長編3 黒バス×TOL
第2話
水の民の里に着き、少しの混乱はあったが、水の民の長であるマウリッツによって集会所のような場所に移動して、場は落ち着いた。
集会所といってもここはマウリッツの家でもあるので、要件があるウィル達が椅子に座り、残りのメンバーは壁に背を預けて様子を見ている。
少し沈黙が続いたが、先に口を開いたのはマウリッツだった。
「アーリア…ステラ…無事で何よりだ。きっとシャーリィも喜ぶだろう」
「ご心配をおかけしてすみませんでした」
マウリッツの言葉に黒子を謝罪をする。
「別に君を責めている訳ではないよ。先ほどシャーリィを呼びにフェニモールが出て行ったから、もう少しで来るはずだ。その間に君は奥の部屋で着替えて来なさい」
マウリッツは部下にもって来さえた服を黒子に渡して、黒子は奥の部屋に向かった。
しかし恐らく聞こえたのは赤司だけだろう。
マウリッツはは奥の部屋に向かう黒子を見ながら、「これなら儀式も従来の形で執り行うことができる」と呟いていた。
マウリッツは表向きは陸の民にも寛容な態度だが、この態度は全て嘘であると天帝の眼を持つ赤司は見抜いていた。
しかし今それを指摘するにはあまりに情報が少ない為、もう少し様子を見ようと赤司は不審に思われない程度でマウリッツを見ていた。
そんな時だった。
「お姉ちゃん!アーリア!」
「ちょっとシャーリィ落ち着いてっ!」
入り口から先ほどまで自分たちを案内してくれたフェ二モールとステラに面影がある白に近い綺麗な金色の髪の少女が入って来た。
フェニモールにシャーリィと呼ばれた少女は、集会所を見渡し奥のマウリッツの傍にいたステラに駆け寄った。
「お姉ちゃんっ!お姉ちゃんっ!!」
泣きながらステラに抱きつく少女、恐らくこの少女がステラの妹であり黒子にとっての姉のような存在であるシャーリィだろう。
「シャーリィ、落ちつきなさい。ステラさん困ってるわよ」
フェニモールの言葉にシャーリィはハッとする。
「ご…ごめんねお姉ちゃん…」
「良いのよ。…シャーリィ…心配かけたわね…ごめんね…あなたが辛いとき悲しい時に傍にいてあげなくて…」
「お姉ちゃんは悪くないよ!それにお姉ちゃんは三年間ずっと私たちを見守ってくれていたじゃない!だから私のほうこそありがとうお姉ちゃん…きっとお兄ちゃんもワルターも同じことを言うと思う」
「優しい子に育ったわね…あの時は最後になるかもしれないと思って言ったけど…もう一度言うわ。シャーリィ…あなたの力はみんなを幸せに…そしてアーリアを支える為の力よ…どうかゆっくり育んで…」
「…うんっ…うんっ…」
シャーリィの涙を見てフェニモールも嬉しくなった。
この里に水の民としてメルネスとして戻って来てからの1ヶ月間、シャーリィは常に気を張っていたし、弱音を見せることはなかった。
弟のような存在のアーリアは行方不明で、姉であるステラは死亡したと思われ、兄であるセネルと幼なじみのワルターは大陸の水の民の里に行き、シャーリィを支えるものはなかったのだ。
口が悪い水の民は小声でシャーリィが三年間ウェルテスの街でいたことを非難し、「メルヴィオ様が亡くなったら早く儀式をするべきだった」と言う者もいた。
そんな言葉にフェニモールはシャーリィは必死でやっているじゃない!と叫んだがそれ以上は言えなかった。
シャーリィがいいよと首を横に振ったのと、自分もシャーリィに不満をぶつける水の民と同じ言葉を言ったことがあるからだ。
でも今、ステラに対して抱きつき涙を流す少女はやはりメルネス様というより、年相応の女の子の思えた。
フェニモールはこの時に思った。
この笑顔を守りたいと。
「…あっ…そういえばアーリアは!?」
姉ステラのことで周りを見ていなかったシャーリィは少しハッとして姉と共に帰還したもう1人の家族の存在を思い出す。
キョロキョロするシャーリィにステラはクスリと笑う。
「シャーリィ、僕ならこちらですよ」
奥の部屋から現れた黒子はいつもの誠凛のジャージではなく、この里の住人達が着ている独特な民族服に青色のマント、黒子の髪色や瞳の色に合っていた。
「黒子…?」
いつもと雰囲気の違う黒子に黒子を知るメンバーは呆然とする。
恐らくこの姿が水の民としての黒子…いやアーリア・ウェルリアンなのだろう。
「はい、黒子は僕ですよ。アーリアも黒子テツヤも同じぐらい大切な僕の名前ですからね。それよりシャーリィ…今までよく僕に変わって水の民の重荷を使命を背負ってくれてありがとうございます。いろいろ説明は省きますが僕は今は16歳なのでシャーリィより年上なので、これからは僕も頼ってくださいね」
その言葉にシャーリィは涙腺崩壊したようにアーリアに抱きつき、「ごめんなさい…ごめんなさい…」と謝罪をする。
「シャーリィ…それは何に対する謝罪ですか?」
「アーリアがいない間、私がしっかり水の民を導かないといけないのに…出来なかったから…結局アーリアに水の民の命運を託すことになってしまう…私…役にたてなくて…アーリアを支えることも出来なくては…ごめんね…」
謝罪を何回もするシャーリィに黒子は両手で軽くパンと頬を叩き俯いているシャーリィの顔を上げて自分と目を合わす。
「シャーリィ…さっきステラも言っていたでしょ。あなたの力は皆を幸せにするための力…シャーリィ…シャーリィのペースでゆっくり育んでくれたら嬉しいよ」
黒子の言葉にシャーリィは「うんうん」と傾き笑顔を見せる。
とりあえず場は落ち着き、マウリッツがわざとゴホンと咳払いをして場を支配する。
「ステラ、シャーリィ、アーリア…感動の再会は後にしなさい。アーリア…君は三年前の襲撃から何があったのか詳しく説明してくれるね」
マウリッツの言葉に黒子は嘘偽りなく向こうの世界で暮らしていた六年間の生活を簡潔に説明した。
赤司達のことも容姿は確かに陸の民だが、自分を支えたいと願いこの世界まで一緒に来てくれた大切な仲間だと。
「あなた方にとってのアーリアは黒子テツヤは俺たちにとって大切な友人です。ここにいる全員、黒子が繋いだ絆です。興味本位でこの世界に来た訳ではありません」
黒子の説明に赤司も付け加える。
自分たちにとってどれだけ黒子がたいせつなのかを訴えるのだった。
「話はわかった。アーリア…違う世界とは信じられないが、君のテルクェスの力なら可能だろう。そして一つ確認したい。アーリア…こな世界に戻ってきたということは儀式を受ける覚悟はあるんだね?」
「はい」
マウリッツの問いかけに黒子は目をそらさずに答える。
その言葉にマウリッツは満足したようだが赤司達の中には疑問め生まれた。
『儀式って何だ?嫌な予感しかしないな』
しかし今の状況では儀式について詳しく聞けそうにないので、赤司達は後でちゃんと説明してもらおうとおもった。
「儀式の準備には数日かかる。それまでゆっくりしといてくれたまえ」
「あのマウリッツ村長、聖レクサリア皇国のマダム・ミュゼットより親書を預かってます」
「あぁ確かに受け取ったよ。さと数日間だがウィル君たちは集会所を使うと良い。ただ全員は入らないな…」
「マウリッツ長、僕たちの家も6人ぐらいなら宿泊可能です。赤司くん、緑間くん、黄瀬くん、青峰くん、紫原くん、桃井さんは僕の家へ。構いませんか?ステラ、シャーリィ?」
「構わないわよ。向こうの世界のアーリアのこと詳しく知りたいしね」
「私も構わないよ。私たちが知らないアーリアのこと私も知りたいもの」
結局、ウィル達や相棒組はマウリッツが用意した宿泊所で、キセキの世代と桃井はステラやシャーリィやアーリアの家で泊まらせてもらった。
シャーリィは久しぶりに家族やその家族が大切にしている人たちとの楽しい夜に心踊らせていた。
そしてはっと我に帰る。
私はこの人たちにきちんと自己紹介をしていないと。
「あっあの…すみません!私、まだきちんと自己紹介していませんでしたよね?私はシャーリィです。誠名はフェンネスです」
シャーリィの自己紹介を聞いて、桃井が黒子にシャーリィの誠名の意味を聞く。
桃井はこのファミリーネームを持たずに、人の本質を表した誠名という風習はとても素敵だと思っていた。
だからこそ知りたいと願い黒子に尋ねる。
黒子もシャーリィに視線を向けるが、シャーリィをアーリアが信頼している人ならと教えでも大丈夫とコクリと頷く。
「シャーリィの誠名のフェンネスには『祈る人』という意味があります」
黒子の言葉を聞いて桃井は素敵な名前だね!と頭を撫でる。
兄や姉や幼なじみ以外にされたことがないシャーリィはきょとんとしてしまったが、すぐに嬉しそうな表情をする。
「私一人っ子だし、手のかかる幼なじみもいるし、シャーリィちゃんみたいな可愛い妹欲したっの!迷惑かな?」
桃井の言葉にシャーリィは首を横に振り、頭を下げて「宜しくお願いします桃井お姉ちゃん!」と懐くのだった。
その後は夕食はステラとシャーリィがメインで作り、キセキの世代達は桃井がキッチンに向かうのを全力で止めた。
その一連の行動でステラとシャーリィは悟った。
『桃井(お姉ちゃん)さん』は料理レベルが低いのだと。
夕食は野菜サラダにシチューだった。
シチューなんて黒子達の世界ではありふれたものだが、こんな心も温まるシチューを食べたのは初めてだった。
ほのぼのとした夕食が終わり、片付けをして全員各々の場所で座っているのを確認した赤司は目の前に座る黒子の目を見ながら、ある疑問を問いかける。
「黒子…儀式って何なんだ?」
何かが動いている…自分たちの知らないところで何かが…赤司はふと嫌な予感がするのだった。
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