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長編3 黒バス×TOL
第2話

合宿所の大部屋でステラを寝かせ、黒子は傍でずっと手を握っていた。

雰囲気は確かに恋愛より家族愛に近いので黒子の家族という言葉は間違ってはいないのだろう。

暫く沈黙が続いたが、赤司が口を開く。

「黒子、先ほどの力は一体?」

「力ですか…あれはテルクェスというものです。始まりの翼という意味があるんです」

黒子の言葉に全員首を傾げる。

そんな言葉聞いたことがない。

そんな反応は黒子の予想通りなので、やはり順を追って話すべきだと考える。

「皆さんが聞いたことのないのは当たり前です。……だって…この世界の言葉ではありませんから」


「「はい!?」」

この世界?
えっどういうこと…そんなこと有り得ないと言いたいが、黒子の言葉を否定するときっと黒子は口を閉ざしてしまう。

何て返事を返せば良いのかわからず、微妙な空気のなかすぐに立ち直ったのは洛山の幻の六人目、黛 千尋だ。

「つまり旧型はこの世界の人間じゃなく異世界の人間って訳か?随分面白い展開だな」

「…黛さん…よくそんなことをすぐに信じられるね」

黛の言葉に呆れたのは葉山だ。

「ありとあらゆるラノベを愛読しているからな。そんな展開のラノベも実際あるしな…それに旧型は嘘を言っている眼じゃないだろ?」

ミスディレクションを使う洛山の影は黒子同様に人間観察が得意だ。

だからこそ黒子が嘘や冗談を言っていないと思ったのだ。

まぁラノベ展開みたいで面白そうという理由もあるが。

観察眼が鋭いのは黛だけではないが、やはりあまりに突拍子のない言葉に黛のようにすぐに言葉を返すことが出来なかった。

だが黛の言葉に全員はっとした。

そうだ、黒子が自分たちに嘘をつくはずがない。

こんな信じて貰えるかわからない話…黒子だって話すのは不安だったはずだが自分たちを信じて話してくれているのだ。

なら自分たちは黒子の話にきちんと向き合おう。

「なぁなぁ…じゃあさ…テッちゃんが生まれた世界について教えてよ」

少ししんみりした空気を変える為に高尾が明るい口調で問いかける。

その高尾の言葉に確かに空気が変わり黒子はクスリと笑った。

「僕のいた世界は2つの種族が共存している世界でした。陸の民、水の民と呼ばれてます」

「2つの種族?違いは何かあるのか?」


「見た目はそんなに違いはありません。…そうですね…陸の民は皆さんと同じような存在です。大地でしか生きられない人々…」

「なら黒子、その水の民というのは大地がなくても生きられるということだね?」

黒子の説明に赤司が確信を持ちながら聞き返す。

その言葉に黒子は傾く。

「水の民は海から生まれた人間…陸の民と違うのは水中でも呼吸が出来ること…あとは全員が金色の髪に青の瞳を持つこと…テルクェスという力を全員が持っていること、水中では髪が光輝くこと、ファミリーネームを持たずに誠名というもう1つの名前を持つことです」

一気に説明されたがとりあえず全員気になったことを1つずつ聞くことにした。

「黒子君の向こうの世界の名前は?」

「アーリア。アーリア・ウェルリアンです」

まずリコが黒子の本名を聞く。

「黒子っちってその水の民?について詳しいならやっぱり水の民ッスか?あれ…でも髪色…」

「はい、黄瀬君。僕は水の民です。髪の色は…僕がメルヴィオという水の民にとって特別な存在だからです。…メルヴィオという存在についてはまた後で説明しますね」

黄瀬の疑問にもわかりやすく答える。

「てか水中で呼吸出来るってすげぇな…テツ…」

「はい、だから水の民のプロポーズは少し変わっているんですよ。まず自分より泳ぎの下手な人は相手にされません。水の民のプロポーズは水舞の儀式といって先に女性が水に飛び込み、後から飛び込んだ男性が女性を抱きしめ、その時に水が輝くと2人は永遠に結ばれると言います。飛び込む順番はどちらが先でも良いんですけど」

「水中で抱きしめて誓いをするなんて…」

「すっごい!あこがれる〜」

「「ロマンチックよね!(だわ!)」」


水舞の儀式に実淵と桃井は少しトキメいている。

「黒ちん〜テルクェスってなに?」

「テルクェスは水の民がみんな持っている力です。まぁ魔法みたいな力で、色も形も能力も1人1人違いますが、みんな蝶々のような形をしています。ちなみにこれが僕のテルクェスです」

黒子はそう言って水色の光輝く蝶々みたいなものを出す。

そしてもう話してしまったのでとついでに兄のように慕う木吉の傍にいきテルクェスを膝に翳す。

そしてテルクェスが消えると木吉は驚いたように突然大部屋を全力ダッシュする。

「おいダアホ!なに膝に負担掛けてるんだ!」

日向が怒鳴るが木吉は黒子の傍に戻り呟く。

「…痛くないんだ…膝にあった違和感もなくなっている。怪我をする前の状態だ…」

木吉の言葉に全員が驚く。

木吉の膝が限界なのはここにいる誰もが知っている。

この合宿が終わればアメリカに手術受けにいくほどに。

「僕のテルクェスは癒やしの力があります。水の民のなかで僕は強い力を持っているので…すみません木吉先輩、僕にはすぐに先輩を治す力があったのに…」

こんな力を持っているのがバレたら化け物扱いされそうで怖かった。

そんな黒子の心情を理解したのか木吉は笑いながら、「ありがとな」とお礼を言う。

「木吉さんの膝を治すなんて凄い力なんだねテルクェスって…黒子、誠名って何だい?確かウェルリアンだったけ?」

「誠名とは水の民の本質を表すもう1つの名前です。僕の世界の古刻語という古い言葉できちんと意味があります。水の民は産まれたら里長から誠名を授かるんです」

「じゃあ、黒子のその名前にも意味があるんだね…教えて貰って構わないかい?」

「僕の誠名はウェルリアン…意味は『希望の絆』です」

その言葉を聞いて黒子の誠名はその人の本質を表すもう1つの名前という言葉を思い出す。

かつて己のもつ強すぎる才能に押しつぶされ、互いに別々の道を進むことで決別したキセキの世代。

だれもが絶望しきったなかで立ち上がったキセキの世代の影は確かに希望。

そしてこの約一年を通して、黒子はキセキの世代の絆を結びなおした。

何度でも何度でも立ち上がる黒子の姿に影響を受けたのはキセキの世代獲得校の先輩や監督たちもだ。

希望の絆…まさしく黒子に相応しい誠名だとおもった。

「素敵な名前だね…黒子…お前がいたから俺たちは再び絆で結ばれた。ただの中学自体のチームメイトてしてではなく…俺たちは一生ぶんの友人を得たんだ。それもお前が結んだ絆だよ」

赤司の言葉に黒子は涙が溢れそうだった。

自分は赤司が言うような大層なことはしていない…ただ昔のように皆に笑ってほしかった。

僕という存在を認めて欲しかった。

黒子にとって前の世界は亡くなった両親と家族のような幼なじみ以外、自分個人を見てくれる人はいなかった。

創我の半身であり、メルネスを導くメルヴィオという存在。

だからこの世界に来て不安はあったが、自分を本当の息子のように接してくれる両親が大好きだし、荻原君に出会いバスケに出会い、中学では彼らと出会うことが出来た。

僕の存在を認めてくれる彼らは、かつての幼なじみを思い出し、だからこそキセキの世代が崩壊した時は辛くてたまらなかった。

荻原君の想いもあるが、やはり彼らにもう1度自分をみとめさせる…そのことを胸に秘めて立ち上がったのだ。

高校で初めて火神君に出会った時は、火神君を利用しようとまでした。

だけど途中からは本当の相棒になり、チームの結束力が強くなり、黒子は誠凛というチームで日本一になりたいと願うようになったのだ。

黒子は一通りの質問を答えたが黛が口を挟む。

「まだ肝心なことはなしてないだろ?旧型…いや黒子テツヤ…お前は何故この世界に来た?」

黛の言葉に黒子はやはり聞かれるかと思い改めて自分の世界について説明する。

「先ほど僕は2つの種族は共存しているなんて言いましたが…あれは嘘です。ただ同じ世界に生きているだけ……陸の民は水の民のことを道具としか思っていませんし、水の民は長い長い4000年という虐げられてきた歴史は憎しみに繋がります」

普段無表情な黒子もその話をするときは表情が強張っていた。

「どの世界でも同じなんです。人は自分と違う存在を差別して受け入れることはありません。陸の民は水の民が恐ろしかった…だから利用するか殺すかそれだけだった。水の民達は大陸で各自、里を作り結界をして生活していたが最近は結界をしていても、ほんの僅かな綻びから各地の里は襲われている」

黒子が5歳の時も里は陸の民に襲撃され両親は命を落とす。

その時の黒子はまだテルクェスの力に目覚めてなかった。

「この世界に来るきっかけになったのは僕が10歳の時です。僕と僕の義理姉であるシャーリィを狙って襲撃してきました。里は赤い火に包まれ、僕は囮になり他の4人を先に逃がしました。その時は僕が狙いだと知らなかったからです、僕のメルヴィオという存在は水の民にしか知られていなかったから…でも知られていた…僕を捕まえにきたのはクルザントいう王国の王子です。その将軍に部下である女将軍の報告で幼なじみ三人は無事に逃げたが、もう1人ステラは捕まったことを知り、僕まで捕まる訳にはいかないと思い不安定な心のままでまだきちんと制御も出来ていないテルクェスを使い、この世界にやってきました」

僕の話は以上です。と黒子が言うと紫原が首を傾げる。

「そもそも何で黒ちんやその家族がそんなに必要に狙われるの?黒ちんのいう水の民だからだけじゃ説明つかないと思うけどさぁ」

「さすが紫原君は感が良いですね。そうです、僕たち4人は普通の水の民とは違います。ステラは従来の水の民より強い力を持ってますし、ステラの妹シャーリィは水の民の希望『メルネス』と呼ばれる存在で僕は水の民の導きの星『メルヴィオ』という存在です。もう1人の幼なじみはメルネス、メルヴィオを守る親衛隊長です。メルヴィオと特に強き力を持ち水の民を導く存在、メルネスはメルヴィオを支える存在、しかしメルヴィオが誕生しなければメルヴィオの役割は全てメルネスに受け継がれるんだ」

黒子の説明を完璧に理解したのは赤司と黛ぐらいだろう。

他の連中は黒子は向こうの世界では特別な存在で、命も狙われているということだけ理解した。

静寂が空気を支配するなか「うっ…」という声が聞こえ、全員が視線を向けるとステラが目をうっすらあけていた。

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あきゅろす。
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