飛び蹴りに憧れ
「覚えてろよ!そこのバンダナ!」
そうまるで絵にかいたような捨て台詞を吐き、
クルリちゃんとマイルちゃんに蹴られ蹴飛ばされ、さらに止めに入ってきてくれた門田さんや狩沢さん、遊馬崎さんからチンピラたちは逃げ出して行った。
いきなり現れた門田さんたちにも十分驚いたけれど、さすが折原さんの妹さんというかなんというか、
もしかすると私はいらぬお節介を焼いてしまったんじゃないかと思えるようなスムーズさで反撃をしたふたりにも驚いた。
特にマイルちゃんの飛び蹴りは何か格闘技でも習っているような綺麗な蹴りだった。少し、憧れる。
「店員さんッ大丈夫?」
その憧れの蹴りを入れたマイルちゃんに顔を覗きこまれて、
「え、あ、全然大丈夫」少し慌てて返事をし、
「というより、私はむしろ邪魔をしてしまったんじゃ、」
「そんなことないよ!」「肯(ありません)」
「……そうかな」
なぜか力強く否定されて、マイルちゃんに至っては両手を握られた。あまりされ慣れないスキンシップであるため、少し反応に困る。
と、ここで私達の会話に区切りがつくのを待っていたようなタイミングで門田さんが口を開いた。
「おい、通報されてっとヤバイし、本当に仲間呼ばれても面倒だから逃げるぞ」
「あれ?」
そう何かに気付いたような声を上げたマイルちゃんは、がっちりと私の手を握ったまま首を傾げた。
「ええーっと……」
「門田だ。お前ら、臨也の妹だろ?」
「ええッ!?イザ兄の知り合い!?……あ、そういえば一回だけ会ったかも!」
「謝(ありがとう)……、御(ございました)……」
「あの、私も助けていただいて、ありがとうございました」
この流れで言わないとタイミングを逃しそうだったため、少し頭を下げてそう言うと、
「いや、いいさ。俺らこそ余計な真似したかもしれねえからな……」
門田さんはそこまで言ってから、何か思いだしたように「でもな」と付け加えた。
それまでマイルちゃんやクルリちゃんに向いていた視線がこちらに向けられて、なんだろうと言葉を待つ。
「あんたはああいうのに突っ掛かるな。口先だけでどうこうできる連中じゃねえんだから」
こいつらみてえに反撃もできねえだろ。
と、自分の考えなしの行動を見透かされてしまって、いたたまれない気分になった。
「すみません……」
「……俺に謝られてもな。まあ、こいつらを助けようってのは悪いことじゃねえからよ」
「あ、ドタチンがユウキちゃんを口説いてる」
「マジっすか」
「お前らいい加減にしろよ。……とりあえず、どっか行くんだったら、ツレに車まわさせっけど、どうする?」
「わあ、いいの!?」
「ま、北海道まで行けとか言われても無理だけどな」
そう苦笑しながら言う門田さんに、マイルちゃんはやっと私の手を離してぶんぶんと振った。
「えっとねー!私達、今日は一日池袋でブラブラする予定なの!知り合いから連絡が入る筈なんだけど、いつ、どこに行かなきゃいけないかは電話が来るまでわかんないの!」
「……なんだそりゃ?」
マイルちゃんの言葉へ門田さんと同じように疑問符を浮かべる。
誰かと待ち合わせをしているということだろうか?
「……まあいいや。後ろの二人が今日はお前らんとこの学生と池袋巡りらしいからよ、それにくっついてりゃいいんじゃねえか?なあ?」
「んー。別に問題無いんじゃないかな」
「問題無いっすよー。その子達、どことなく二次元キャラっぽいし」
「黙れ。それで、あんたは?」
急に話を振られて、
「私は目的地がすぐそこなので、お構いなく」
そう辞退させてもらった。
「えー、店員さんも途中まで一緒にいこうよ!」
「でも、仕事の買い出し中だから」
「あーそっかー……じゃあ、後でお店行くから待っててね!」
「必(絶対)」
ふたりからそんなことを言われてしまって、なんだか照れた。
正直なところ、どうしてふたりがこんなに私を慕ってくれるのかはよく分からない。でも嬉しいことに変わりはないから、まあいいかと頷いた。
「え?ユウキちゃんの働いてるお店ってどこ?」
パッと興味ありげな顔をした狩沢さんに店の名前と場所を教えると、何故かその人は目を輝かせて、
「ユウキちゃん、ウエイトレスやってるの!?」
「やって、ます」
「それは見に行くしかないね!」
断言された。
いや、でも、別に狩沢さんが思っているような格好ではないと思うんだけど……スカートですらないし。
ちなみに、今は制服が汚れると嫌なので普段着でいたのでそのことには気づかれなかった。
まあ、お客さんが増えるのはいいことなので訪問目的は問題としないことにし、一旦門田さんたちと別れて目的地である買い出し先へと向かうことにした。
(何か格闘技でも、習っておけばよかった)
それを追う影がちらほらと――
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