいね】
内緒モード 甘楽【詳しいことは後で教えてあげるから、ちょっと待って】
内緒モード きゆ【わかりました】
セットン【いや、私にはこんなの無理ですよー。あの黒バイクを捕まえるなんて】
バキュラ【1000万円ですか】
バキュラ【マジ凄くないですか】
罪歌【すいません、わたし、きょうはこれで】
セットン【あ、私もちょっとお風呂入ってきますから、ここで一旦落ちますー】
きゆ【ええと、おやすみなさい】
田中太郎【あ、おやすみなさーい】
甘楽【おやすみなさーい☆】
セットン【おやすー】
罪歌【おやすみなさい、ありがとうございました】
セットンさんが退室されました
罪歌さんが退室されました
バキュラ【おやすみなっせ】
バキュラ【げ、遅かった】
甘楽【じゃあ、私達もそろそろ落ちましょーか?その賞金の話は今度またしましょう】
甘楽【それじゃ、おやすみなさーい☆】
きゆ【おやすみなさい】
田中太郎【お休みなさい】
バキュラ【(>_<)ノシ】
甘楽さんが退室されました
きゆさんが退室されました
田中太郎さんが退室されました
バキュラさんが退室されました
現在 チャットルームには誰もいません
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♀♂
「さっきの生放送をどっかの芸能プロダクションの連中が見てたらしくてさ。
その黒バイクをタレントとしてデビューさせたいから、彼女に賞金までかけて正体を暴こうとしてるらしい」
「……世の中いろんな人がいますね」
自室でチャットに参加していた私は、セルティさんの話を聞くために折原さんの仕事部屋に来ていた。
チャットが終われば寝る気満々でいたので(明日もバイトだから)思いっ切り寝間着にカーディガン姿だけれど、まあ今さらか。
もうこの生活を始めて一年経つのだし、いちいち気にしているのもどうかと思う。
ついでにと淹れた紅茶を折原さんのデスクに置いて、聞いたばかりの情報に息をついた。
「セルティさんからしてみれば、迷惑以外の何物でもないじゃないですか」
「それはそうだろうね。おまけに今日は給料も落としたらしいし」
折原さんはそう言って同情するように嘆息した。けれど、凄くわざとらしい。
「折原さん、ひょっとしなくても楽しんでますか」
「楽しんでるけど、それがどうかした?」
「別になにも」
それこそ今さらか。
パソコンへと視線を戻したその人へ、再確認したように頷く。
少なくとも今回セルティさんがテレビに映ってしまったのは単なる事故だろうし、変に折原さんへつっかかるのはやめておこう。
そんなことを思って小さく欠伸をすると、
「もう寝たら?」
折原さんは私に一瞥もくれることなくそう言った。
「いえ、目が冴えたので手伝える仕事なら手伝いますよ」
「目の前で欠伸しておいて、よくそんなこと言えるね。気遣ってくれてる?」
「かもしれません」
最近あまりこういう手伝いはしていなかったし、人が仕事をしてるって言うのに寝てしまうのも、何だか悪いような気がした。
そう思ってティーカップを載せていたトレイを背中にまわすと、視線はそのままパソコンに向けて、折原さんが小さく笑う。
「そう言ってくれるのは嬉しいけど、これ仕事じゃないから。先に寝ていいよ」
「……そうですか」
手伝いはいらないってことか。
そう思ってあっさりと頷き、トレイを定位置に戻してから部屋の扉へと向かった。
「あのさ、ユウキ」
「はい」
不意に呼びとめられて振り向くと、頬杖をついている折原さんと目があった。
「君って欲しいものある?」
特に面白くもなさそうに聞かれて、思わず首を捻る。
今度はまた何なんだろう。あまり悩んでも仕方がないので、少し考えてからふと思いついたものを口にした。
「部屋の鍵が欲しいです」
「ああ、それは叶えてあげられそうにないねえ」
「そう言われると思ってました」
一年経っても、私の部屋に内側からかけられる鍵がつくことはなかった。
まあ、折原さんの家だから文句は言えないのだけれど、用心のためと思って扉の前に家具を置くことはずっと続けている。
何がどうなってどういうことになってしまうか、分かったものではないし。
「他にはないの?」
急かすような口調で言われ、また少し悩んでから、
「すぐには思いつきません」
曖昧な返事をした。
「物欲がないねえ、ユウキは」
「そういうわけでもありませんけど、何かあるんですか」
「いや、ただ興味本位で聞いただけ。近々そういうイベントごとがあるわけでもないし、君の誕生日はもう2か月も過ぎてるしね。祝ってほしかった?」
意地悪げにニヤニヤと笑っている折原さんに早々背を向け、
「やめてください」
そう言い放って、静かにドアノブへ手をかけた。
(では、おやすみなさい)
いらない。
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