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レンズ

「え。気づいてなかったんッスか?」

キョトンとした顔で私を見つめる。

しばらくの沈黙が流れた。

私に考える時間をくれたのだろう。

しかし、全くそれらしい人物が出てこない。

「…し、知りませんでした。」

「おかしいッスね…。先輩も見てるはずッスよ。」

「ど…どうせ、あなたと一緒に行くようになってからでしょう?」

御主人様のことで私に知らないことがあるなんて。と私は動揺した。

「中川って知らないッスか?髪の長いストレートの子。」

「あ…、ああ、あの子ですか。」

そういえば、よく視界に入っていた気がする。

そういうことだったのか。

こいつも意外と御主人様のことを見ているんだな。

同業者として初めてこいつに感心した。

相手を尊敬すると今までの意地はすっと消え、素直に話をすることができた。

しかし、すぐに私は御主人様のもとにお世話に行ったので、案外話す時間は短かった。

御主人様の熱は下がり、次の日からはいつも通り学校へ向かった。

だから、あいつとはまた挨拶をするだけになった。

もう一度きちんと話したいと思っているのだが、せっかく話しかてくれるあいつを前と同じような挨拶で遮ってしまう。

それでもあいつはニコニコしている。

私は一人になると、何をしているんだと自己嫌悪に陥った。


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あきゅろす。
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