今日も順調に妨害中


 これは折原さんに聞いても仕方のないことだ。
 意味がないというよりは、悪い方向へ作用してしまうような気がする。
 でも、折原さん以外の誰にこんなことを尋ねればいいんだろう。
 あの人に関することなら、折原さんが一番知っていそうだし……でも、聞けば確実に変な勘ぐりをされてしまうだろうし。
 直接本人に聞くことができたらいいんだけど、それができれば苦労して「天井に何かいる?」……してないんだけど……なあ。

 午後9時を越えた頃。
 ソファでぼんやりと考え事をしていたら、そんな風に折原さんから声をかけられた。
 数分前までデスクの方にいたはずのこの人が、どうして今私の真横に腰掛けているのだろう。
 考え事に没頭して注意をそらしていたのは確かだけれど、真横に来られるまで気付かないなんてぼんやりが過ぎている。
 

「何もいませんけど」


 そう単調に答えると、顔を覗き込むようにしたいたその人は「へえ」と言って意地悪気に笑った。
 

「じゃあ、何を考えていたのかな」
「明日の夕食です」
「それにしては、呆けすぎじゃない?」
「……そういうときもありますよ」


 考えていたことが考えていたことだったので、折原さんから目を離し素っ気なく答える。 
 
 昼間に引き続き、私はずっと平和島さんのことを考えていた。
 いっそ真正面から聞こうと何度携帯に手を伸ばしたか知れないが、今のところ全て未遂で終わっている。
 どうやら私の『思い切り』は仕事をしたくないらしい。単純に言ってしまえば、度胸がないだけなのだけれど。

 これだけ悩んで平和島さん自身があの言葉を忘れているなんてことは、あって欲しいような欲しくないような……。
 そう考えて小さく息をつくと、
 
 
「その顔、苛つくからやめてくれない?」
「そんなこと言われても」もとからこういう顔なんですけど。

 
 そう言いきる前に右頬をつねられて、変な声が出た。

 一見穏やかに見える笑顔で、ギリギリと頬を引っ張られる。
 最近の折原さんからのスキンシップ(か?)は痛みを伴うものが多い。
 これ地味に痛いなと冷静に考えつつ、舌足らずに痛いと伝えてやっと離してもらえた。
 

「……そんなに間抜けな顔をしてましたか」


 頬を押さえながらそう言うと、その人は皮肉のように微笑を浮かべた。


「さっきから、っていうか、ここ何日かたまに馬鹿みたいな顔してるよ」
「馬鹿って……」
「そんな顔してまで何考えてるのか、教えてくれない?」
「折原さんが面白がるようなことじゃありませんから」


 心持ち折原さんのいる場所から逆方向へと座る位置を移動させると、


「じゃあ、不快なことかな」


 軽い口調でそう言われ、すぐに間を詰められる。
 

「いや、あの、もの凄くつまらないことなので」
「丁度暇だから、それぐらい聞いてあげるよ」
「明日の昼食について考えてました」
「君って平然と嘘つくよね」
「ついてません」
「じゃあ、俺の目を見て言ってみようか」


 声色だけは朗らかな言葉に、分かりやすくぎくりとしてさらに目線を逸らせてしまった。 
 前はもう少しうまく嘘がつけたのに、こんなの誰でも見抜けてしまう。雰囲気以上に行動が分かりやすい。
 バツの悪さとこれからどうしようかという理由で口を噤むと、折原さんが息をついた。


「まさか、シズちゃん関係?」「どうしてわかったんですか」「……え?」「えって……え」


 何故か虚を突かれたような顔をしている折原さんに私も首を傾げ、ハッとした。
 これ以上誤魔化しても無駄だと思い込んだせいで素直に答えてしまったけれど、今のって――――。
 

「本当にシズちゃん関係なんだ?」


 半笑いで苦々しくそう言う折原さんを見ている限り、単なる当てずっぽだったらしい。    
 もうこれ本当の意味で誤魔化しきかないんじゃ……。そうして黙っていられたのもつかの間。
 再度私の顔をのぞきこみながら「何かあった?」と言ったその人の目は、笑っていなかった。


「勝手に憶測していいなら黙っててもいいけどさ、嫌なら教えてくれる?」


 その一言が決定打で、以前平和島さんの言った言葉が気になっていると、少し詰まりながらも白状した。
 折原さんに妙な憶測をされては余計な誤解を生みそうだし、その言葉自体をこの人は盗み聞きしていたようだから問題はない……こともないか。
 どんな反応が返ってくるものかと内心恐々としていたが、その人はやけにあっさりとした口調で、


「そんなの、セルティたちの顔を見たいっていうのと同レベルだよ」

   
 もっともセルティ自身に顔はないけどね。と、軽口が交えられたものを返された。


「もしかして、自分だからそう言われたなんて思ってる?だとしたらそれはちょっと自意識過剰なんじゃないかな。
 こう言えばこう思われるなんて配慮をシズちゃんがしそうにないことぐらい、気付いてもいいと思うけどねえ」
「…………」


 そんなに、冷静な分析をしないでくださいっ。

 顔を伏せながら何とも言えない恥ずかしさを覚させられた。
 自意識過剰だと人から指摘されるのが、こんなに恥ずかしいなんて……しかも相手、折原さん。
 いや、自意識過剰だなんて他人に言える人は凄く限られているんだけど……とりあえず、今すぐ部屋に戻ってベッドにダイブしたいっ

 
「でもまあ、勘違いしても仕方ないかもね」


 そう言った折原さんの笑顔が妙に優しげで、なおさらそんな衝動に駆られた。




 (今日も順調に妨害中)



 
 捻て 嘘吐き→馬鹿に 正直?

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あきゅろす。
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