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レンズ

しかし、今日は違った。

いつも言ってくれる「ただいま。」という言葉がなかった。

ただ目を赤らめて、少し震える唇でつぶやく。

「サヨナラ。先輩。」

「…サヨナラってどういうことですか?!」

ただならぬ雰囲気に私は話をせずにはいられなかった。

「俺、もう…ここを辞めるんです。」

「どうしてですか?!ずっと居ればいいじゃないですか。」

「はは。嬉しいッス。先輩にそんなこと言ってもらえて。俺、先輩にずっと嫌われてると思ってましたから。」

笑おうとしているが全然笑えてない。

それが、逆に悲しみを倍増させた。

「でも、契約していた期限が今日で終わりなんスよ。あ。でも、代わりのやつが来るんで、安心してください。」

「代わりなんて…、あなたの代わりなんていません。」

あいつは下を向いて困ったようにに頭をかく。

「そんなこと言わずに仲良くしてやって下さいよ。」

私は泣きそうになっているのを隠すのも忘れてあいつを見つめ続けた。

やっとこっちを向いた目とできるだけ長く目を合わせていたかった。


「やっぱり…ダメだ。」

急にあいつが視界から消え、温かさに包まれる。

ここに来た時の元気が失われ、少し痩せた体。

本当にもう行ってしまうのだと、実感した。

私の我が儘はこいつを苦しめるだけなんだ。

すっと離れていくあいつをもう引き止めることができず、その代わりに、涙が溢れる。


あいつの代わりに来たやつは、あいつにそっくりで、でも全く似てなかった。

仲良くと言われたけど、二人分の恨みの込もったそいつと仲良くなれそうになかった。


END


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