対優良宣言
久々に心行くまで眠ることのできた私は、いつもよりも早い時間帯に目が覚めた。
昨日早く寝ることができたからだろう。そう考えてと頷き、身支度も早々に朝食を作るのため台所へと向かう。
すると、その途中でデスクに頬づえをつきながらげんなりとしている折原さん見つけた。
……かなりレアな表情だ。
「おはようございます」
そんな折原さんの様子に妙だとは感じたけれど、とりあえずいつもと同じように挨拶をする。
「……ああ、おはよう」
すると、折原さんは言って溜息をついた。
折原さんがここまで分かりやすく疲れているなんて珍しい、私が呑気に寝ている間に何かあったのだろうか。
いや、なければこんな様子でいるわけがない。やっぱり昨晩やっていたのは仕事のひとつで、まだ寝ていないとか。
……でも、それにしては昨日と違う服装だし、貫徹をしたような雰囲気でもない。
「あの、なんだかすごく疲れたような顔してますよ。折原さん」
悩んでいても仕方がないので、正面から聞いてみることにした。
「もしかして、寝てないんですか」
「……いや、寝たことは寝たよ」
「じゃあ、眠りが浅かったとか」
「ああ、それが一番近いかもね」
そう言うと回転椅子を軽く一周させて、視線を合わせようとはせずに言葉をつづけた。
「昨日ユウキが寝た後に面倒なことがあってさ、その影響か変に現実味のある嫌な夢を見てねえ」
「はあ、夢」
「なんかユウキが死んじゃってさ」
「勝手に殺さないでください」
「いや、半分冗談だよ」
「……半分って」
半分でも勝手に夢の中で殺さないでほしい。
というか、そもそも半分ってどういうことだろう。
よく分からず首を傾げていると、
「……ああ、うん、わかった」
折原さんがひとりで納得したように頷いた。
その表情はいかにも渋々といった調子だったが、私にはまったく話が見えない。
頭上にクエスチョンマークを浮かべて立ちつくしていると、不意に折原さんが視線を合わせて、
「今日から少しだけ君に優しくしてあげよう」
「………………折原さん、そんなに疲れてるんですか。コーヒー淹れてきましょうか」
「優しくするって言った直後に言うのも何だけど、怒るよ?」
朗らかな顔でそう言われ、私は凄く対応に困った。
優しくするって宣言されても……何て答えればいいんだろう。
そして、折原さんがどんな夢を見たのか凄く気になった。私が半分死ぬ夢?半殺しの目に遭う夢?それを見て、どうして優しくしようという気になったのか……。
「まあ、私にとっては嬉しいことですけど」
「ならいいじゃん」
「具体的に、どういう夢だったんですか」
「さあ?ああ、それで話は変わるんだけど、君の店によく来る変な双子は俺の妹だから」
「……随分話が飛びましたね」
そんなに言いたくないなら、最初から夢を見たなんて言わなければいいのに。
「やけに反応が薄いけど、もしかして知ってた?」
「知っていたと言うか、なんとなくぽいなと。妹さんがいることは、波江さんから聞いてましたし」
「……波江って本当に口軽いね」
「どう見ても固いですよ」
「自分に害がないと思ったら、何でも喋るよ。彼女は」
困ったものだとでも言いたげに息をついた折原さんだが、情報屋をしている人がいう言葉ではないと思う。
今日からどういう加減で折原さんが優しくしてくれるのかは正直不安が隠せないけれど、
「とりあえず、朝食作ります」
「うん、よろしく」
(対優良宣言、ただし長続きはしない)
ずっと前に君が見ていた夢と、似た感じのだよ。
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