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長編3 黒バス×TOL
第1話

あのWCの激戦から約1ヶ月と少しの時が経ち、季節は2月になった。

つい少し前の1月31日は黒子の誕生日があり、一度はお互いに背を向けた黒子にとっての大切なキセキの世代と呼ばれる友人たちとストバスをしたり誕生会をしたりと黒子にとって一生の思い出となる幸せな出来事だった。

『…楽しかったですね…みんな、昔みたいに楽しくバスケをして…今の仲間とかつての仲間に誕生日をお祝いされるなんて、本当に最高のプレゼントです』

最高のプレゼント、幸せな思い出の誕生日。

思い出すだけで、普段無表情な黒子も笑みを浮かべる。

『幸せな誕生日会…そういえば彼らと過ごした誕生日会も、あんな感じで賑やかでしたね…』

黒子は自室のベッド上で物思いにふけながら、立ち上がり部屋の押し入れの奥に閉まってあるものを取り出す。

黒子が取り出したのは小柄なサイズの服で青と白を基準にした、見慣れない民族服。

「…ステラ…セネル…シャーリィ…ワルター…みんな元気でしょうか?」

黒子にとって今のチームメイトやかつての仲間のキセキの世代と同じぐらい大切な家族のような存在を思い出す。

自分の誕生日を精一杯祝おうとしてくれた4人、狭い里での日々だったがずっと続くと思われていたが、ある日その幸せはあっけなく崩れた。

燃え盛る里。

必死に逃げ惑い、切り殺される同胞たち。

自分が囮になるといった時に、そんなことは出来ないと泣き叫ぶ4人の姿。

あのあと4人がどうなったのか黒子にはわからない。

無事に里から逃げられたか…もしくは非道な陸の民に捕まったのか…。

黒子は今いるこの世界が大好きだ。

しかし幸せだと感じる度に罪悪感も募る。

あれから六年…力は既に回復して、向こうの世界に戻ろうと思えばいつでも戻ることが出来たのに、この世界で出会った人々との別れが嫌で…離れたくなくて…ずっと考えないようにしていた。

でも自分がいなくなれば水の民を命運を背負うのは、姉のように慕うメルネスたるシャーリィだ。

あんなに心優しい子に水の民の命運を託している。

水の民を導くのは本来なら自分の役割なのに自分は不可抗力とはいえ逃げて…今も逃げ続けている。

『楽しい思い出も沢山あったはずなのに……みんなのことを思い出すと胸が痛くなる…止めよう。今はとりあえずこの世界で黒子テツヤとして生きる未来のことだけを考えよう。明日からは合同合宿ですし、そろそろ寝ますか』

黒子は持っていた民族服を再び奥にしまい就寝することにした。

合宿日当日。

今回の合宿の目的はレベルアップも1つだが、WCまで共に戦った三年生との最後の思い出作りもかねているので、参加しているのは新設部で少数の誠凛バスケ部とそれぞれの学校のスタメンのみの参加になった。

場所は東京郊外にある赤司家所有の合宿所で同じ東京である誠凛、秀徳、桐皇の三校は同じバスで移動し、海常、陽泉、洛山はそれぞれの移動手段で合宿所に向かう。

バスで移動し始めて最初の頃は誰が黒子の隣に座るのかと揉めていた(主に青峰と火神)だが、2人が揉めている間に緑間が「今日のラッキアイテムは水色の髪の友人なのだよ」とちゃっかり隣をキープした。

勿論、黒子の元相棒と現相棒は不満そうだが、黒子本人に「うるさいです、静かにしてください」と言われ大人しく適当に座った。

「相変わらず騒がしい奴らなのだよ。しかし黒子、お前隈が出来ている…きちんと眠れていないのか?」

体調管理も人事を尽くすことに繋がるのだと文句言いつつも、緑間は黒子を心配そうに見つめる。

その視線に黒子は傾く。

「少し読みかけの小説がありまして、つい…夜更かしをしてしまいました」

勿論、それは黒子の嘘だ。

昨晩就寝前にかつての世界の家族同然の友人たちを思い出し脳内が働いたせいなのか夢の中で、この世界に来るきっかけになった襲撃事件を観てしまい、それから眠れなかったのだ。

緑間も黒子が何となくごまかしているような気がしたが、問い詰めたところで話題をそらされるに決まっている。

赤司がいれば黒子も中学時代に染み付いた赤司様の言葉に話すかもしれないが、今このバスに赤司はいない。

なら緑間に出来ることは1つだけだ。

「合宿所到着までまだ一時間弱ある。少し眠れ…着いたら起こしてやる」

「…はい…ありがとうございます…」

やはり寝不足なのか黒子は緑間の言葉にすぐにすーすーと寝息をたて始めた。

「ちょっと真ちゃんいつものツンはどこいったの!って笑いたいところだけどマジでテッちゃん顔色悪いね…」

「うるさいのだよ高尾…黒子が起きる」


緑間、黒子の後ろの席にいた高尾がいつものツンがなくなった緑間を茶化そうとしたが、やはり黒子の顔色が悪かった為に、苦笑いしか出来なかった。

その頃、黒子は不思議な夢を見た。

成長したであろうステラやシャーリィが何かの機械に繋がれて苦しんでいた。

夢の中で何度も止めてください!と叫ぶが声は届かなくて…また場面が変わり、衰弱して倒れているステラをセネルやシャーリィやワルターと見知らぬ人たち、恐らく陸の民が必死に名前を呼んでいた。

夢だと認識はあるのに、まるで自分もそこにいるかのような感覚。

でも誰も自分を認識していないから、自分は幽霊みたいなものなんだろうと考える。

「お姉ちゃん!お姉ちゃん!」

「しっかりしろ!ステラ!お前まで俺たちの前からいなくなるのか!?アーリアみたいに…」

シャーリィとワルターの必死な呼びかけ。

アーリア…かつての自分の名前…そうか…彼らはまだ自分のことを覚えてくれていたのか。

「ステラ!俺、お前に水舞の儀式申し込むつもりだったんだ!だから逝くな!ステラ!!」

セネルの言葉に他の人も必死に声をかける。

夢のはずなのに…まるで現実…もしかして向こうの世界の現実なのか…こるは?

黒子は無意識に既に虫の息のステラの傍にいき、両手をかざし水色のテルクェスを出す。

黒子のテルクェス…強い癒やしと時を操る力を持つ力…。

自分の姿を見えないはずなのにステラの傍にいたセネル、シャーリィ、ワルターははっとする。

「この波動は…」

「見えないけど…この優しいテルクェスの波動は…アーリアのものだよ…」

「…アーリアが力を貸してくれている?」

その言葉を聞きながらステラの顔色が良くなったことを確認した黒子の意識はそこで途切れた。

だから気がつかなかった。

黒子の力によって命が助かったステラの身体が黒子の力に引き寄せられるように、その場から消えたことを。

「……テラ…」

「黒子、黒子起きるのだよ」

黒子が目を覚ますと緑間や火神や青峰が心配そうに自分の顔を見ていた。

「…?どうかしたんですか?」

「どうかしたじゃねぇよ。テツ、お前凄い魘されていたぜ」


「てゆかさっきより顔色が悪いじゃねえか!」

青峰や火神の言葉に黒子は一瞬首を傾げるが、夢の中で久しぶりにテルクェスを使ったから?と納得した。

「すみません、心配をかけてしまいました」

「もう合宿所に着いたが、お前の顔色はあまりに悪いのだよ。赤司には俺から言うから今日は見学するのだよ」

緑間の言葉にせっかくの楽しみにしていた合宿の1日目が見学だけなんて嫌だと思ったが、反論しようとすると監督であるリコが笑顔で「もしどうしても練習するっていうなら明日のメニュー…赤司くんと合同で考えて黒子くん専用の鬼メニューこなして貰うけど…」

「大人しく今日は見学しておきます」

赤司と監督が合同で考えたメニューなんて、考えただけでも恐ろしい。

とりあえず今日は見学のみということを黒子が了承したので全員バスから降りた。

「黒子っちぃぃ!!」

バスから降りた黒子を見ると黄瀬が真っ先に黒子に飛びつこうとしたので、後ろにいた笠松が思いっきり跳び蹴りを食らわせて沈めさせる。

「お前、毎回毎回黒子に会う度にウザイんだよ!!それに黒子の顔色を見ろ?…黒子…体調でも崩しているのか?」

笠松の言葉に黒子は「ただの寝不足です」と答えるが、寝不足だけでは説明出来ない顔色の悪さだ。

「黒ちん、そんな嘘、通用すると思ってんの〜?」

「そうだ、黒子…俺たちがお前の変化に気がつかない訳がないだろ」

気がついたら先に合宿所に着いていた陽泉の紫原に洛山の赤司も近づいてきたので、黒子の周りにはキセキの世代大集合だ。

自分のことを心配してくれる彼らに黒子は場違いにも嬉しく思った。

その時に海常高校三年の森山が「女の子の気配がする」と言いながら走っていき、海常メンバーはまたか…とため息をついたが、走っていった森山が慌てて戻ってきた。

「大変だ!向こうに女の子が倒れている!!」

その言葉に全員驚き、森山の案内のもとに向かうと自分たちと同じ年ぐらいの女の子が倒れていた。

青と白を基準とした独特な民族服を身につける女性に全員不思議に思うが…1人だけ反応が違った。

「……ステラ……」


そう呟いたのは黒子だった。

静寂だったので黒子の呟きは全員に聞こえる。

「黒子…彼女のことを知ってるのか?」


赤司の問いかけに黒子は震えながら傾く。

「…僕の…僕の大切な家族です…」

「「!?」」

黒子の言葉に同然全員が驚くが、黒子は周りの反応など関係なしにステラの傍に行き抱き起こす。

辛うじて息はしていたが衰弱が激しい。

黒子は少し考え、それから共に戦った仲間、ライバル達を見て1つの決意をする。

「…僕は…ずっと皆さんに言えないことがありました…でも…僕は皆さんが大好きです…きっと皆さんなら…」

本当の僕を見ても変わらず接してくれるはずだ。

そう信じて黒子は抱きかかえているステラを横にして、両手を翳す。

「癒やしのテルクェスよ…力を…ステラを助ける力を…」

黒子は意識を集中させると黒子の手からは光輝く水色の蝶々のような光が、ステラに注がれる。

「…綺麗…」

そう呟いたのは誰だろうか?

そして光が収まる頃には黒子がステラと呼んでいた女性の顔色は頬に赤みも増して呼吸も落ち着いていた。

「…良かった…ステラ…」

黒子はそう言って立ち上がり、何か言いたそうな仲間を見ながら頭を下げる。

「すみません、今はまだ話せません。まずは彼女をステラを休ませてあげたいんです。それからきちんとお話します…僕のことも…彼女のことも…力のことも…」

黒子の言葉にとりあえず全員傾き、一番体格の良い紫原がステラを合宿所の大部屋に運んでいってくれたのだった。



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