短編小説
兄弟
時期は本編〜未来への系譜編辺り。
その日は身体に違和感があった。
目覚めると身体の節々が痛く、風邪の引き初めだなぁとアスベルは思ったが、まだ領主になったばかりの自分が風邪で倒れては領民に示しがきかない。
アスベルは首を横に振り、何でもないように立ち上がり着替えをして執務室に向かった。
途中フレデリックが朝食をと話しかけてきたが、今は食欲もなく食べる気持ちにもなれない。
しかしここで食事を断ると変に思われるのでアスベルは「今日中に片付けたい書類があるから、食事は後で良い」と言い執務室に入って行った。
執務室の机にある書類の山にため息をつきたくなるが、アスベルは1つ1つ裁いていく。
どれぐらい時間が経ったかは知らないが、突然執務室の扉が大きな音でノックされて、慌てた様子でバリーが駆け寄ってくる。
「アスベル様!東ラント街道で例のモンスターです!!直ぐに応援をお願いします!!」
「わかった!すぐに向かう!!」
アスベルは剣を取り出ていこうとするが、突然頭に強い頭痛を感じて思わず踞る。
風邪が悪化してきたかと思うが、今倒れる訳にはいかない。
アスベルは根性で立ち上がるが、どうにも足がふらつき床に激突しそうになるが、そんなアスベルの身体を支える人物がいた。
「ヒュー…バート…何で…」
「喋らないください。たまたまウィンドルに任務があったんで、早く任務が終わりラントに顔を見せに来ただけです。それより兄さん、こんな熱で一体何処に向かうつもりですか!?」
ヒューバートの問いにアスベルは罰が悪そうな表情をするが、「自分が行かないと」と朦朧する意識で立ち上がろうとする。
「モンスターなら僕が何とかしますから、兄さんは休んでください!兄さんが無理をしたら皆さん悲しみます。…もちろん…僕も…」
最後の呟きは朦朧としているアスベルには聞こえていないかもしれないが、ヒューバートは近くにいたメイドにアスベルを託してモンスター退治の為に東ラント街道に向かって走って行った。
「皆、兄さんのことが大好きなんですよ。だからあまり無理はしないでください」
走りながら呟くヒューバートの呟きは誰にも聞こえなかった。
後日。
アスベルは領主の激務からの風邪だったらしく、数日休んで回復したが、起きてまず目に入ったのは、任務の為にストラタに帰った弟のお説教の手紙だった。
アスベルはその手紙を大事に机のデクスにしまい、ヒューバートにお礼の手紙を書くのだった。
数日後ストラタのオズウェル家に届いた手紙を読んで、顔を赤くするヒューバートの姿がオズウェル家のメイドに確認された。
「素直にお礼を言い過ぎですよ!特にこのやっぱり俺にはお前がいないとな…なんて恋人にあてる手紙じゃないんですから!!」
そう怒りながらも、その手紙もヒューバートの執務室の机に大切にしまわれた。
END
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